スイスの視点を10言語で

初心者にもわかるスイス総選挙

議場
あまり変化のないスイス連邦議会は見過ごされがちだが、他の国にはない特徴的な仕組みがいくつもある Keystone / Peter Klaunzer

スイス有権者は10月22日、新しい連邦議員を選挙で選ぶ。175年の歴史を持つ現行選挙制度の特徴を7つのポイントに絞って解説する。

並外れた安定性

あなたの国では政局が激変するのは珍しいことだろうか?得票率5%台だった政党が次の選挙で突如30%を獲得するのはよくある風景だろうか、それともありえない現象だろうか?こうした急変を民主主義のスパイスとみなす人にとっては、スイスの選挙は無味乾燥すぎて面白くないだろう。

スイスでは、世論調査である政党の支持率が急上昇し、別の政党で急落すると、数日にわたってその話題で持ちきりになる。だが実際にそうした変化が起こることは滅多にない。6月に実施された直近の調査では、緑の党(GPS/Les Verts)は予想得票率が前回2019年選挙の得票率に比べ3ポイント下落し、国民党(SVP/UDC)は1.5ポイント上昇した。

スイスの連邦議会が他の国と違う点が1つあるとすれば、その並外れた安定性が挙げられる。議会の政党勢力図が現行選挙制度の始まった175年前から全く変わらないという意味ではない。国民党は過去20年で大躍進を遂げ、1991年から2015年までに議席数を約3倍に増やした。緑の党、自由緑の党(GLP/PVL)という新勢力も勃興し、スイス政治における他の泡沫政党とは異なる存在感を見せている。

だが他の西側民主主義国とは異なり、スイスの勢力図変化は火山型というよりは地殻変動型だ。比例代表制が導入された1919年以来の国民議会(下院)の政党勢力図(下図)がそれを如実に物語る。

外部リンクへ移動

二院制、計246議席

スイス連邦議会は、全26の州を46議員が代表する全州議会(上院)と、国民を代表する200議員を擁する国民議会(下院)の2院から成る。

両議院は年4回、各3週間ずつの会期で審議に当たる。全ての憲法改正案を国民投票にかける前に審議する。連邦法の採決や修正、廃止も議会の仕事だ。

二院制が確立されたのは連邦国家が誕生した1848年。基本的には米国の連邦議会をモデルにした。両院は等しい権限を持ち、全ての政府決定は両院の承認が必要だ。

上院外部リンクの議席配分ルールはこれまで1度も変わっていない。20州は2人ずつ、6つの準州は1人ずつ議員を送る。つまり1978年までは定数44議席で、ジュラ州がスイス連邦に正式加盟した1979年から46議席に増えた。

一方、下院の定数は何回か変化した。1848 年の定数は111議席で、議員1人が代表する国民の数は外国人を含む約2万人。女性選挙権が導入された1971年までは国会議員は全員男性だった。人口増加に伴い定数も徐々に増え、1962年以降は200議席となっている。下院議員1人が代表する国民の数も今では約4万人に増えた。

議席数は人口に比例して州ごとに配分される。チューリヒ州からは35人が選出される一方、アッペンツェル・インナーローデン準州など小さな州は1人ずつしか選ばれない。州の人口変動に応じて議席配分が変わることは頻繁にある。

多数決と比例制

上院選挙はほぼ全州で多数決制が採用され、最多票を獲得した政党が全議席を得る。ヌーシャテル州とジュラ州だけが比例制で議席を割り振る。この2州が他と異なる制度を採用するのは珍しくない。

一方、下院は1919年以来一貫して比例制で選出される。選挙区は州単位だ。

多数決制と比例制が共存するこの仕組みは、議会の政党勢力図に大きな影響を及ぼしている。下院では得票率によって政党の議席配分が決まる。なおこの得票率は、選挙の結果分析や政治勢力の増加・衰退を分析する時に使われる指標だ。

一方、上院選挙の多数決制は、必ずしも党員数の多い政党に有利とは限らない。その政党がその州にどれだけ深く根付いているか、同盟を結んで相乗り候補を擁立する能力、候補者自身のコンセンサス形成能力など、他の要素が優先する。上院を中央党(キリスト教民主党と人民民主党が合併)と急進民主党という歴史ある2党が支配しているのは偶然ではない。前回選挙の2党の得票率は計26%強にすぎなかったが、中央党は46議席中13議席、急進民主党は12議席を押さえた。下院第1党の国民党は得票率25.6%にもかかわらず、獲得したのはわずか6議席だった。

外部リンクへ移動

強い権限

大統領が法案に拒否権を行使できる米国などとは異なり、スイス連邦議会は他の2つの国家権力に優越する。執行機関である政府(連邦内閣)は、議会の決定に対して異議を唱えることはできない。最高司法機関である連邦裁判所も、議会決定の合憲性を問うことはできない。

一方、スイスは閣僚の問責決議という制度がなく、議会が閣僚を罷免することはできない。また重篤な病気などの例外的な場合を除き、7人の閣僚から成る連邦内閣の一員を任期中に解任することもできない。

議会が政府閣僚に対して不満を表明できる唯一の方法は、4年ごとの連邦選挙を終えた12月に行われる閣僚選挙だ。だがそれも、スイス政治制度のもう1つの特徴であるコンセンサス(総意)民主主義により、実際に現役閣僚が再選されないことは極めて稀だ。1848年以来、議会で再選されなかった閣僚はわずか4人。直近は2007年、国民党のクリストフ・ブロッハー氏だ。

スイスでは多数派と反対派の間にいかなる対立も存在しない。ほとんどの議案について政府・議会は過半数の支持を得られる妥協案を模索する。だが政党間の連立合意というものが存在しないため、どの政党が多数派に位置するかは議案ごとに異なる。また閣僚輩出党が政府の決定を支持する義務はない。

こうした仕組みにより、スイスでは政府崩壊や選挙の前倒しが起きることはない。現行議会は1848年以来51期目となる。

議会の決定は法律となるが、その最終決定権を握るのは有権者だ。法令の公布後100日以内に有権者の署名5万筆を集めることで、誰でも議会の決定に異議を唱え、連邦法・政令を施行するか廃止するか、有権者の判断に委ねることができる。この任意的レファレンダムは、行使せずとも威力を発揮する「ダモクレスの剣」のような存在感を放っている。

歴史的政党

1848年の連邦国家設立から1917年の比例代表制導入まで、連邦議会は急進民主党(2009年にリベラル党が合流し急進民主党・リベラルに改名)が牛耳っていた。対抗勢力は保守キリスト教政党(後のキリスト教民主党=CVP/PDC)しかなかった。

状況を一変させたのは1919年、下院選挙への比例制度の導入だ。それまで末端に甘んじていた政党が、本格的に国政に関与できるようになった。社会民主党は1919年の選挙で一気に22議席から41議席に増やした。同じ年、2年前に結党した農工市民党(BGB/PAI)が強烈な議会デビューを果たし、1971年に国民党に改称した後、今ではスイス下院第1党の座を築いている。

栄枯盛衰はあるものの、20世紀を通じてこの4大政党がスイス政治の指揮を執ってきた。だが21世紀に入り社会の環境意識が高まるのに伴い、まず緑の党、そして自由緑の党が勢力を増し、2019年選挙では両党合わせた下院の議席占有率は2割に達した。

「民兵」議員

スイスに直接縁のない人は、「militia(民兵)」という言葉に好戦的なイメージを抱くだろう。確かに語源は軍事分野だが、他に本業があり生活費としての俸給を受けない公職という意味で「名誉職」とも訳される。スイス歴史辞典外部リンクは「militiaという用語はスイスの公的生活に共通する組織原則を表しており、資格のある国民は全員パートタイムまたは自発的な立場で公職や職務に就くべきであるという共和主義の考えに基づいている」と説明する。

スイスの政治制度上、民兵制度は職業制度の対極に位置付けられている。スイス連邦議会は議員職務の他に本業を持つ政治家で構成されている――少なくとも数十年前までは、それが主流だった。

現在、連邦議員の職務は複雑さを増し、労働の5割を占める。ローザンヌ大学の調査(2019年)外部リンクによると、選出議員の約3人に1人はフルタイムの政治家だ。

スイスでは他の西側諸国と異なり、1960年代後半まで連邦議員に給与は支払われず、議会出席手当てと交通費のみが支給された。だが今は年俸2万6000フラン(約430万円)、出席手当て1日440フラン(約7万3000円)、運営費・人件費に充てる3万3000フランの他、旅費や食費、宿泊費などのさまざまな手当てを受け取っている。

ジュネーブ大学の調査外部リンクでは、2011~2015年の下院議員の総収入の中央値は6万8400フラン、下院よりも所属する委員会や代表の多い上院議員は7万9500フランだった。

ただこの数字には人件費の未使用分が加算されていない。これを含めると、連邦議員の年収は約10万フランとなり、国民の平均給与(8万フラン強)を上回る。

連邦議員になれる人

18歳以上のスイス国民は、居住地・性別を問わず連邦議員に選ばれる資格がある。ほとんどの議員は政党に所属しているが、義務ではなく、無所属でも当選は可能だ。精神疾患または精神虚弱により法的能力を欠いている人のみが被選挙権を持たない。

2019年選挙で下院の女性議員比率は41.5%に上昇したが、上院は26%。依然として男性社会だ。

平均年齢は下院議員が51歳、上院議員は57歳。20世紀以降比較的安定しているが、下院は過去30年でわずかに若返っている。

政党によって大きく異なるが、当選者の6割が学位を持つ。ローザンヌ大学による連邦議員の社会的出自に関する調査外部リンクでは、自由緑の党の有学位率は9割近いのに対し、国民党は33%であることが分かった。

スイス連邦議員の職業は社会情勢を映す鏡とはいえない。職業政治家だけでなく経営者や弁護士、農民、教師の割合が高い。

例えば弁護士は労働人口の0.3%にすぎないが、議会では1割超を占める。農家も同じく、労働人口の約2%ながら議会に占める比重は6%を超える。

外部リンクへ移動

編集:Samuel Jaberg、英語からの翻訳:ムートゥ朋子

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部