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EURO2008でジュネーブが監視社会に

ビデオカメラによる監視はまだ少ないが、着実に多くなっている現状だ。 Keystone

6月のEURO2008の開催期間中、大きな問題が起きる可能性は少ないが、ジュネーブ市は監視用ビデオカメラを設置する予定だ。

ほかの欧州諸国と比較するとまだ少ないものの、スイスでもビデオカメラによる監視が増えつつある。しかし専門家によると、ビデオカメラによる監視について、公の場で正式な討論や検討がなされたことはない。

 このたびジュネーブ市は、EURO2008が市内で開催される2週間、そしておそらくその後のためにも、ビデオカメラ8台による監視システムの予算470万フラン( 約4億7500万円 ) が地元警察に支払われることが市民投票で可決された。プランパレ ( Plainpalais )、主要ファンゾーン、ラ・プライユ地区のジュネーブ・スタジアム ( Le State de Genève à la Praille ) 、エトワール地区 ( Etoile ) 、リーヴ地区 ( Rive ) などの、もっとも混雑する地域で、ビデオカメラが一般人をモニターすることになる。

一般的な警備

 「ビデオカメラは一般的な警備のためで、特定の人物を監視するためではありません。その使用によって、迅速で戦略的な決断ができるようになります」
 と警察の広報担当のエリック・グランジャン氏は述べる。しかし、グランジャン氏は、ジュネーブ市当局は、暴力行為について特に心配はしていないと言う。
「われわれは、たくさんの人々が参加するスポーツや祝祭のイベントを楽しみにしています。第1回目の試合では、スタジアムとファンゾーンに7万5000人が集まりますが、特に問題なく開催されるでしょう」
 とグランジャン氏は語った。

スマイル!

 スイス人研究者、フランシスコ・クラウザー氏によると、約400万台ものカメラが取り付けられているイギリス、そしてドイツ、フランスなどと比べても、スイスは、ビデオカメラによる監視が世界でも少ない社会と言える。しかし、クラウザー氏は、ビデオカメラによる監視は急速に増えているものの、十分に討論されておらず、一般の対応も受動的だと言う。
「大半のカメラは個人の所有で、公共のものはほんの少しです。ですから設置されているカメラの数は4万台かそれ以下でしょう。多く見積もれば、10万台近くあるかもしれませんが」
 とクラウザー氏は語った。

 クラウザー氏が前回行った調査結果では、60パーセントの一般人がビデオカメラによる監視を受け入れている。しかし、クラウザー氏は、
「もし一般人に選択肢があるならば、本当は、警察官の助けと民間の警備保障会社のサービスのどちらを選びたいのか、もっとよく調べたら分かります。一般人は、住宅地や公共の場に、本当はビデオカメラを設置して欲しくないのです。設置してもいいと思っているのは、自分たちとは関係のない場所です」
 と説明した。

 スイス人の日常生活には、ビデオカメラによる監視が存在しない。ビデオカメラを設置することによって、EURO2008開催で生じた治安への不安を取り除くことはできるが、犯罪率を長期的に下げるなどの効果は限られたものになるだろう。

 「ビデオカメラ自体は悪いものではありません。要は使い方です。そして問題なのは、ビデオカメラによる監視についてどう考えるか、一般人が何も言わない、または言う気持ちがないということです」
 とクラウザー氏は述べた。人間の顔と行動を認識する新技術が開発されているが、それについて話し合うことが重要だとクラウザー氏は言う。

治安に対する不安

 ジュネーブでは、トルコ、ポルトガル、チェコの3カ国間の試合が行われる。昨年12月の抽選の結果、ドイツとオランダの試合はジュネーブで行われなくなったため、ジュネーブ市は両国からのフーリガン対策という警備上の大問題を回避することができた。イギリスはEURO2008の出場権をかけた予選で敗退したため出場できない。

 現在までのところ、EURO2008に対するスイス人の関心は、サッカーの試合ではなく、騒音、納税者の負担そして安全だ。ビッグスクリーンを設置するルツェルン市 ( Luzern ) もビデオカメラによる監視システムの導入を考慮中だ。また、試合期間中は、試合を開催する都市に約1万5000人の兵隊が配置されることになっている。そして500人から1000人のフランスとドイツの警察官も警備にあたる。さらに、警護官とともにファンをフーリガンから保護するための見張り要員が常駐する予定だ。

 基本的な警備全般を確認するため、共催国のスイスとオーストリアは、近隣諸国、参加国、中欧警察機構、およびユーロポールと連携をしている。オーストリアと同様スイスも、トラブルメーカーの入国と試合観戦を禁止する新法を導入し、フーリガンのデータベースを構築した。

笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

ビデオカメラによる監視を規制する州法や連邦法は存在しないが、検討をしている州もある。

現在のところ、駐車場、ショッピングセンターなどの民間の所有地や駅でのビデオカメラの設置は許可されている。

警察は撮影する権利があるが、撮影した映像の使用には裁判官の同意が必要。

監視の方法は、連邦情報保護法によって規定されており、カメラの存在の掲示と画像の24時間以降の消去が義務付けられている。また、法律で許可された進行中の捜査において、使用目的が法的に認められた場合以外は、第三者に画像を渡してはならない。

スイスとオーストリアは、6月7日から29日に行われるEURO2008の共催国のため、自動的に出場資格を与えられた。

スイスの4都市バーゼル ( Basel ) 、ベルン ( Bern ) 、ジュネーブ ( Genève) 、チューリヒ ( Zürich ) とオーストリアの4都市インスブルック ( Innsbruck ) 、クラーゲンフルト ( Klagenfurt ) 、ザルツブルグ ( Salzburg ) 、ウィーン ( Vienna ) で31試合が行われる。最終決勝戦は6月29日にウィーンで行われる。

スイスチームはバーゼルでの3試合に出場。

12月2日の出場国のグループ分けを決定する抽選に、過去の欧州選手権で優勝経験のある8カ国も参加した。デンマークも過去に優勝経験があるが、今回のEURO2008出場をかけた予選大会で敗れ、有力候補のイギリスもまた敗退した。

ポーランドとオーストリアの2カ国は欧州選手権に初参加。

3週間の試合期間中、最高540万人の観客が、ベルン、チューリヒ、バーゼル、ジュネーブの4都市間を移動し、各都市のスタジアムとビッグスクリーンで観戦すると予測されている。

警備活動の費用は約6400万フラン ( 約64億7500万円) と推定され、そのうち約2800万フラン ( 約28億3300万円) は試合が行われる都市のある4州が負担する。

開催期間中、スイスとオーストリアの両国のための警備活動の中枢センターとなる警察情報協力センター ( PICC ) がベルンに設置される。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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