スイス下院、テロ対策法強化可決

「我々は恐れない」――2015年1月7日、仏誌シャルリー・エブドが襲撃され12人が犠牲となった事件を受けた集会で、フランスの人々はこう叫んだ。 Keystone / Ian Langsdon

スイス国民議会(下院)は16日、テロ対策として軍装備の増強案を可決した。刑法専門家からは「テロ行為の処罰を超え、単に意思を持つだけで処罰の対象となる可能性がある」との指摘が出ている。

近年欧州でテロ事件が相次いだが、スイスはこれまでのところ難を逃れている。それでもスイス政府はテロ対策を強化する方針だ。テロ対策強化案の第1部は、人権に抵触するとの批判を受けていたにもかかわらず、上院に続いて下院も16日に法案を可決した。

テロ対策改正法案第1部は、刑法とテロに対する国際協力を強化する。テロ行為を目的とした人員募集や訓練、移動、資金調達活動を処罰の対象に加えるのが目玉だ。

より安全だと感じるために、我々は自由の一部を放棄する。不安が少しでも減るように、我々は多くの物を与える。だが不安に駆られて物事を決めると、ろくなことがない

レオノール・ポルシェ、緑の党

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スイスは2015年、欧州評議会のテロ防止条約追加議定書署名した。今回の改正は同議定書に批准するための国内法整備という位置付けだ。目的自体には誰も異論を挟まないが、スイスは条約が求める水準以上の成果を目指しているため、問題が生じている。

安全保障の名のもとに

改正案の決然とした内容を高く評価したのは右派政党だ。「心配されるのはスイス人の安全だ。1つも攻撃を受けず、1人も犠牲者を出さないようにするこの改正案が成立すれば、この作業は無駄にはならない」。保守系右派・国民党のジャン・リュック・アドール議員はこう主張した。

1つも攻撃を受けず、1人も犠牲者を出さないようにするこの改正案が成立すれば、この作業は無駄にはならない

ジャン・リュック・アドール、国民党

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一方、左派政党は犯罪行為を行うまえに有罪判決が下される可能性があることを懸念する。緑の党のレオノール・ポルシェ議員は安全の確約は誤っていると批判し、刑法が13年間で60カ所もの修正が必要だったことを引き合いに出した。「より安全だと感じるために、我々は自由の一部を放棄する。不安が少しでも減るように、我々は多くの物を与える。だが不安に駆られて物事を決めると、ろくなことがない」

冤罪のリスク

テロ対策法改正案は国内外で専門家の批判を受けている。

2015年11月13日、国際テロ組織「イスラム国」がレストランやコンサートホールを爆撃。120人以上の死者を出し、フランス中枢に衝撃を与えた。 Keystone / Ian Langsdon

ローザンヌ大学刑法センターの博士課程、カストリオット・ルビシュタニ氏もその1人だ。特に疑問視するのは、犯罪行為を実行する前に有罪判決が言い渡される可能性があることだ。「他の国でジハード(聖戦)に参加するためにバスに乗ったり電車に乗り換えたりした人や、いつか爆弾の原料になりうる物資を他の製品と一緒に購入した人も、犯罪者に仕立て上げることができる。それは我々が防ぎたい行為とはかけ離れている」

リスクは、無害な行為や無罪の人間に有罪判決が下されることだ。「意図があると思い込んでいるが、確信はもてない。その行為を罰する代わりにその意図を罰することになる」(ルビシュタニ氏)

それを避けるため、ドイツでは行為者が取った行動に基づいた処罰体系を構築してきた。「有罪とするには、行為者が行動を起こす意思を固めていることを具体的な証拠で示さなければならない」。ルビシュタニ氏によると、それにより広範に定義づけられた犯罪行為の性質を狭めることができる。

不明瞭な法律

多くの非政府組織(NGO)がテロ対策改正案に反対している。加えて国連人権高等弁務官事務所が昨年5月、スイス政府に対し不明確な法文に対し警告を発した。改正案は、欧州理事会のドゥニャ・ミジャトビッチ人権担当委員からも批判を浴びた。下院の安全保障委員会に宛てた書簡の中で、同氏は複数の条項に人権の観点から問題があると指摘した。

19日午前には、テロ対策法改正案第2部も上院に続いて下院で可決された。テロリストの活動を抑止するため、連邦警察が危険人物に報告・聴取義務や接触・接近禁止、自宅軟禁や旅行禁止を命じることができる。一部修正を加えたため、第1部、第2部とも上院で再度審議する。

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