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スイス州議会、初めて女性過半数に

ヌーシャテル州で18日、州議会議員選挙と州政府閣僚選挙が行われた。議会選挙は結果が確定したが、閣僚選挙は今後2回目の選挙が行われる見通し。写真は州政府閣僚候補のフローレンス・ナター氏(中央) Keystone / Jean-christophe Bott

18日に行われたヌーシャテル州議会選挙で女性58人、男性42人が当選し、女性議員の割合がスイス史上初めて過半数を上回った。その理由とは?

ヌーシャテル州に劇的な変化が起こる前触れはなかった。2013年の州議会選挙で当選した女性の割合は23%に過ぎず、17年はようやく34%に上昇したが、それもスイス全体の平均程度でしかなかった。だが今回、その割合は前回よりも24ポイント上昇した。

スイス、そしてヌーシャテル州で何が起こっているのだろうか?

スイス新記録

スイスでは19年以降、女性議員の割合外部リンクが再び上昇傾向にある。

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連邦レベルでは現在、女性議員の割合は国民議会(下院)で42%、全州議会(上院)で26%を占める。どちらもスイス史上最高記録だ。両議会で割合に差が出た理由は選挙法にある。下院で採用されている比例代表制は女性が当選しやすい仕組みになっている。

州レベルで女性議員の割合が40~42%と最も高かったのは、バーゼル・シュタット準州、チューリヒ州、バーゼル・ラント準州で、どの州も都市的な一面を持ち合わせている。

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最近では一部の市町村議会でも高い数字を記録している。20年に行われた首都ベルンの市議会議員選挙では女性当選者が70%に上った。この流れに乗って、ローザンヌ市やフリブール市でも女性議員が過半数を占めた。

新しい波

このトレンドの契機となったのが、スイスで19年に行われた第2回女性ストライキだった。これをきっかけに、経済、社会、政治での男女差別というテーマが世間で注目を集めるようになった。今のところ嵐が巻き起こる兆候はないが、状況は刻々と変化している。

チューリヒで行われた女性ストライキの様子。2019年6月14日
チューリヒで行われた女性ストライキの様子。2019年6月14日 Keystone

女性ストライキの影響

政治キャンペーン「ヘルヴェティアが呼ぶ!外部リンク」は、新しい女性運動の1つだ。このキャンペーンを展開する女性団体上部組織「アリアンスF」は、女性の立場が改善されるよう粘り強いロビー活動を行いながら、党派を超えた啓蒙活動に取り組んできた。それが功を奏し、19年下院議員選挙の候補者名簿では女性の割合が明らかに上昇した。それ以前の選挙では女性候補者の割合は約3割で推移していたが、その選挙で4割超に跳ね上がった。

キャンペーンの成果はほぼ全ての政党でみられた。19年の候補者名簿で女性の割合が最も高かったのは社会民主党で、次いで緑の党と自由緑の党が続いた。

変化は有権者にもみられた。同年の選挙で初めて、女性候補者の当選確率が男性候補者の当選確率を上回った。勢いに乗ったアリアンスFは昨年から「ヘルヴェティアが呼ぶ!」を州レベルでも展開している。

ヌーシャテル州は成功例の1つだ。まず、候補者名簿の構成で女性の割合が増えた。各党の候補者名簿に記載された女性の平均割合が40%を占めたのだ。例のごとく左派政党と右派政党で違いが生じ、左派政党の候補者名簿の方が右派政党のそれに比べて女性の割合が多かった。次に、有権者の投票行動も女性に有利に働いた。今回の州議会議員選挙で、緑の党の当選者の78%が女性だった。自由緑の党では75%、社会民主党では71%、そして極左政党の労働自民党でも63%に上った。つまり男性、女性の候補者からあえて女性を選ぶ有権者が多かったということだ。

国際比較

スイスの女性議員の割合は、女性参政権の導入初期は低かったが、今は遅れを大きく取り戻している。国連の統計外部リンクによると、スイスは今年、下院における女性議員の割合で世界第20位だ。

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上位国になる理由には以下の3つが考えられる。

  • 国政に大きな変化があった国。例えば1位のルワンダは、紛争をきっかけに男性優位社会が崩壊した
  • 政党が1つしかない国。例:キューバ(2位)
  • 多様性にあえて力を入れる社会。例:ニュージーランド(5位)

このうち1つか2つはスイスにも当てはまるだろう。気候変動というテーマが国政を揺るがした結果、19年秋の連邦議会総選挙は過去100年間で最も変化が大きい結果となった。様々な政党が女性議員を増やそうとしているのは、多様性を重視する政策を反映してのことだろう。

中道左派の有権者に女性支持者増加

選挙研究では環境の変化が有権者に与える影響が明らかにされている。

ローザンヌ大学が19年に行った全国追跡調査によると、スイスの女性有権者は左寄りになった。女性有権者のうち、社会民主党、緑の党あるいは自由緑の党に投票した人の割合は46%だった。一方、男性有権者では約3割だった。中道左派だった女性有権者が女性候補者を支持するようになった結果、同派の男性有権者にも投票行動に変化が生じている。

新選挙法の副次的効果

しかし、ヌーシャテル州で女性議員が大幅に増加したのには特別な理由がある。それは、今年の選挙から改正選挙法が適用されたことだ。旧選挙法では議員が地域を代表することに重点が置かれていた。そのため選挙区は6つに分けられ、当選者は地元有権者の利益を代表することが求められた。

そして改正選挙法でこの選挙区の縛りがなくなった今、ヌーシャテル州を代表し、州のアイデンティティーを確立できる人物が求められている。

ヌーシャテル州では女性議員の割合が劇的に上昇した。写真は州都ヌーシャテル © Keystone / Gaetan Bally

しかし、思わぬ「副次的効果」が表れた。法改正の狙いは、同州における地域間のバランスを図ることだったが、新しい選挙制度は明らかに州議会の男女比に影響を与えたのだ。

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なぜなら、これまでのような小さな選挙区では男性優位になりやすかったからだ。男性が州政治に及ぼす影響力が濃くなるにつれ、「地域で目立つ男性が選ばれる」という従来の傾向が強まりやすい。

小さな選挙区の枠を超えて、より広い地域で候補者を選ぶ場合、女性候補者の当選確率は男性候補者と同等、またはそれよりも高くなる傾向にある。これは新しい時代では全く不思議ではない。

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(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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