
ローザンヌバレエ、決勝で伊藤充さん3位、金原里奈さん5位入賞の快挙

ローザンヌ国際バレエコンクール2015の決勝で7日、伊藤充(みつる)さん(18)が3位、金原里奈(りな)さん(17)が5位で入賞した。二人とも、小さいころから夢見ていたローザンヌで入賞し、興奮のうちにも「人に感動を与え、幸せになってもらえるようなバレエを踊りたい」と口をそろえた。
伊藤さんのジャンプに溜息
伊藤さんは入賞の発表直後、興奮冷めやらぬ様子で「信じられません」とかみしめるように言った。「小さいころからの夢の舞台で、昨日も今日も自分の最高のものを出して踊れました」
決勝での伊藤さんのクラシックは感動的だった。特に飛び上がったときは鳥のように軽やかに優雅で、素晴らしく、観客からも思わず「ワーッ」と溜息が漏れた。
5年前からローザンヌでクラシックのコーチをしているパトリック・アルマンさんも「ミツルはジャンプがとにかく美しい。高い技術も持っている」と高く評価している。
一方、審査員のシンシア・ハーヴェイさんは、「ミツルは毎日、びっくりするように伸びていった。昨日より今日の舞台がさらに良かったように。ローザンヌでは、そうした伸びていく生徒に感動する」。
ハーヴェイさんのコメントを伊藤さんに伝えると、「コーチの先生方からの直しを聞いて毎日向上していくのが、ローザンヌだと思っていたので、そう評価されてうれしいです」との答えが返ってきた。
伊藤さんは、リスボン国立芸術学院舞踊学校で今勉強中。これからはクラシックを極め、ヨーロッパのどこかのカンパニーで踊るのが夢だという。ハーヴェイさんは、「私の意見では、彼はクラシックの方向がいいと思う」。「でも両方踊れる優れたダンサーよ」と即座に付け加えた。
また、審査員の1人曹馳(ツァオ・チー)さんは、「ミツルは内部に本当にいいものを持っている。優れた精神性というか。それが審査していて毎日見えた。技術的にはまだ勉強する点もあるが、この精神性でぐんぐん伸びていくダンサーだ」と、高く評価した。

最初から審査委員の目を引いた金原さん
受賞後に今の気持ちを聞かれた金原さんは「うれしくて仕方がないです」と涙ぐんだ。「クラシックは少しミスしたけれど、まるで何かに助けられたように最後まで踊れた」。「(家族はローザンヌに来ているので)今の感動を第2の家族であるモナコ王立グレースバレエアカデミーの友達に伝え、一緒に喜んでもらいたい」
金原さんのクラシックは今日も優雅さと気品にあふれ、観客席からブラボーの声と同時に大きな拍手が湧いた。音楽性やしっかりとした技術はさることながら、まるでジゼルの声が聞こえてくるようなちょっとした手の動作や顔のしぐさが表現性を高めているように見える。「そうした振りは、モナコの先生にアドバイスを受けながら工夫していった」という。
「そんな研究や練習などいつも大変だけど、ダンスをあきらめようと思ったことは一度もない。これからは、世界のどこでもいいのでカンパニーに入って人を幸せにできるようなダンスを踊りたい」
ハーヴェイさんは金原さんを、「リナは素晴らしい。彼女は最初から審査委員の目を引き、そのまま高いレベルを維持し続けた」と絶賛した。
平均してよいレベル
なお、今年のクラシックの男子を総括して、前出のアルマンさんは「今年、男子は平均してよいレベル。甲乙つけ難い。しかし、それがまたいい。数人だけが飛びぬけているのはあまりいいことではないから」と話した。また特に年少の15、16歳の男子はレッスンでの反応、理解力、吸収力が良く、「教えがいがあり、コーチを楽しめた」
ハーヴェイさんも全体の参加者のレベルを評して、「今年は特に、決勝進出者を選ぶ際にボーダーラインに同じようなレベルのダンサーがたくさんいて、選出が大変だった」とコメントしている。

また、もう1人の日本の決勝進出者で惜しくも入賞を逃した速水渉悟(しょうご)さんを、「ショウゴは素晴らしい才能のダンサー。入賞はしなかったが、ダンスキャリアにおいてまったく問題はない。すでに午前中にいくつかのカンパニーから誘いがあったと聞いている」と激励した。
明日、速水さんを含め入賞を逃した14人の決勝進出者には、ネットワークフォーラムが開催され、カンパニーやバレエスクールからのオファーがある。ローザンヌは、コンクールというより、まずはトップの指導者からコーチを受け、プロになるための「技」も伝授される「道場」。そして同時にネットワークを広げる場でもある。
6人の入賞者
1位、ハリソン・リー(15)(オーストラリア)。2位、ジズ・パク(17)(韓国)。3位、伊藤充(みつる)(18)。4位、ミゲル・ピニェイロ(17)(ポルトガル)。5位、金原里奈(17)。6位、ジュリアン・マッケイ(17)(米国)。
なお、スイスはローザンヌがこの国で開催されるにも関わらず、今までわずかな人数しかコンクールに送り込んでこなかった。しかし、今年は4人のスイス人が参加。中でも決勝に進出したルー・シュピヒティクさんは、クラシックでもコンテンポラリーでも音楽性に優れた表現力の高い演技を行い、「ベスト・スイス賞」と「観客賞」を受賞した。
第43回ローザンヌ国際バレエコンクール2015
コンクールはローザンヌで1973年、ブランシュワイク夫妻によって創設された。15~18歳の若いダンサーを対象にした世界最高の国際コンクールで、若いダンサーの登竜門とも言われる。目的は伸びる才能を見いだし、その成長を助けることにある。
今年は、2015年2月2日から7日まで開催。昨年秋のビデオ審査で、300人の応募者から67人(18カ国)が選出された。このうち日本からは、ここ数年で最少の10人(女子7人、男子3人)がコンクールに出場し、昨日の準決勝で速水渉悟(しょうご)さん(18)、伊藤充(みつる)さん(18)、金原里奈(りな)さん(17)の3人が決勝に進出した。
昨年と同様、二つの年齢グループ(15、16歳と17、18歳)に分かれて4日間の練習を行い、昨日6日、決勝進出者の20人が選ばれた。今日の決勝では、この20人の中から6人の入賞者が選ばれ、全員同額の奨学金を得て、希望するダンススクールかバレエカンパニーで1年間研修できる。

JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。