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スイスの畑より心を込めて、ハーブ・エッセンス

見渡す限りに黄色の花を咲かせる菜の花畑で、観光客を引き寄せることもできるのではないか swissinfo.ch

スイスの農産物といえば乳製品。しかし、スイス農業・酪農家協会 ( SBV/ USP) のコンペティションにノミネートされ、受賞者決定前からマスコミに取りざたされているのは、「香り」だ。

アーレ川に屋根つきの木橋が架かるベルン州の町、ヴァンゲン・アン・デル・アーレ ( Wangen an der Aare ) で栽培されたハーブの香りを使った化粧品に、高い評価が下ったという。

 「『田舎の香水』といえば、別な香りを思い出すことでしょうが」とほほ笑むのはヴァンゲンで農業を営むフリッツ・ヘスさん ( 53歳 ) 。地域の9戸の農家と協力し、スイスの香りをうたった化粧品ライン「スイスエッセンス( suissessences ) 」を2005年春から製造し始めた。

WTOなどなんのその

 10月末、ドリス・ロイタルト経済相はスイスにおける農業および食品分野において、欧州連合 ( EU ) との完全自由化を推し進める方針を明らかにした。そもそも、世界貿易機構 ( WTO ) の加盟国スイスは、市場の自由化は避けて通れない。農業の自由化により国外の安価な農作物が国内に流入することを前提にスイスの農家は今、新しい農法や農産物の開発を模索している。

 「自由化に抵抗するのではなく、これを機会に前進したい」とヘスさんは言う。ヘスさんに限らず、スイスの農家はどうしても単価が高くつく農産物を、特化することで国外から流入する安価な農産物に対応しようとしてきた。その代表が有機栽培だ。「以前、有機栽培といえば、素朴な農家の手作りといったイメージでしたが、今は違います。有機栽培の野菜が、モダンで格好の良いライフスタイルの一部になっているのです」。その延長線上にあるのが「スイスエッセンス」というわけだ。

スイスを仏プロバンスにする

 香りといったら、フランスのプロバンス地方グラース市が有名。スイスとハーブはあまり関係がなさそうなのだが、ヘスさんはスイスに本社のある世界的な香料会社「ジボダン ( Givaudan ) 」やハーブキャンディの「リコラ ( Ricola ) 」などを挙げ、こうした先入観を修正する。「確かに、南欧には多くのハーブが生息します。しかし、温暖化にともない、南欧はハーブには暑すぎるようになり、一方、スイスの気温は上がりハーブに適した土地になるかもしれない」とヘスさんは言う。

 「黄色い花が満開となるナタネ油用の菜の花畑が、観光にも寄与するかもしれません。アルプスの中腹にラヴェンダーを栽培することも考えられます」とスイスオリジナルの化粧品がもたらす観光業へのメリットも指摘する。

 ハンドクリーム、ボディークリーム、シャワージェル、ボディーオイルがメイン。30代後半から40代の男性、女性に人気があるが、化学薬品が入らない化粧品ということで皮膚科の医師に勧められ、買い求める人もいるという。有名化粧品会社の元社長がマーケティングを手がけていることが理由の1つなのだろうか、年間5000本製造されるチューブは、完売状態にあるという。

 もっともスイスらしい香りを放つのはシャワージェル。アルプスの森林を思い起こさせるトウヒのエッセンスだ。肌と水素イオン濃度 ( pH濃度 ) が同じナタネ油を使ったボディーオイルは世界でも珍しい。ナタネ油は、酸化しやすいため化粧品に使うにはあまり適していないのだが、ヘスさんは酸化問題を解決し肌のためにこだわったという。

 作業服から背広とネクタイに着替えたヘスさんたちは、11月15日に首都ベルンで行われるコンペの舞台に立つ。スイスの畑で栽培されたハーブを通し、新しいライフスタイルを提案する。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )  ヴァンゲン・アン・デル・アーレにて

<スイスエッセンス>
ヘスさんたちの畑で栽培されたナツメグ、サルビア、レモン・メリッサ、ミント、ラベンダーを中心に、イランイラン、ローズゼラニウム、ツェーデルなどスイスでは生育しないハーブを配合。オイルも自前のナタネ油を使用。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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