The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録

バーゼル美術館、ルソー作品の返還要求を拒否 補償に向け交渉

絵画を観賞する人
バーゼル美術館に展示されているアンリ・ルソー「詩人に霊感を与えるミューズ」、1909年。 © Keystone / Georgios Kefalas

バーゼル美術館は16日、アンリ・ルソーが1909年に描いた「詩人に霊感を与えるミューズ」の返還要求を拒否すると発表した。現在「公正かつ公平な」補償に向け、元の持ち主の相続人と交渉を進めている。

同館は1940年にシャルロット・フォン・ヴェスデレン伯爵夫人(1877~1946年)からこの作品を購入した。2021年に夫人の相続人が弁護士を通じて美術館に返還を求めたのを受け、美術館の美術委員会が入手経緯を調査した。調査結果を2022年6月に弁護士に報告すると、相続人側は改めて作品の返還を求めたという。

美術館外部リンクによると、フォン・ヴェスデレン伯爵夫人によるルソー作品の売却は、スイスで「略奪品」の売却として扱われる事案の1つ。1933~45年の間にナチスドイツの迫害から亡命した移民による販売は略奪品として扱われ、スイスでも多くの事例がある。

経済的理由の売却でも「略奪」に

ユダヤ人のシャルロット・フォン・ヴェスデレン伯爵夫人はナチスドイツから逃れ、この絵を売った時はスイスにいた。直接の売却理由は経済的なものだが、ナチスの迫害がなければそうした状況に陥らなかった。

美術委員会の報告書は、売却価格が「低額、あるいは不当に低かった」と結論付けた。「仲介業者と美術館館長は少なくとも2万フランが適切であることを知っていた」にもかかわらず、美術館は1万2000フランまで買い叩いた。

1940年当時、公開市場では最高6万フラン、最低でも4万フランで取引されていたとみられる。

「公正・公平」な解決策

美術館は、同作品には賠償の権利がないとみるが、ワシントン原則に従った「公正かつ公平な解決」に向けた交渉を提案している。美術委員会のフェリックス・ウールマン委員長はスイスの通信社Keystone-SDA/ATSに対し、交渉は「妥当な」金額の補償を目指し既に始まっているが、その金額は機密扱いだと語った。

バーゼル美術館と同美術委員会は、ナチスによって没収された美術品に関するワシントン原則を遵守する。略奪品をめぐる紛争は同原則に従って裁かれるべきで、略奪品の返還は可能だがあくまで例外だと主張する。本件の場合、そのような例外は「明白でも正当化されるものでもない」と強調した。

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

詐欺を警告するPC画面

おすすめの記事

スイス銀行の顧客を騙した英国人留学生に有罪判決

このコンテンツが公開されたのは、 スイス銀行を狙った口座乗っ取り事件で、英国で刑事告訴されていた英国人学生(21)に禁固7年の有罪判決が言い渡された。スイス連邦検察庁によると、学生はスイスの銀行顧客から約240万フラン(約4億4000万円)を騙し取った。

もっと読む スイス銀行の顧客を騙した英国人留学生に有罪判決
オリーブの木

おすすめの記事

温暖化でスイスがオリーブの名産地に?

このコンテンツが公開されたのは、 スイス西部のフランス語圏は温暖化によりオリーブの木を育てやすくなっている。生産者らは2026年には栽培本数が2万本に倍増し、南部のイタリア語圏ティチーノ州を追い抜くと見込む。

もっと読む 温暖化でスイスがオリーブの名産地に?
山肌に描かれた巨大な絵

おすすめの記事

アルプスに新しい巨大地上絵が登場

このコンテンツが公開されたのは、 世界各地で巨大な地上絵を描くアーティストのSAYPE(セイプ)さんが、スイス南部ヴォー州のアルプス山頂に新作を完成させた。

もっと読む アルプスに新しい巨大地上絵が登場
原発

おすすめの記事

スイス・ゲスゲン原発、定期検査後に稼働再開できず

このコンテンツが公開されたのは、 スイス北部デニケン(ソロトゥルン州)のゲスゲン原子力発電所が2カ月近く、発電を停止している。給水配管システムに過負荷がかかっている可能性があり、安全性が証明されるまで発電を再開できていない。

もっと読む スイス・ゲスゲン原発、定期検査後に稼働再開できず
セメンヤ

おすすめの記事

欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」

このコンテンツが公開されたのは、 欧州人権裁判所(ECHR)大法廷は10日、スイスが女子陸上五輪金メダリストのキャスター・セメンヤさん(南アフリカ)の権利を侵害したとする2023年の判決を支持した。

もっと読む 欧州人権裁判所、スイスは「セメンヤさんの権利を侵害」
スイス公共放送協会

おすすめの記事

スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も

このコンテンツが公開されたのは、 スイス放送協会(SRG SSR)は政府の予算削減を踏まえた組織再編計画を発表した。4言語圏の放送局のスポーツ、ドラマ、制作、配給、人事、財務、ITサービスなど各部門を縦割りで再編成する。

もっと読む スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部