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気候変動の原因は本当にCO2?定説に疑問を投げる懐疑論者たち

産業化が始まる以前に比べ、現在の空気中のCO2濃度は142%上昇した Keystone

「気候変動の原因は人間である」。国連の専門家らの主張に対し、疑問の声を上げる人たちがいる。彼らは俗に気候変動懐疑論者と呼ばれ、気候変動も地球温暖化も自然現象と考える。彼らの論理とは?そしてそれに対する学術界の反応は?

 「我々が世界の気候に持続的な影響を与えられると思うなど、とてつもなくごう慢だ」。登山ガイドであり世界的に著名な雪崩専門家であるヴェルナー・ムンターさんは言う。73歳でベルン出身の彼は気候研究者ではないが、このテーマに関しては研究者さながらに取り組んできた。

 この3年間で、気候変動に関する本20冊、研究論文100本を読みあさったが「自然の原理に反してまで、二酸化炭素(CO2)が温暖化の原因になり得るという記述は見つからなかった」。

 ムンターさんは、「気候変動の原因は人間」という理論に公然と異議を唱えるスイスで数少ない人の一人だ。彼の使う言葉は力強い。気候研究者の多くや、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)外部リンクは、人の活動が気候変動を引き起こしたと主張しているが、彼に言わせればそれは「人を馬鹿にしている」。「IPCCの主張に反対する研究論文は数百本もあり、(気候変動の)原因に関しての共通認識はない」

 連邦雪・雪崩研究所外部リンク(所在地ダボス)元職員の彼は、気候変動自体を疑っているわけではない。ただ、気候変動や温暖化の原因は人間だとする主張に首をかしげているのだ。

ヴェルナー・ムンターさんは、気候変動は自然現象だと考える srf

CO2と気温上昇は無関係?

 ムンターさんは自身の理論の裏付けとして、過去の出来事を引き合いに出す。「今から約1万年前、地質時代の完新世には、現代と同じぐらいかそれ以上に気温の高い時代があった」。古気候学の研究では、過去数百万年の間、空気中のCO2と温暖化に相関性はみられないという。

 彼の理論を裏付ける次のポイントは、CO2だ。「CO2は有害物質ではなく、極めて重要なガスだ。これがなくては地球上に生物はいないだろう」。さらに、ムンターさんによれば空気中のCO2濃度は極めて少なく(0.04%)、そのうちのたった5%が人間の活動によるものだという。フリブール大学生誕125周年記念行事で行った公演で、彼は疑問を投げつけた。「この量で気候変動の原因になり得るだろうか?」

 ムンターさんはCO2に温室効果があるとも考えていない。根拠として、米物理学者ロバート・W・ウッドの研究を挙げる。「100年以上前から、温室効果はないことが分かっている。(地球と)ビニールハウスを比べるのは物理的に間違っている」

 CO2を気候変動の原因とする有名な理論によると、地球が放出する熱(赤外線)の一部はCO2の分子に吸収されると同時に、あらゆる方向に再び分散される。そのうち半分は宇宙に放出され冷却効果を発揮する一方、もう半分は地球に跳ね返され、太陽光とともに地球を温める。しかしムンターさんは「これは熱力学の法則、つまり熱は常に温かいところから冷たいところへと流れるという法則に反している」と反論する。

 では気候変動や温暖化の原因は何だろうか?「地球を温める唯一のエネルギー源が太陽だ。地球が長期的に温かかったり冷たかったりする原因は、太陽以外にない。ここで関係してくるのは太陽光だけでなく、太陽の地場もそうだ」

国連の気候研究者が集う専門家会議は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」と呼ばれる。IPCC総会は10月27日から31日まで、デンマークのコペンハーゲンで開催され、第5次評価報告書外部リンクがまとめられる。同報告書は11月2日の記者会見で発表される見通し。

評価報告書にはIPCCの作業部会が導いた重要な結論が記されている。作業部会が扱うテーマは、気候変動に関する基本的な学術的見地、気候変動による自然と人間への影響、気候変動の進行を食い止める方法など。

第5次評価報告書の内容は、ニューヨークタイムズ紙外部リンクなど一部の日刊紙ですでに報じられている。それによると、世界の気温はすでにある一定のラインに達しており、グリーンランドの氷河の融解はもはや止めることができず、海面水位は今後約7メートル上昇する見込み。

IPCCの報告書は温暖化、気候変動、温室効果に関する政治的議論の基となる。

気候変動懐疑論者は何人ぐらいいる?

 地球温暖化の定説に批判的なのはムンターさんだけではない。「米国人の2~3割は気候変動懐疑論者だ。彼らは地球温暖化そのものに対しても、またその原因が人間にあることや、温暖化による今後の影響などに対しても、疑いのまなざしを向けている」と、チューリヒ大学のマイク・シェーファー外部リンク教授(情報学)は話す。

 共著者を務めた研究論文では、ドイツにおける気候変動懐疑論者の割合は13~14%と米国人に比べて少ないことが明らかになった。「スイスを対象にした研究はないが、恐らくドイツと似たような状況だろう。だがいくつかの例外を除けば、気候変動懐疑論者と同じ意見を共有するメディアは実際にはない」(シェーファー教授)

 スイス懐疑論者協会外部リンクのマルコ・コヴィッチ会長によると、気候研究そのものを疑っている人はわずかしかおらず、「こういう人たちは大抵、米国のウェブサイトやブログを読んだ人たちだ」という。

学術界の共通認識

 欧州の研究者の間では、気候変動とその原因についての共通認識が広がっている。また、ジュネーブ大学のマルティン・ベニストン外部リンク教授(気候学)は「一般市民の多くが、人間の活動が気候に悪影響を及ぼすという説を信じている」と話し、次のように続ける。

 「しかし、米国やオーストラリアといったアングロサクソン系諸国では気候変動懐疑論者が多い。こうした人たちの大半は石油、石炭、自動車関連のロビー団体と何らかの関係がある」

 一方、前出のムンターさんはこう話す。「研究者は完璧ではないし、(定説を利用した)政治や金銭目的の悪巧みも増えている」

 政治といえば、アル・ゴア元米副大統領は2006年のドキュメンタリー映画「不都合な真実」で主演を演じている。映画ではCO2が世界的な気候変動の原因とされたが、果たして今の国際社会は、CO2が実は気候変動の原因ではないかもしれないという新しい「不都合な真実」に向き合うことになるのだろうか?

太陽は不十分

 スイスインフォの取材に応じたIPCC専門家委員会のトマス・シュトッカー共同会長は、彼らの批判を全てはねつけた。こうした批判は学術界ではすでによく知られており、気候研究者たちはIPCCの2013年の報告書でも、懐疑論者たちの疑問に詳細に答えているという。

 また、気候変動に関するスイスの研究団体「プロ・クリム(ProClim)外部リンク」は、気候変動懐疑論者の主張には矛盾があると指摘する。「地球の温度は全く上昇していないという人もいれば、地球温暖化の原因は太陽だという人もいる」と、ウルス・ノイ会長は語る。

 さらに、気候変動懐疑論者はいつも気候システムの中の個々の要素、例えば、太陽や宇宙線ばかりを取り上げ、地球全体を考慮に入れていないという。「(気候システムに関する)全てのプロセスを包含し、論理が一貫している理論はただ一つしかない。今の気候研究者の大半が共有しているのがそれだ」

 ジュネーブ大学のベニストン教授は、火山の噴火など自然現象も気候に影響していると指摘する。「だが、数学的モデルに基づいて火山の噴火だけを気候変動の原因に入れて計算してみると、地球の温度は現在観測されている温度よりも下がらなくてはならない」

懐疑的なことに価値がある

 「世の流れに逆らって進むことは容易ではない」。ムンターさんは、自分は現実に即して物事を考える人だと思っているという。「他人とは違う意見を持つ人はすぐに抑圧されてしまう」

 だが、少なくともきちんとした裏付けのある説ならば、懐疑的な主張は科学に貢献することもあると、ベニストン教授は述べる。「懐疑論者のおかげで、研究者たちは自身の理論を改善し、彼らの批判に太刀打ちできるようさらに研究を進めることができる。こうして批判する人たちがいなかったら、気候研究はここまで急速に発展しなかっただろう」

地球の平均気温は1998年以来、ほとんど変わっていないという新しい見識が気候研究で出ている。

連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のレト・クヌッティ教授(気候物理学)によると、温暖化が止まっている原因は二つある。一つは、予測が難しい自然現象(エルニーニョ現象、ラニーニャ現象)。もう一つは、太陽光が予想よりも弱かったことが挙げられる。

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(独語からの翻訳・編集 鹿島田芙美)

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