「民主主義イヤー」2024年 重要な選挙日程
今年、人口45億人を抱える約80カ国で選挙と投票が行われる。各国の重要選挙とその結果がスイスにもたらす影響を解説する。
世界で最も人口の多い10カ国のうち8カ国で選挙が行われる今年は、昨年の2倍以上の人々が投票に訪れる。インドだけでも約14億人にのぼる。他にもパキスタン、インドネシア、米国、欧州連合(EU)27カ国、そして(おそらく)英国の何億人もの人々が、今後12カ月の間に一票を投じることになる。英誌エコノミスト外部リンクは2024年を「史上最大の選挙イヤー」と呼ぶ。
しかし、英劇作家トム・ストッパードがかつて指摘したように「民主主義とは投票ではなく、集計だ」。行われている選挙の多くは自由でも公正でもなく、政府に対し意味を持った影響を与えられる可能性は極めて低い。ロシアに詳しい政治学者でなくとも、ロシアのトップに君臨して今年で25年を迎えるウラジーミル・プーチン大統領が3月に再選されるであろうことは予測できる。
そして人工知能(AI)の登場だ。さまざまな選挙でAIはどのような役割を果たすのだろうか?政府や政党はどのような手を打っているのか?AIはすでにスイスの政治家のスキャンダルを捏造し始めている。
しかし、民主主義の危機と悲観するのは時期尚早かもしれない。国際政治記者のジャナン・ガネシュ氏はフィナンシャル・タイムズ紙に「どんなに威勢がよく、歴史的な勢いがあるとしても、この独裁的な世界が20世紀後半に起きた減退を挽回するには程遠い」と書いている。「民主主義が下降線をたどっているのは間違いないが、それは6ラウンド勝ってから1ラウンドを失ったボクサーと同じものだ」
1月
1月13日、人口2400万人の台湾で新しい総統と議会が選出され、与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳副総裁が中国の圧力をはねつけ勝利した。スイスは「一つの中国政策」に倣い台湾を独立国家として承認していない。スイスは今後も、平和と民主主義とのバランスを保ちながら、中国を刺激しないよう微妙なラインを歩み続けるだろう。
2月
パキスタン(人口2億4千万人)では2月8日に総選挙(下院)が実施される。当初は11月の実施が予定されていたが、新たな国勢調査に基づいて選挙区の区割りを見直すために延期された。
2月14日にはインドネシアで大統領選と議会選挙が実施される。憲法が定める最大2期10年の任期を終えるジョコ・ウィドド大統領の後継者として、3人の候補者が争っている。2億7千万人を超える人口のうち、有権者は約2億500万人。そのうち約3分の1が30歳未満だ。
3月
スイスの有権者は3月3日、年4回ある国民投票(6月9日、9月22日、11月24日)の最初の投票を行う。年金改革を含める2件について賛否が問われる。
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ロシア(人口1億4千万人)で3月17日に予定される大統領選では、プーチン氏の再選が確実視されている。同国はウクライナへの軍事侵攻を続けていくとみられており、ウクライナの主要同盟国である米国の忍耐力が試されることになる。スイスはEUの対ロシア制裁を継続する予定だが、中立性をめぐる疑問は残ったままだ。
3月31日にはトルコ(人口8500万人)で地方選挙が実施される。2023年5月に僅差で再選されたレジェップ・タイップ・エルドアン大統領の陣営が、アンカラなど2019年の選挙で失った主要都市を取り戻し、統治を再び強化することができるかが注目される。
トルコとスイスの二国間関係は以前より良くなった。エルドアン氏は2023年6月、チューリヒで行われた抗議運動の中で自身の肖像画が焼かれたことに対し、スイスの駐アンカラ大使を召還、抗議した。
4月
世界で最も人口の多い国インドでは、4~5月に総選挙(下院選)が実施される。ナレンドラ・モディ首相は再選に向けて順風満帆だ。同氏の妥協しないリーダーシップは、多くの有権者や外国人投資家に受けが良い。モディ氏率いる与党インド人民党(BJP)が勝利した場合、同氏は引き続き経済に焦点を置くことが予想される。人権状況を巡る懸念は残されたままだ。
英国のリシ・スナク首相は2025年1月28日までに総選挙を招集しなければならないが、大半の観測筋は今年の春か秋になると見込んでいる。有権者が投票所で顔写真付き身分証明書の提示義務付けが始まってから、初の全国規模の選挙となる。
5月
5月11日は、欧州各国を代表するミュージシャンが演奏を披露し、視聴者の投票で1位を決める「ユーロビジョン・ソング・コンテスト」が放送される。万人受けする音楽ばかりとは言えないが、毎年開催される同コンテストにおける技術的、そして民主的(?)な功績は多くの人が認めるところだ。昨年は144カ国から票が集まった。今年の決勝はスウェーデンのマルメで行われる。
メキシコ(人口1億3千万人)では5月31日~6月2日に大統領選挙と議会選挙が行われる。
6千万人以上の人口を抱える南アフリカでは、5月から8月にかけて総選挙が行われる。アパルトヘイト(人種隔離政策)が撤廃され、民主的な選挙が行われてから2024年で30年。ネルソン・マンデラ氏が率いたアフリカ民族会議(ANC)はこの間、一貫して与党に就いてきた。しかし、汚職の蔓延や経済の低迷とともに支持率が低下し、今回初めて議会の過半数を失う危険性が出てきた。
そのため、議会で過半数を形成するために連立政権を組まなければならない可能性もある。その場合、連立パートナーとなるのは白人を支持基盤とする政党「民主同盟(DA)」か、主に貧困層の黒人有権者が支持するマルクス主義政党「経済自由の戦士(EFF)」のどちらかだろう。いずれにせよ、南アフリカの民主主義は岐路に立っている。
6月
6月6日~9日には欧州議会選挙が行われる。EU加盟27カ国が次期欧州議会議員を選出する。昨年、EU域内で難民申請をした人は約100万人にのぼる。EUは昨年、増え続けるEU域内への移民や難民について、大幅に受け入れを規制する新たな協定案に政治合意したと発表した。スイス連邦議会は昨年10月の総選挙でやや右傾化したが、EUはその流れに無縁でいられるだろうか。
7月
7月15日にルワンダ(人口1300万人)で大統領選挙と議会選挙が行われる。ポール・カガメ大統領は、およそ30年にわたる東アフリカの支配権の延長を目指す。ルワンダでは2015年の憲法改正により任期制限が変更されたため、カガメ氏はさらに10年間任期を継続する資格がある。
9月
9月15日は国連が定める国際民主主義デーだ。今年のテーマはまだ発表されていないが、過去のテーマには、より強い民主主義、民主主義と持続可能な開発のための2030アジェンダ、市民の声の強化、対話と包括性、説明責任、政治的寛容などがある。
11月
11月5日には今年最大の目玉選挙が実施される。米国(人口3億3千万人)の有権者がこの日、次期大統領と全下院議員、上院議員の3分の1を選出する。ジョー・バイデン大統領は2020年と同様、共和党の最有力候補であるドナルド・トランプ氏と対決する可能性が高い。賭けサイト(英国)のブックメーカーズでは、現在トランプ氏が最有力候補だが、まだ先は長い。フィナンシャル・タイムズ紙外部リンクは同大統領選について、非常に接戦になるだろうが、バイデン氏が「何とか生き延びる」だろうと予想している。しかし同紙は「トランプ氏の立候補に対し投げかけられたコロラド州とメイン州での法的ハードルが克服されると仮定すれば、トランプ氏との選挙戦はバイデン氏にとって米国史上最も厄介な大統領選挙になるだろう」とも警告した。
当然のことながら、国際都市ジュネーブはバイデン氏の勝利を祈っているだろう。2016年から2020年まで米国大統領を務めたトランプ氏は、多国間主義を蔑ろにし、スイスのジュネーブにある多くの国際機関に暗い影を落とした。彼の扇動により、米国は国連人権理事会や世界保健機関(WHO)を含むいくつかの組織から脱退。米国が抜けた穴に中国が入り込み、人権組織が中国に牛耳られる事態を引き起こした。トランプ氏の復帰で米国が保護主義に回帰すれば、世界貿易機関(WTO)にとっても悪いニュースだ。
英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:ムートゥ朋子
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