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リビア12月選挙へ、国際社会の期待に応えられるか

主にサハラ砂漠以南のアフリカから来た難民が、リビアを覆う混乱と不安定さの犠牲になっている Keystone / Manu Brabo

リビアで12月24日に国連の支援の下で自由選挙を実施するとの決定は、同国の安定化と再建に向けた重要な一歩だ。リビア和平に向けてスイスが果たそうとする役割やスイスの国益は何か。

このコンテンツは 2021/10/22 06:00
Rachid Khechana

リビアでは、ムアンマル・カダフィ大佐による独裁政権が2011年に崩壊して以来、権力闘争が続く。14年以降は、西部を拠点とし、国連の承認を受けた「国民合意政府(GNA)」と、東部を拠点とし、自称「元帥」のハリファ・ハフタル司令官が率いる武装組織「リビア国民軍(LNA)」が対立している。

アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、ロシア、フランスの支援を受けたハフタル司令官の部隊は昨年6月、「トリポリの戦い」でトルコとカタールの軍や傭兵に敗れた。これがリビア内戦の転機となり、国際社会の圧力の下で、両陣営による停戦協定の締結、国家統一までの暫定政府の樹立、自由選挙実施の合意につながった。

大きな前進

リビア問題を担当するステファニー・ウィリアムズ国連事務総長特別代表代行が「リビア内対話の最初の具体的成果」と呼ぶ12月の大統領選、議会選には争点が2つある。紛争の国際化を防ぐことと、国の富のほとんどが集中する東部のキレナイカ地方と西部のトリポリタニア地方とに国が分裂する可能性を回避することだ。

在リビア大使館を再開したいスイス

リビアのスイス大使館は2014年以来、治安状況の悪化を受け閉鎖されている。連邦外務省(DFAE)はこれを再開し、リビアで再びプレゼンスを示したい考えだ。DFAEは、スイスがリビアや中東地域で仲介役を果たそうとする上で当然の方策だとしている。

連邦政府はリビア和平に向けた取り組みに非常に積極的だ。国連の和平プロセスを支持し、リビア和平に向けたベルリン・プロセスの枠組みの中で、国際人道法と人権に関する作業部会の共同議長を務める。イグナツィオ・カシス外相は6月、独ベルリンでリビアに関する第2回国際会議に出席した。また、弱い立場の移民に対する人道支援も行っている。

スイスにとって、石油供給国としてのリビアの重要性がここ数年で徐々に低下しているとしても、この砂漠の国が欧州を目指す移民の重要な経由国であることに変わりはない。リビアの移民キャンプの状態は不安定な上、地中海を渡るルートはスイスにとっても慎重を要する問題だ。

過去の両国関係にはカダフィ独裁政権が崩壊するまで困難な時期があった。首都トリポリにあるスイス大使館がカダフィ政権の手先によって包囲され、スイス人のマックス・ゲルディ氏とチュニジアとスイスの二重国籍者のラシド・ハムダニ氏が数カ月にわたり人質となった08年には両国間の緊張がピークに達した。

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だが停戦合意以降、大きな前進が見られた。国際社会では、リビア内戦の解決に向けた国連の仲介努力を支援しようとドイツが立ち上げたプロセスの第2回ベルリン会議が6月23日に開催された。

同会議の目的は、これまでの進展を持続させ、リビアの持続可能な安定に向けた国際社会の支援を強化することだ。3つの主要課題として、年末の選挙実施を目指して「リビア政治対話フォーラム」で採択されたロードマップの実施、選挙に向けた法的枠組みの迅速な採択、外国人戦闘員の撤退を含む昨年10月の停戦協定の完全実施が取り上げられた。

昨年10月23日にジュネーブで停戦協定が調印され、国家機関の再統一が始動、3月に暫定統一政府が設置されたことはいずれも大きな前進だ。

スイスの全面的な関与

国連による政治プロセスのホスト国を務めてきたスイスは2度のベルリン会議に出席した。連邦政府はリビアの和平と安定に向けたプロセスに取り組んでいる。DFAEの報道官はswissinfo.chの取材に対し、「リビアの安定と経済発展はスイスの国益に直接関わる」と語る。

スイスは昨年来、リビア和平に向けたベルリン・プロセスの枠組みで、オランダと「国際人道法と人権」作業部会の共同議長を務める。同会合では特に、文民の保護、人道支援へのアクセス、国際法の普及に関する問題を扱う。

また、リビアの和平と安定に向けたプロセスへの取り組みは、連邦政府の中東・北アフリカ(MENA)地域に関する外交戦略21~24年の「優先事項」に入っている。

具体的には、MENA戦略はスイスのリビアへの取り組みについて、「平和、安全、人権」、「移住と(移民など)苦境にある人々の保護」、「持続可能な開発」の3つを優先事項として掲げる。

経済面では、世界銀行が2千億ドル(約22兆2500億円)の費用と10年の期間を要する見積もるリビアの再建が、さまざまな理由でスイス企業の関心を集めている。

リビアにおけるスイスの人道支援

スイスは過去3年間で約2330万フラン(約27億8300万円)をリビアに投資した。内訳は次のとおり。

・平和と人権の推進:570万フラン

・人道支援:1460万フラン

・移民:300万フラン

リビアにおけるスイスの人道的取り組みの一環で支援を受ける事業は、リビア国内の疎外された地域などにいる最も弱い立場の人々を対象とする。例えば、国際援助をほとんど受けていない南東部のクフラでは、住民に医療サービスを提供している。活動は対象者の健康と福祉を促進するために、プライマリーケア(総合診療)サービス、社会心理的な対症療法、水・公衆衛生・下水の援助、保護サービスの提供を組み合わせた統合的アプローチに基づいて行われる。最近では、住民を新型コロナウイルスのワクチン接種キャンペーンに組み入れる措置が実施された。

移住の分野では、スイスは特に移民や難民の支援を専門とする国連機関の活動を支持している。スイスの支援は、最も弱い立場の人々の保護や援助、移民管理の強化、不法移民のリスクと代替手段に関する意識向上を通じて行われる。また、移民、受け入れコミュニティー、地方当局の間の社会的結束を強化している。

原典:スイス連邦外務省

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不法移民と物議を醸す報告書

さらに、国際人道法や人権の分野で基準とみなされるスイスは、(囚人や移民など)弱い立場の人々や苦境にある人々の保護に特に力を入れている。

移民のひどい生活環境は停戦後、特に悪化している。国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは7月15日に発表した報告書で、サハラ砂漠以南(サブサハラ)のアフリカから来た移民が「人身売買業者による暴力と誘拐の急増」に直面していることを明らかにした。同報告書は、内戦に関連する収入を失った人身売買業者が、恐喝し新たな財源にする目的で移民に目をつけたと指摘する。

移住・移民問題の専門家でチュニジア出身のハッサン・ブバクリ氏は、移民の密売や人身売買をする犯罪組織が11~20年の10年間で、何十万人ものアフリカ系移民を主にリビアに移し、さらに欧州へ移送したと強調する。「14~18年の間に地中海で起きた移民・難民危機は、リビアやシリアの内戦の影響を直接に受けている」と同氏は語る。

北アフリカ諸国におけるテロ攻撃や治安の悪化とそれらが地域社会の安全と存続に与える動揺は、北アフリカ諸国やさらには欧州を目指す移民の流れを助長する追加的な要因となっている。

また、ブバクリ氏は、合法ルートで欧州に入れなかったり、欧州連合(EU)や加盟諸国が資金を提供して強力に支援する地域の治安部隊や沿岸警備隊の取り締まりによって地中海を渡れなかったりしたサブサハラからの移民にとって、今度は北アフリカ諸国が目的地になったと指摘する。移民たちは欧州への渡航準備をしながらも、北アフリカ諸国に定住する。このようにして、学生、運動選手、非正規労働者、家庭内労働に従事する女性、難民、未成年者など新しいタイプのサブサハラ移民が現れている。

選挙成功の現実的可能性

第2回ベルリン会議における前進と効果の先には、12月の選挙は成功するのか、とりわけ全ての紛争当事者が選挙結果を承認するか、という問題がある。

トリポリにあるリビア戦略的研究センターの研究者で政治学者のモスタファ・ラハブ氏は対話委員会が設定した日に選挙が実施されると信じている。同氏は楽観視する根拠として3つの要素を挙げる。まず、国連がこの期日を決め、第2回ベルリン会議が全会一致で追認した。次に、選挙実施プロセスを妨害しようとする個人、団体、国家には、国連が個別的または集団的制裁を課すと脅している。最後に、同氏によると、リビア国民は概して内戦に嫌気がさしており、誰が選挙の勝者になろうとも投票に行くと決めているという。

一方、レバノンの首都ベイルートにあるラフィク・ハリリ研究所のリビア人研究者、モハメッド・エリヤリフ氏はより慎重な見方だ。過激派グループがリビアに及ぼす支配力が12月24日の選挙実施の主な障害になっていると同氏は考えている。さらに悪いことに、国連によるとリビア国内に2~3万人いるとみられる外国軍や傭兵は、暫定統一政府のアブドゥルハミド・ダバイバ首相の支配下にない。

(仏語からの翻訳・江藤真理)

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