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経済力と政治制度 堅調なスイス経済は連邦制のたまもの?

首都ベルンの連邦議事堂

首都ベルンの連邦議事堂

(Keystone)

スイスは他国がうらやむほど好調な経済を維持し、国際競争力ランキングで常に上位に入っている。はたしてスイス経済が成功している理由は、その政治制度にあるのだろうか。

 スイス経済が好調なことは統計をみれば一目瞭然だが、その理由はなかなか説明できない。スイスは国内市場の規模が小さく、国民の平均年収は世界的に高い。それにもかかわらず、国内総生産(GDP)は安定し、ほぼ完全雇用の状態が維持され、(これが最も説明がつきにくいのだが)国際競争力ランキングで常に上位に入っている。

 それはなぜか。これだという答えを見つけるのは至難の業だが、実際、多くの人がこの問いについて考えを巡らせている。一つの可能性として考えられるのは、スイスでは連邦制が国の経済力に影響しているということだ。これについては、モントルー湖畔で最近開かれた全国連邦制会議他のサイトへでも議論された。

世界経済フォーラム スイスが国際競争力ランキングで9年連続世界一、日本は9位

世界経済フォーラムは27日、2017年の国際競争力ランキングを発表し、スイスが9年連続で1位だった。米国が2位、シンガポールが3位で、日本は前年の8位より一つ順位を落とし9位だった。

 はたして連邦制という地方分権的で重層的な政治制度は、国の経済力に影響を与えるのか。答えは単純にイエスだ。シンクタンク「アヴニール・スイス他のサイトへ」のティベール・アドラー氏は全国連邦制会議で「今のスイス経済に競争力があるのは連邦制によるところが大きい」と語り、この意見に反対する人は誰もいなかった。

 では一体なぜ、またどのようにして連邦制は経済競争力を高めるのか。連邦制の特徴には政治プロセスの遅さがあるが、それが理由でないことは確かだ。政治プロセスが遅いと企業活動が促進されるどころか、妨げられることもあるからだ。全国連邦制会議に参加した一人はこう指摘する。「スイスはチーターというよりも、安定的だが歩みの遅いゾウだ」

効率と均等化

 しかし、ゾウは効率的だ。連邦制に関し最近共著を出版した他のサイトへルツェルン大学のクリストフ・シャルテッガー教授他のサイトへ(政治経済学)は、連邦制が経済活動を促す要因は三つあるという。一つ目は効率化だ。連邦制では、地方政府は地域の実情に沿って行政を遂行できる。すると国全体で効率が増し、責任のありかがより明確となり、結果として競争力が促される。

 二つ目に、連邦制は「所得の分配を促し、保障制度として機能する」(シャルテッガー氏)。これは、例えば需要の高い分野に人材が流れる労働市場の流動性のようにシステム全体に関わる場合や、経済力のある地域がそうでない地域に補償金を出す「財政均衡政策他のサイトへ」に代表されるように、国が主導する場合がある。

 三つ目の要因はダメージの緩和だ。連邦制では国全体での政治的・経済的協調性が重視されるため、一つの地域が経済破綻をしても、国の基金や財政均衡政策でそのダメージが緩和される。シャルテッガー氏によると、スイスではこうした経済ショックの約2割が連邦制の諸制度で吸収される。こうして企業はリスクを背負いやすくなり、地域産業が発展しやすくなる(例えばヌーシャテルは時計産業、バーゼルは製薬産業、チューリヒは金融業など)。

イノベーション・ラボと地域間競争

 そして連邦制が持つ最大のメリットは地域間競争による効率化だ。しかし、その効果はさらに可視化しにくい。「スイスの州(または基礎自治体)は規模的にとても小さいが、独自の解決策を模索する『イノベーション・ラボ』のようだ」とシャルテッガー氏。解決策を求めて地域間で競い合うこともあり、ある地域での成功例は最善策として他の地域にも広まるという。

 「州は他の州から学ぶことが出来る」と同氏。その例が教育制度だ。教育政策の大部分は各地域の管轄で、州は他の州から成功例・失敗例を学んでいる。こうしたことは数値で表しにくいが、国全体の成功には極めて重要だという。

 同様のことは、税制度や国内競争にも当てはまる。企業税や、対内直接投資の促進などを巡って各州の間で競争が起きると、(例えば税率に関するランキングで)各州の順位が変わったり、税率と公共サービスの割合が再評価されたりするようになる。スイスでは企業税の税率はルツェルン州で12.3%、ジュネーブ州では24.2%と州によって大幅に異なる。ただ、実際には大企業の多くが税率に関して州と特別な取引を行っている。

 「税率と公共サービスの最も効率的なレベルについては誰も分からない」とシャルテッガー氏。しかし地域間での競争は国全体のメリットとなる。全国連邦制会議では別の参加者が、「常に自己批判をすることは経済発展の維持には欠かせない」と指摘している。

集権化の傾向

 しかし疑問はまだ解決されていない。連邦制は経済的競争力に直接的な影響を与えるのだろうか。それとも経済的競争力が伸びる上で単に邪魔にはならない程度の制度なのだろうか。ジュネーブの政治家ピエール・モーデ氏が全国連邦制会議で言っていたように、連邦制の真価は深刻な危機が訪れた時に示されるのだろうか。

 会議ではこの問いに即答しようとする人はいなかったが、連邦制が不備のない完璧な制度だと考える参加者はほぼいなかった。連邦制のメリットは政治的安定だが、政治プロセスは遅くなる上、連邦・州・基礎自治体の複数のレベルで行政手続きを行うことは企業から敬遠されやすい。

 「スイスの完璧主義に企業が不満を漏らすことがある」と、アールガウ州政府閣僚のウルス・ホフマン氏は指摘。州と基礎自治体は、連邦が出した規制を事細かく守ろうとするため、ビジネスの立ち上げ、給料支払い、事務手続きなどで問題が生じることがあるという(連邦政府は現在、ビジネスの手続きに関するポータルサイトEasyGov.swiss他のサイトへを立ち上げ、この問題を緩和しようとしている)。

 そして地方行政の効率が上がったとしても、連邦、州、基礎自治体で管轄がかぶれば、それが台無しになるかもしれない。どの行政分野がどこの管轄かがはっきりしないと、企業や市民は複数のレベルで同じ手続きをしなくてはならず、時間とお金の無駄になるからだ。こうした手間は、欧州連合(EU)の制度の利用者には馴染みのあることかもしれない。

 「このような構造的問題は解決する必要がある」とシャルテッガー氏。構造的問題が目立ってきているのは、スイスで集権化の傾向が強まっている表れかもしれないという。

 連邦制、政治的安定、経済的競争力。この三つに関しては「プレーヤーの良し悪しよりも、ルールの良さが重要だ」と同氏は語る。


(英語からの翻訳・鹿島田芙美)

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