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経済的理由で国外に移住するスイスのシニアたち

123rf

毎年、スイスの年金生活者が経済的困窮から逃れるために国外に移住している。年金だけではスイスで人並みの生活ができないからだ。

このコンテンツは 2021/10/04 10:17

ピエールさん、レーヌさん、クローディーヌさん、ジョバンニさん…。それぞれが歩んできた道は違うが、4人には共通点がある。それは、人生の大半を過ごしたスイスを離れて国外で老後を過ごすと決めたことだ。

ピエールさんたちのように、毎年数千人のスイス人が国外に移住している。動機は分からないため全ての人が経済的理由で移住を選択したかどうかは定かでないが、その数が増加傾向にあることは確かだ。2019年の65歳以上の国外移住者は3135人で、全体の10%を占めた。

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「他に選択肢がなかった」

クローディーヌ・トゥッシャーさん夫婦 / Picasa

クローディーヌ・トゥッシャーさん(75)は01年に夫とフランスに移住した。夫はその数年前にエンジニアの職を失い、2年後に失業保険の支給が打ち切られた。その後の夫婦の収入源は妻の給料だけ。「私の給料では夫の収入を補填できず、スイスでの生活は困難になった」とクローディーヌさんは言う。

90年代後半の金融危機でさらに生活の見通しが立たなくなり、夫婦は老後を見据えて国外移住を決意した。クローディーヌさんは、「他に選択肢がなかった。夫がスイスで仕事を見つけるチャンスがあったなら、スイスを離れることなど絶対になかった」と打ち明ける。

レーヌ・ブルムさん(66)は翻訳家だった。将来は経済的余裕がなくなることを自覚し、離婚後の12年にパラグアイに移住した。「企業年金を引き出すためには、とても遠くに行く必要があった」

16年には家庭の事情で母親の近くに住むことになり、パラグアイの家を売却してフランス南西部に家を購入。現在は老齢・遺族年金(AHV/AVS)だけで生活しているが、「この額ではとてもスイスには住めない」と話す。

企業年金(LPP)一時金の受け取り

連邦外務省(EDA/DFAE)発行の「定年後の国外移住ガイド」によれば、59/60歳未満でスイスを永久に離れる場合は、通常一括して企業年金を受け取ることが可能。だが被保険者が欧州連合(EU)または欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国に居住する場合は一部しか受け取れない。

EU/EFTA諸国には「人の自由な移動に関する協定」とEFTA条約の規則が適用されることによる。この欧州規則は企業年金法にも適用され、EU/EFTA加盟国に居住する被保険者がスイス居住の被保険者と異なる扱いを受けることを認めていないためだ。

年金受益者の不適切な資金管理により国の財政が圧迫されないよう、EU/EFTA域内移住者への企業年金の支払いは、最低給付額の超過分のみに限られる。法定最低給付額は59/60歳まで年金口座に凍結され、それ以前に引き出すことはできない。

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購買力のアップ

レーヌ・ブルムさん màd

一方、スイスとフランスで金融関係の職に就いていたジョバンニ・ブルネッティさん(80)は、現役中からフランスにセカンドハウスを所有していた。「交通費、保険料、家賃、娯楽やレストランに至るまで、スイスの生活は何でもお金がかかる」ため、スイスより「もっと多くのことができるように」フランス永住を決断した。「移住したのは7割が経済的理由、3割は温暖な気候のため」と話す。

ピエールさん(仮名、61)夫婦もそうだ。ヴォー州のオロンに家を持っていたが、12年の住宅ローン金利変更の際、担当行員から定年後はローン返済が困難になる可能性を告げられ、「今まで築き上げてきたものを全て失うのではと怖くなった」と話す。

そこでスイスの家を売ればフランスにもっと広い家を買い、それまでと同じ生活の質を維持できると気づいたという。スイスを去ったのは経済的な理由だったが、今では生活の快適さは「比べ物にならない」と断言する。

もう1人のピエールさん(トリオロ、68)は、定年前チェコに家を購入していた。失業して早期退職を余儀なくされた彼にとって、移住は当然の選択だった。「生活保護に頼りたくなかった。今はスイスの基礎年金の月額2274フランだけで生活している。必要経費を差し引いても生活費として2024フランが残る。チェコではスイスの給料5800フランに相当する」と話す。

チェコに住むピエールさん màd

ゼロからのスタート

経済的な面だけではなく、移住先になじめるかという問題も重要だ。人生の大半を1国で過ごした後にゼロから再出発し、新しい友人の輪を作り、複雑な行政手続きを切り抜けて自分の居場所を見つけていくのは簡単ではない。

チェコ語を話せないピエール・トリオロさんは、社会的なつながりを持つのが「日常的に難しい」と認める。だが、「何人かとは少し英語を話し、年配の人とはドイツ語で話す」と言い、言葉の壁があっても、「どうにかつながりを持つことができた」という。

別のピエールさんは、言葉と文化を考慮して最終的にフランスへの移住を決めたという。「セネガルやタイも考えたが、環境の違いに途方に暮れたらどうしようと思い、結局フランスに決めた」

クローディーヌさん夫婦は、「全くサポートしてくれなかったスイスに少し失望し、快く受け入れてくれたフランスに驚いた」という。「フランスはとても社交的な国で、コミュニティの活動は素晴らしい」と話す。

もっと実践的なジョバンニさんは、「家に閉じこもったりせず、娯楽や趣味のクラブに参加すれば人と出会える」と話す。フランスにはスイス人の集まりがたくさんある。

ジョバンニさん màd

だが思い切った決断をする前に、スイスと移住先の行政手続きについて十分に調べることが重要だと、皆が口を揃える。かなり苦労した人もいるようだ。

昨年は、約12万件の基礎年金が国外在住のスイス人に支給された。

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移住その後

ジョバンニさんは「スイスでの暮らしの方が好きだった」と言うが、他の全員は思い切って移住したことに満足している。それぞれが「ここでの生活は夢のよう。私たちが求めていた、スイスにはない田舎らしさがある」(ピエールさん)、「全く後悔していない。生活の質はフランスのほうがずっと良い」(クローディンさん)と話す。レーヌさんは、「スイスの物価の高さは退廃的。もっとお金があったらずっと旅していたいと考えることはあっても、スイスに戻って住もうとは思わない」と話した。

(仏語からの翻訳・由比かおり)

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