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コロナで郵便投票が増加、だが落とし穴も

ローザンヌのポストに投函される投票書類。2019年連邦議会総選挙にて Keystone

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、混雑する投票所を避けて郵便投票を利用する有権者が増えている。郵便投票を勧める政治キャンペーンも目立つ。しかし米国、ポーランド、スイスの例をみると、郵便投票の導入と維持には落とし穴が潜むことが分かる。

このコンテンツは 2020/10/03 08:30
Bruno Kaufmann

ノルウェーの有権者が投票に参加するには、紙1枚、封筒3枚、有効な切手1枚が必要だ。まず白い紙に投票先(政党名または候補者名、国民投票の場合は賛成または反対)を書く。次に1枚目の封筒に「投票用」と記し、2枚目の封筒に個人情報(氏名、生年月日、住所)を記入する。最後に3枚目の封筒に自分が住所登録している自治体の選挙管理委員会を宛先に書く。投票用紙を入れた1枚目の封筒を2枚目に、2枚目の封筒を3枚目に入れて、切手を貼ってポストに投函すれば終わりだ。

ノルウェー式の郵便投票は世界で最もリベラルな方法かもしれないが、郵便投票を導入している国は他にも多数ある。選挙や国民投票で遠隔投票を認めている国は、新型コロナの流行以前でも50カ国以上に上る。感染拡大の影響を受け、遠隔投票は投票手続きを安全に行う上でほぼ必須の手段となった。

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世界の選挙や国民投票を監視する政府間民主主義支援機関「民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)」のナナ・カランダッツェ氏は、感染拡大により「最低70カ国が投票の予定期日を延期した」と話す。

多くの国では、投票プロセスの安全性に対する懸念に加え、選挙運動や公開討論会が実施できないことから投票が中止された。しかし、少なくとも56カ国では感染が拡大する中でも投票が実施され、一部の国では郵便投票が急きょ整備された。

「何らかの形で郵便投票を早急に導入しようとしている国もあるが、そうした対応には問題や思わぬ危険が多い」とカランダッツェ氏は指摘する。

米国:大統領が郵便投票を批判

米国では1880年代に郵便投票・不在者投票が導入され、現在では全州で有権者の83%が利用できる。新型コロナの感染拡大を受け、米国の全50州中20州は今年の大統領選挙に向けて遠隔投票の手続きを容易にした。

非政府の選挙監視機関「選挙登録情報センター(ERIC)」によると、米国の郵便投票において、二重投票や死亡者に成りすましての投票といった不正投票が疑われたケースは投票総数1460万票中376票(0.0025%)だった。

しかし現職のドナルド・トランプ大統領と与党・共和党は、新型コロナの感染拡大をきっかけに郵便投票を巡る超党派的な議論を巻き起こしている。

トランプ氏は7月、「郵便投票が可能になれば、2020年の選挙は完全な不正選挙になるだろう。それは皆が分かっている」とツイートした。これを含め、同氏が郵便投票を非難したツイートは3月から70件以上に上る。

トランプ氏は郵便投票に異を唱えることで「ペンシルバニア、オハイオ、アイオワなど多くの激戦州で投票率を上げようとしている共和党員の足を引っ張っている」と、ワシントン・ポスト紙の全国政治記者エイミー・ガードナー氏は指摘する。共和党員がこのような取り組みを行う理由には、共和党への投票傾向がある高齢有権者の多くが、新型コロナの感染拡大で投票所に足を運びたがらないと予測されていることがある。

民主主義をテーマに取材するロサンゼルス在住ジャーナリスト、ジョー・マシューズ氏は、郵便投票に疑問を投げることで「大統領はこうした投票プロセス自体を弱めようとしている。そうしておけば、それを根拠に11月に負けた場合でも選挙で不正があったと主張できるからだ」と話す。

ポーランド:土壇場での試み

最近まで郵便投票が全く存在しなかったポーランドでも、この投票方法を巡り党派争いが起きた。新型コロナの第1波に見舞われた4月、ポーランド政府はアンジェイ・ドゥダ大統領(与党「法と正義」所属)の再選を強く望んだ。そこで5月10日に大統領選挙の実施を決定。だがロックダウン(都市封鎖)が敷かれ、屋内での大規模集会が禁止となったことを受け、投票所での投票が不可能となった。そこで政府は投票方法を郵便投票のみとする新たな選挙法の制定を急いだ。

「基本的にすべてが間違っていた」と、ポーランドのアダム・ミツキェヴィチ大学のマグダレーナ・ムジアル・カルグ教授(政治学)は言う。激しい選挙戦で勝利を確実にしたかった政府は、選挙管理委員会を通さずに郵便投票制度を導入しようとしたと、同氏は付け加える。

選挙期間中にそうした変更を行うことは欧州連合(EU)の法律で禁止されている。また、投票用紙の送付を委託されたポーランド郵便には、数百万人分の有権者の住所情報が不足していた。

最終的には選挙管理委員会が介入し、5月10日の大統領選は土壇場で延期された。選挙実施日は6月と7月(決選投票)に変更され、ドゥダ氏が現ワルシャワ市長のラファウ・トシャスコフスキ氏を僅差で破って当選した。

ポーランドで与党が郵便投票の実現を急いだことについて、ムジアル・カルグ氏と他の研究者は最近、分析記事を発表。その中で「スイスは郵便投票の試験と開発に30年かけたが、ポーランドはそれをわずか2カ月で行おうとした」と記した。

スイス:非難、そして投票率の上昇

スイスは年に数回投票が行われることから、世界一の郵便投票回数を誇る。しかしスイスで郵便投票が始まったのは米国よりもずっと遅く、女性参政権導入後の1970年代のことだった。

連邦内閣事務局で政治的権利部長を務めたハンス・ウルス・ヴィーリ氏は、「当初、郵便投票が認められたのは病人だけだった」と回顧する。しかし90年代になると、議員発議を機に郵便投票の利用機会が大幅に増えた。スイス郵便によれば、今日では選挙・投票における総投票数の8割以上が郵便票だ。

右翼を代表する人物であり、スイス国民党の元党首クリストフ・ブロッハー氏は司法相を務めていた当時、郵便投票は「広く不正利用されている」と連邦内閣事務局に度々主張していた。同氏は2006年、政府を通じ、全州に一連の予防措置を講じるよう求める通達を出した。措置の一つとして、全ての郵便投票封筒には「投票権を行使しない場合、投票用紙は必ず細かく破った後に処分してください!」という注意事項の記載が義務づけられた。

しかし不正の疑いに根拠がないことを州が最終的に証明したため、連邦の通達はそれから1年後に法的拘束力を失った。しかし通達の撤回が世間に公表されることはなかった。

ヴィーリ氏によると、郵便投票の導入により全国の平均投票率は15%上昇した。ジュネーブ州では投票率が2倍になったという。

スイスでは米国同様、不正投票が行われることはめったにない。40年以上にわたり定期的な投票が行われてきたが、公式に不正投票と認められたケースは地方レベルでわずか5件だった。そして米国など世界の様々な地域同様、スイスでも最適な投票方法を巡る議論が続いている。最近、議論の的になっているのが電子投票だ。安全、秘密かつ不正のできない新しい投票方法として期待されている。

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