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スイス工具メーカー経営者:「中国での需要はコロナ前より増えた」

PBスイスツールズのトップ、エヴァ・ヤイスリ氏は、教員免許取得後ベルン大学で心理学を学んだ。また、国際マーケティングでMBAも取得。2015年、ベルン大学から名誉博士号を授与された Keystone / Christian Merz

チーズで有名なエメンタール地方には、1878年に創業し、高精度の工具やツールの開発・製造を専門とするPBスイスツールズ(PB Swiss Tools)がある。この業界では珍しく、そのトップに立つのは女性のエヴァ・ヤイスリ氏だ。

このコンテンツは 2021/06/08 08:30
Philippe Monnier

ヤイスリ氏は25年以上前からPBスイスツールズの経営に携わってきた。家族経営の同社はベルン州の小さな村、ヴァーゼン・イム・エメンタールで従業員180人を雇用し、製品の3分の2以上を約80カ国に輸出している。

ヤイスリ氏は実践的で精力的な経営者の1人として、スイス経済の保護にも積極的に携わっている。中小企業の国外進出を促進する政府機関「スイス・グローバル・エンタープライズ(S-GE)」の副会長の他にも、機械・電気・金属産業連盟「スイスメム(Swissmem)」副会長、スイス経済最大のロビー団体「エコノミースイス(economiesuisse)」の委員を務める。

スイスの産業界が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で大きな打撃を受ける中、ヤイスリ氏は自身が率いるPBスイスツールズは十分な体制を整えており、欧州とアジアでの市場シェアを拡大し得る良い位置にあると話す。

シリーズ「指揮を取る女性」

スイス経済の上層部で女性が占める割合はまだまだ低い。例えばスイスの主要株式指数SMIを構成する大手企業20社で、女性管理職の割合はわずか13%。国際比較ではスイスはこの点において劣っている。swissinfo.chでは今年1年間、世界に展開するスイス企業の女性経営者の意見に耳を傾けていく。スイス経済の代表たちが、新型コロナウイルス危機から世界経済におけるスイスの立ち位置まで、現在の最も差し迫った課題について語る。

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swissinfo.ch:御社はパンデミックでどのような影響を受けましたか?国からの支援は?

エヴァ・ヤイスリ:2020年の数カ月間は、市場が落ち込んでいたため操業短縮制度で補償を受けました。ですが今は順調です。ほぼ全ての市場が回復し、一部の欧州諸国や中国ではパンデミック前よりも需要が高まっています。また、スイスフランがわずかに下落したことも追い風となりました。まもなく渡航制限が解除され、国外の顧客を訪問したり見本市に参加したりできるようになることを願っています。

「特許を申請するよりもイノベーションに投資したい」

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swissinfo.ch:製品の大半が輸出されていますが、成長のチャンスがあるのはどの国ですか?

ヤイスリ:欧州連合(EU)が当社の成長の主な踏み台になっています。市場は成熟していますが、革新的なソリューションを提供することで、さらに市場シェアを拡大するチャンスがあります。私たちのような企業にとっては、EUのような市場へのアクセスは絶対に不可欠です。中国、インド、インドネシアなどの新興国でも大きな成長チャンスがあります。

swissinfo.ch:国ごとに収益性が大きく異なるのですか?

ヤイスリ:そうです。新規市場に参入する際には、多額の投資が必要になるため、数年間は赤字を覚悟しなければなりません。この準備期間は現地でブランドを確立し、顧客の信用を得る上で必要なことです。収益はその後にしか生まれません。

swissinfo.ch:現在、多くの外部販売パートナーを介して製品を販売されています。将来的に自社の子会社で販売する計画はありますか?

ヤイスリ:弊社は約3千種類の製品を製造していますが、私たちの顧客はさらに多くのツールや機器を必要としています。そのため、8万~30万種の製品を取り扱う販売代理店を通した販売を続けていくほうが有利です。

swissinfo.ch:ですが中国には子会社があります。

ヤイスリ:中国支社は唯一の子会社です。最終顧客に直接販売するのが使命ではなく、大規模な中国市場について情報を収集することが目的です。また、この子会社が中国の販売業者との交渉も担当しています。

Swiss Tools Ag

swissinfo.ch:直接販売するのはどのような場合ですか?

ヤイスリ:オーダーメイドの製品を販売する時だけです。定番商品は、外部販売網との競争になっては意味がないので当社から直接販売することはありません。

「当社のブランド力と、スイスメイドであるという評判は、真似することのできない、顧客に高く評価される切り札であり続けるでしょう

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swissinfo.ch:2006年に社名を「PBバウマン(PB Baumann)」から「PBスイスツールズ」に変更した理由は?

ヤイスリ:社名変更の前に顧客調査をする機会があったのですが、顧客は、当社製品がスイスで製造されていること、スイスメイドの高い品質であることを最も評価していました。それで社名変更をしようと思ったのです。幸いにも商業登記所からも認められました。

swissinfo.ch:品質を保証するため、御社はスイスの自社工場での製造にこだわっています。ポルシェなどのメーカーは、生産の8割を国外などに委託して品質の高い車を製造していますが…。

ヤイスリ:原則として私たちは、コスト面で競争力を維持できる限り、スイス国内で製品を作り続けるつもりです。ですが、全てを自社製造しているわけではありません。例えば、組込みシステムなど、一部の部品は購入しています。海外の業者とも取引があります。ドイツの鉄鋼専門企業と共同で独自の製造プロセスを開発し、協働しています。

swissinfo.ch:プロ用ツールの商品展開は約3千種類と相当な数です。単価を下げるために、商品数を減らすことは検討していますか?

ヤイスリ:プロフェッショナル用工具のラインナップは常に見直されており、毎年、一定数の製品がリリースされ、削除されています。この数年間では約100種類の新製品が加わりました。

豊富な商品展開をすれば、バリューチェーン(価値連鎖)全体が複雑になりコストがかかることは十分承知していますが、顧客を満足させるためにはこのように多種多様な製品を提供することが必要だと確信しています。

swissinfo.ch:御社のイノベーションをどう保護していますか?

ヤイスリ:原則として、当社は新技術の特許を申請したり、企業秘密にしたりはしません。いずれにせよ、特許は知的財産を十分に保護できませんから。そのため、特許を申請・取得するよりも、例えば大学や高等専門学校との共同プロジェクトなどを通してイノベーションに投資したいと考えています。

私たちの最大の付加価値は、複雑で真似のできない多種多様のプロセスに熟達していることです。私たちは可能な限り高い基準を確立し、何かのコピーではなく真正品であると認識されることによって、イノベーションを守っていきたいと考えています。

swissinfo.ch:中期的には、アジアの企業などが御社製品と同品質の製品を製造できるようになると思いますか?

ヤイスリ:すでに、日本のある企業が私たちとほぼ同レベルにあります。この日本企業とは定期的に意見交換をしています。

swissinfo.ch:中国企業はどうですか?

ヤイスリ:中国企業が本気で私たちの品質レベルを目指し、そのための手段を講じるならば、それもあり得るでしょう。ですが、最新の中国5カ年計画では、政府は人工知能やロボット開発、エコロジーなどの分野を重視しています。結局のところ、高い品質そのものに加え、当社のブランド力とスイスメイドであるという評判は、真似することのできない、顧客に高く評価される切り札であり続けるでしょう。

swissinfo.ch:合併や買収による企業成長に対する考えは?

ヤイスリ:私たちはこれまでに企業を買収したことはなく、これから先もするつもりはありません。理論的には、私たちが外注しているプロセスの、亜鉛メッキ加工工程を専門とする企業を買収することもできます。ですが、総合的に見るとその利益は明白ではありません。それに、当社にとって負債になる場合には特に、私たちの専門分野以外の企業を買収することはできません。

swissinfo.ch:例えば、浮動株数を制限するなどして株式市場に上場することは検討していますか?

ヤイスリ:全く考えていません。私たちは、完全に独立した家族経営企業と言うステータスに満足しています。そうあり続けることで、最大にスピード感のある経営を維持することができるのです。

「税制上の優遇措置を求めてPBスイスツールズが他州に移転することなどあり得ない」

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swissinfo.ch:ベルン州では特に法人税が高いですが、スイスのビジネス環境に満足していますか?

ヤイスリ:確かに他州に比べるとベルン州の法人税は高いのですが、それは道路や学校、病院など、質の高い充実したインフラに対して払うべき対価なのです。いずれにせよ、当社の従業員はベルン州の地元に生活基盤があるため、税制上の優遇措置を求めて当社が他州に移転することなどあり得ません。

swissinfo.ch:PBスイスツールズ社の20年後は?

最も重要なのは、私たちが顧客が期待する以上の製品を提供し続けることです。プロフェッショナル工具では、電動ドライバーに加え、制御装置やロボット機能、センサーを搭載したドライバーなど、開発の道がいくつかあります。

13年には、プロの工具と同様の技術力を必要とする医療機器分野にも参入しました。今後もこの分野での発展を目指します。また、様々なサイズ・口径に対応するサービスや、適切な工具・機器を選定する際、工具一式を刷新する際などのアドバイスといったサービスの提供を強化していくつもりです。

(仏語からの翻訳・由比かおり)

JTI基準に準拠

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