
フランスの富裕層資産、スイス・ルクセンブルクに逃避

フランスの政治的混乱と税制上の脅威を受け、フランス人富裕層が資産を国外に移す動きが加速している。その行き先は、安全な逃避先とされるスイスやルクセンブルクだ。
フランスの起業家や富裕層は、国内の政治的混乱を懸念し、ルクセンブルク拠点の年金商品に過去最高の金額を投資した。スイスなどの安全な避難先とされる国への資産移動も広がる。
資産運用会社や銀行、法律事務所の関係者によると、エマニュエル・マクロン大統領が突如議会選挙を実施した昨年6月以来、フランスからの個人投資資金の流出が加速している。総選挙の結果、国民議会が分裂し、各政党が予算措置をめぐって対立。短命政権が続いていることが背景にある。

2025年に入っても資産の移動は続いている。首相は交代を重ね、マクロン大統領の盟友セバスティアン・ルコルニュ氏率いる現政権は巨額の財政赤字を埋めようと、高所得者層への追加課税に乗り出した。
パリの資産運用会社Scala Patrimoineの創業者ギヨーム・ルッチーニ氏は「当社が扱う資産の大部分はもはやフランス国内ではなく、ルクセンブルクの生命保険契約に流れており、その動きは一段と加速している」と話す。同社は顧客にプロのスポーツ選手や起業家を抱える。
ルクセンブルクの保険会社と提携する税務弁護士オリヴィエ・ルメリアン氏は、同国への資金流入は昨年の選挙期間中「途切れることなく」続き、現在も続いていると話す。また「ブローカーは顧客獲得のために営業をかける必要がほとんどない」という。
ルッチーニ氏によると、「狂気じみた」金額の資産がスイスにも流れ込んでいる。Scala Patrimoineはスイスにも支店を置く。
ルクセンブルクの生命保険の人気商品の1つに、フランスと同じく8年以上保有すると税制優遇を受けられるものがある。この年金型貯蓄商品へのフランス人顧客への投資額は2024年、前年比58%超増え、過去最高の138億ユーロに達した。
2025年の国籍別データはまだ入手できていないが、ルクセンブルクの生命保険全体への資金流入は上半期に再び増加した。金融アドバイザーらは今後1年も好調な推移を予想する。
アヴァンギャルド・ファミリーオフィスの共同創業者ベンジャミン・ル・メトルは、「昨年6月、ルクセンブルク関連の問い合わせが倍増した。以来、新たに不安定な状況が生じるたびに問い合わせが増加している」と話した。
ル・メトル氏によると、自身が運用する新規資金の大半がルクセンブルクに流れている。一方、スイスの安全な避難先としての地位も魅力となっており、人々はスイスで証券保管口座を開き投資している。
こうした投資は、フランスにおける政治的混乱の単なる副産物に過ぎない。正確な数は不明だが、一部の富裕家族は海外移住を進めている。英国で労働党政権が「非居住者」と呼ばれる住民への優遇税制を廃止した後に起こったのと似た流れだ。
イタリアの経済中心地・ミラノは、同国の優遇税制のおかげで大きな恩恵を受けてきた。ただしイタリア政府は今週、同国に移住する富裕層の外国所得に対する年間定額税を50%増額し30万ユーロとする計画を発表した。スペインとポルトガルも富裕層の外国人を惹きつけている。
国外への資産移動は、自発的な国外移住を選ぶよりも一般的な予防策となる。後者は通常、事業の再編や税務当局に対してその人物が実際に国を離れたことを説明しなければならないからだ。だが仏英の富裕層は、比較的移住への抵抗感が小さい。
「1980年から2010年頃にかけて、多くのフランス人がスイスに移住した。しかしマクロン氏が(2017年に)大統領に当選すると、状況の改善を期待し移住が大幅に減速した。現在は再び増加傾向にある」。税務・相続・資産計画を専門とするスイス在住の弁護士フィリップ・ケネル氏はこう説明する。
親ビジネス派で中道派のマクロン氏は8年前に政権を握ると、すぐに富裕税を廃止し、より負担の少ない不動産税に置き換えた。
だが昨年前倒しで実施した総選挙の結果、マクロン氏が大統領の最終任期満了を迎える2027年までの間、親ビジネス的な政策を導入する能力は大幅に制限される。
選挙の結果、議会は過半数を占める政党がなく、複数の首相が失脚した。現職首相は社会党の支持に依存する。左派政党は富裕税の導入を求めている。
ルコルニュ首相は今のところ、フランス人富裕層を対象とした包括的な課税案には反対している。だが政府は来年、持株会社への新税と、国内上位2万人の高所得者に対する一時的な増税を実施し、25億ユーロの歳入増を図る方針だ。
ケネル氏は、不労者向けの一括課税制度があるスイスへの移住を検討する人や、その他スイスでの生活・労働希望者向け制度を利用する人がいると述べた。
「彼らの多くにとって、問題は税金ではない。税金を心配している人も多いが、問題はスイスの提供する安定性にある」(ケネル氏)
ルクセンブルクへの資金移動は、租税を回避するためフランスを去る人が増える前兆となる可能性もある。ルクセンブルクに資金を保有するとそれだけで税制上の優遇を得られるわけではなく、フランス居住者はルクセンブルクから得た利息をフランスで申告する必要がある。ただ二重課税の対象とはならないため、選択肢を検討する間、資金を国外に保留できることになる。
ルクセンブルクの年金商品Carat Capitalのサンドリン・ジェネ共同創業者は「今すぐフランスを離れる準備ができていない人々も、追々必要が生じた際に移動がしやすくなる」と指摘する。
Caratの口座開設は障壁が高く、最低でも25万ユーロ(4400万円)の資産が必要だ。
ル・メトル氏は、明確な財務上の優遇措置がないとしても、ルクセンブルクに資産を置くことは「心理的な利点」があると付言する。
フランスで次に何が起こるかという懸念は、資産運用ビジネスの追い風となっている。ルコルニュ氏が再選挙待ったなしの緊迫から一時的に解放されても、その状況は変わらない。
あるスイス在住銀行家は「18カ月前、80代の裕福なフランス人夫婦が、社会党が政権を握ることを案じ、安全のために資産の約20%をスイスに移したいと相談に来た」と明かす。
「最近また私を訪れ、極右勢力が心配だからスイスにもっと移したいと言ってきた」
Copyright The Financial Times Limited 2025
英語からのDeepL翻訳:ムートゥ朋子
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