マイナス金利からの撤退は癒しにも、痛手にもなる

スイスは約8年ぶりにマイナス金利政策からの脱却を決めた。この方針転換について、スイス公共放送(SRF)の経済専門記者はどう見たか。
ここ数年、スイス経済はパーティームードが続いていた。ユーロ安・フラン高という外部からのマイナス要素に対し、スイス国立銀行(スイス中銀、SNB)はカンフル剤を打った。その1つがマイナス金利政策の導入だった。これは無論、企業活動にはプラスにはたらいた。
専門家は、2015年のマイナス金利導入を「ナンセンス」「危険」と批判するか、「創造的」「必要」と賞賛するかのどちらかに分かれた。ただこれまでを振り返って1つ言えるのは、国内経済は比較的順調だったということだ。
パーティー後の二日酔い
しかし、その低金利政策があって初めて生き延びることができた企業もある。群衆の中で目立たなかったが、遅かれ早かれーパーティが終わればー二日酔いがやってくる。それは国内経済の中において倒産、債務超過、国家補助という形で現れる。
債務生活にあぐらをかいていたゾンビ企業は突然、厳しい現実に引き戻される。株価の下落で積立金を食いつぶす、まずい投資戦略をとる年金基金も然りだ。
取り立てて秀でたビジネスアイデアでもないのに、単なる投資先として資金を投入されたスタートアップ企業もそうだ。そして投資目的で不動産を買った人たちも突如として、利息を払わなければならなくなる。
SNBが利上げするたび、二日酔いムードが広がる。マイナス金利政策からの撤退はある部分では痛手だが、それは8年間続いた経済の非常識からの離反も意味する。なぜなら、負債が報われ、貯蓄が罰せられる世界では間違ったインセンティブが働き、間違った配分をもたらすからだ。
「脱薬物」が必要
長い間、ユーロと欧州中央銀行(ECB)の人質と化していたSNBは、インフレ率の上昇により自由を取り戻した。利上げでインフレに対抗すれば、スイスのパーティームードが減速し、構造見直しにつながる可能性は高い。だが同時にスイス経済が健全な道に戻るチャンスも増える。
今回の0.75%の利上げという、脱薬物療法ともいえる決定は過激すぎるのか、それとも現状を鑑みると適切なのか。議論の余地はある。だが、少なくとも健全な金利水準に戻る道筋は正しい。
独語からの翻訳・宇田薫
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