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嵐にもまれ、大きく揺れ動く銀行の株価チャート

セルジオ・エルモッティ氏とブレイディ・ ドゥーガン氏。UBSとクレディ・スイスのCEO Keystone

ロンドン銀行間取引金利(Libor)不正操作が発覚し、14億フラン(約1300億円)の罰金を課されたスイスの銀行最大手UBS。業績不振は今年も続く。第2大手のクレディ・スイスも依然低調だ。

 そんな2大銀行は、スイス経済を損なうリスク削減、そして世界市場での生き残りをかけ、それぞれに異なる戦略を発表済みだ。

 しかし、綱渡りをしているという意味では両行とも同じ。綱の片側に落ちれば「規制」という深淵に飲み込まれ、もう片側では「逃した機会」と「失われた利益」という裂け目が口を開いている。株主、競合他社、規制強化が2銀行を取り巻き、何かミスをしないかと手ぐすね引いて待っている。

 1990年半ば以降、UBSとクレディ・スイス(Credit Suisse)という2大ライバル銀行は、似通った戦略を追う傾向を強めてきた。資本を得意分野の資産管理から引き出し、投資部門のキャパシティ拡大に費やしてきたのだ。

 国際的な多くの大銀行と同じく、両行も「架空の富」を追ってきた。クレディ・スイスはいち早く罠(わな)のふたが閉じたことに気がついたが、2大銀行はともに指にやけどを負った。UBSは崩壊寸前となり、2008年、政府が数十億フランに上る支援に踏み切ったおかげでなんとか生きながらえた。

 それから4年、両行のイメージはほとんど改善されないままだ。銀行守秘義務の崩壊を引き起こした脱税問題、ロンドン銀行間取引金利(Libor)操作への関与、そして1人のトレーダーが引き起こした十億フラン単位の不正取引事件など、UBSは相変わらず難局の渦に引き込まれ続けている。

 クレディ・スイスも、UBSよりは小規模ながら脱税問題やLIBOR操作に関わっている。今、特に批判の的となっているのは、ライバルのUBSより有利な立場にいながらそれをうまく利用できなかったことだ。また、スイス国立銀行(スイス中銀/SNB)は6月、新しい規制の迅速な実現化に向けた努力が足りないと両行を責めたが、この辛辣な叱責に対する主な責任はクレディ・スイスにある。

スイス国立銀行(スイス中銀/SNB)が6月にUBSとクレディ・スイスを批判した後、両行は10月にコスト削減対策を発表。

UBSは2015年末までの削減計画を、54億フラン(約5000億円)に増額。人員も1万人削減、投資部門も縮小に。

2012年第3四半期の危険資産総額3億フランを、2017年末までに3分の1減の2億フランにする。高リスクの投資は、1620億フランから700億フランに縮小する予定。

UBSの「バーゼルIII」中核的自己資本(Common Equity Tier 1)は、現在の9.3%から2013年半ばには11.5%に、2014年には13%まで引き上げる計画。

クレディ・スイスは、この夏すでに153億フランの資本増強を発表。2015年末までに40億フラン程度のコスト削減を目指す。

同行の「バーゼルIII」中核的自己資本は、2012年末で9.3%、2013年半ばに10%、同年末には12%近くになる予定。

UBSの年間収支は、1.37兆フラン、クレディ・スイスは1兆フラン強。

強いられた分離

 事態が一変したのは2012年秋。新しい戦略とともに、両行はそれぞれ異なった道に進み出した。

 UBSは投資部門の縮小に踏み切り、事業コンサルティングと資産管理関連以外のサービスをすべて打ち切ると発表した。

 クレディ・スイスはリスクの高い投資を大幅に減らすものの、業務の中止はないと発表。自己資産によるハイリスク取引も続ける。組織を再編成し、ハイリスク業務をグループから切り離したことが唯一の大きな変化だ。

 スイスの金融監督局(Finma)は、どちらの戦略が望ましいかということには言及していない。同局で銀行監督を行うマルク・ブランソンさんは、異なる戦略が出てきたことを歓迎する。

 「国際的な投資銀行がそれぞれ異なる決定を行うようになったのは、ある意味喜ばしい。今回の危機で学んだことは、投資銀行が扱ってきた金融商品はどれも『汚染されていた』ということだ。市場が反発し出したとき、『乗り遅れるな』戦略では銀行は裏の裏までさらけ出すことになる」

ロンドン銀行間取引金利(Libor)不正操作が明るみに出た今週、UBSは14億フラン(約1300億円)の罰金を課され、第3四半期は20億フランから25億フランの赤字となる見込み。

不正操作は、主に日本の子会社UBSセキュリティーズ・ジャパン・リミテッド(UBS Securities Japan Ltd.)で行われていた。

アメリカ、イギリス、スイスにおける捜査は終了したが、新たに香港でUBSが捜査の対象となっている。香港金融管理局(HKMA)は20日、UBSが同国の銀行間取引金利(Hibor)などを操作した疑いがあると発表した。

さらにシンガポールでもUBSを含む銀行数行に対し、同様の捜査が始まる見込み。

更に米マンハッタン検察局も19日、チューリヒ州立銀行(ZKB)の行員3人を脱税ほう助で起訴した。4億2000万ドル(約353億円)を、米当局の目から隠した疑い。

世界の状況

 しかし、投資家がどの戦略を支持しているかは明白だ。UBSの株価はこの大がかりな改編の発表後、急激に上昇。一方、クレディ・スイスの株価は戦略発表後下降気味だ。

 この2大銀行が今後、国際的な大銀行を相手に世界市場でどのような位置を占めていくかは、まだまったくわからない。2013年1月1日に発効する改定「スイス・フィニッシュ」規制は、UBSとクレディ・スイスに対し、国際基準を上回る自己資本を要求している。

 これは競争上、両行に不利となる。だが、欧州連合(EU)でもアメリカでも、各当局は「バーゼルIII」で各国に奨励されている規制を満たすため、これから独自の規制に手を入れて、最終的な形を決めなければならない。

 欧州銀行連盟(EBF)は銀行に十分な準備期間を与えるため、2013年1月1日発効の「バーゼルIII」規制の導入を1年間延ばすよう求めている。アメリカはすでに6カ月先延ばしにすると発表した。

 「スイス・フィニッシュ」は世界の基準よりも厳しいが、専門家はそこに、スイスの2大銀行が他国のライバルより競争に強くなる可能性をみてとる。なぜなら両行は、自分たちに求められているものが何であるかをよく理解しているからだ。UBSもクレディ・スイスも将来の安定性が高まり、その中でそれぞれの戦略を実行していくことができるという見方だ。

リスクは残る

 観測筋によると、両行は新しい規制の要求をうまく満たせる状況にある。しかし、「安全第一」戦略を取るUBSの方が自己資本増資の要求を満たしやすいに違いない。

 クレディ・スイスが投資部門を手放さなかったことは、アナリストにとってそれほど意外なことではない。クレディ・スイスでは、すべてがこの部門にかかっているといえるからだ。しかし、投資部門では変動が続いていることから、この戦略で今後も同部門の世界的なプレーヤーという立場をキープできるかどうかは疑問だ。

(独語からの翻訳・編集 小山千早)

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