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1戸で完結「セルフ」

実験段階の2人用住居兼業務ユニット「セルフ」。水道も電線も不要 empa.ch

奥行き7.7メートル、幅3.45メートル、高さ3.2メートル。コンテナのような四角い簡素なこの建物は、外部からのエネルギーや水の供給を必要としないゼロエネルギーハウスだ。

1月中旬にバーゼルで開かれた建築見本市「スイスバウ ( Swissbau ) 」の会場前広場で、この2人用住居兼業務ユニット「セルフ ( Self ) 」が初公開された。

設計は卒業制作

 セルフの正面は、全体がガラスの引き戸になっている。重い戸を押し開けて中に入ると真四角のリビングルームがあり、右手の壁の中ほどにもう一つ、縦に細長いガラス製の外への出入り口が見える。正面左手には小さな流し台があり、左手は一面壁になっている。流し台の右側を通って奥に入ると、壁で仕切られた右にトイレとシャワー、左にはこじんまりとした2段ベッドが備え付けられている。飾り気は一切ないが、モダンで機能的なデザインだ。

 セルフには電気も水道も引かれていない。だが、天井には小さなランプがはめ込まれているし、トイレは水洗、さらには食器洗い機まである。このユニットは太陽エネルギーを利用して自家発電し、雨水をタンクに貯めて飲料水として使うゼロエネルギーハウスなのだ。
 
 この新しい住宅コンセプトは、連邦マテリアル科学技術センター ( EMPA ) 、連邦水質研究所 ( eawag ) 、北西スイス専門大学 ( Fachhochschule Nord-westschweiz ) 、チューリヒ芸術大学 ( Zürcher Hochschule der Künste ) が共同で開発し推し進めているプロジェクトで、2人の人間が最低2週間生活できるという。

 設計はチューリヒ芸術大学の学生を対象に公募し、その結果ビヨルン・オルソンさんとサンドロ・マッキさんの2人が卒業制作で手がけた設計が選ばれた。技術とエネルギーや水の供給と空間を効率的に、なおかつ快適に結合させることに苦心した。

太陽光で調理、雨水を飲料水に

 見本市の会場にあるセルフの平らな屋根の上には、ソーラーパネルが一面に敷き詰められている。太陽光エネルギーで水素を作り出し、それを料理や暖房に利用するのだが、この水素はいったん金属類似水素化物の入った容器の中に貯蔵される。これはEMPAが開発した新しい技術だ。「太陽があまり顔を見せない日が続いても、3カ月分の電力は確保される」とレーマン氏。

 もう一つ、生活に欠かせないものが水。セルフの飲料水用タンクには200リットルの水を貯水することができる。雨水はポンプで汲み上げるのではなく、屋根で受け止めたものを重力でフィルターに落とすため、エネルギーは不要。このフィルターには非常にきめの細かい人工膜が使用されており、通過するのは水と溶解した無機質だけ。水に溶けない懸濁 ( けんだく ) 物質や細菌、寄生生物、ウイルスなどを効果的にシャットアウトするこのノウハウは水質研究所が提供している。

 セルフで訪問者の質問に応対していたEMPAの建築技術研究員ベアト・レーマン氏によると、雨が降らない砂漠でも、最初に200リットルの飲料水を用意していけば、2人が2週間、節約すれば3週間は暮らせるという。セルフにはもう1つ水タンクがあり、ここにシャワー使用後や野菜などを洗った後の水が貯められる。この水もまた、重力を利用して人工膜フィルターつきのバイオリアクターで浄化し、再利用されるのだ。水洗トイレに使われる量は1回につきわずか1リットル。一見ぜいたくな食器洗い機も「手洗いより効率的」とレーマン氏は言う。

 最新技術を駆使したセルフ。現段階ではまだ試験や展示にしか利用されていないが、コンパクトで移動にも便利なため、いずれ可動式のゲストルームや山岳地域用研究ステーションとして投入される日が来るはずだ。

小山千早 ( こやまちはや ) 、バーゼルにて swissinfo.ch

大きさ:奥行き7.7m、幅3.45m、高さ3.2m。
重量:約5トン。

設計が決まったあと、2008年に建築プロジェクトが始まった。

外壁はグラスファイバーで補強された合成樹脂製のサンドイッチパネルを使用。
断熱には効果の高い真空パネルを使用。
暖房には熱交換器を利用して、取り込んだ外気を排気の熱で温める。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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