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スイス映画「役者になったスパイ」 実在した潜入捜査官

映画「役者になったスパイ」の主人公ヴィクトールを演じたスイス人俳優フィリップ・グラバー
映画「役者になったスパイ」の主人公ヴィクトールを演じたスイス人俳優フィリップ・グラバー Vinca Film

スイス映画「役者になったスパイ」(原題:Moskau Einfach!)は2020年の国内公開時、大きな議論を巻き起こした。スイス史に残る「フィッシュ・スキャンダル」が明るみに出る前の数カ月を舞台にしたこの映画は、1980年代に公然の秘密として暗躍した「潜入捜査官」に基づいている。

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本記事は映画「役者になったスパイ」が制作された2020年にイタリア語で執筆された記事を翻訳したものです。事実関係は更新していません。

役者になったスパイ外部リンク」(ミヒャ・レヴィンスキー監督)は2019年のゾロトゥルン映画祭のオープニングを飾り、多くの議論を呼んだ。物語の主人公は警察官ヴィクトール・シュエラー(フィリップ・グラバー)。チューリヒ市で活動する左翼の反政府謀略を暴くことが任務だ。

映画の舞台は1989年、フィッシュ・スキャンダルが暴露される直前のスイス。反共産主義のパラノイア(偏執病)が猛威を振るっていた。コミッショナーのマロッグ(マイク・ミュラー)は、部下であるヴィクトールにチューリヒのシャウシュピール劇場への潜入捜査を命じる。

任務を完璧に遂行するため、不器用な主人公は「軍隊廃止と脱原発運動に身を投じる若き進歩主義活動家」を装い、劇場のエキストラとして雇われる。役者たちはシェイクスピアの「十二夜」に向け稽古に励んでいた。変装と欺瞞に満ちたこの喜劇のリハーサル中、ヴィクトールは思いがけず若き女優オディール・ヨーラ(ミリアム・スタイン)に恋をし、国家安全保障の計画が狂っていく。

本作の軽やかなタッチと皮肉に満ちたストーリーは、批評家と観客の両方から高く評価された。ただ批判もあった。同作は融和的すぎ、史実を矮小化、あるいは否定する危険性があるとの指摘だ。

一体、本作はどのような事実や数字に言及したのだろうか?

覆面警察官

潜入捜査官という登場人物は、監督や脚本家が創作したものではない。チューリヒ市では、少なくとも1970年代以降、活動家を監視するために潜入捜査官が暗躍していた。彼らは一定期間、身元を偽り、様々な政治運動と接触し、彼らの思想を支持するふりをしていた。こうした活動に関わった警察官の数は不明で、多くは実名を隠し続けた。その例外の1人がヴィリー・シャフナーだ。

シャフナーは若者の抗議運動の支持者を装い、5年間チューリヒに居住した。名前をヴィリー・「シャラー」と偽るだけでなく、容姿も完全に変え、左翼活動家から尋問を受ければ完璧に捏造した経歴書を差し出した。運動内に潜入者が存在することは周知の事実であり、発覚するリスクは非常に高かったのだ。

ジャーナリスト、ターニャ・ポリが書いた「警察官ヴィリー・Sの二重生活」(2016年)の中で、シャフナーは潜入捜査官になった経緯や長年の捜査活動、そしてその後の数年間を回想している。同書は逸話に富んでいるだけでなく、ある職業が突如としてアイデンティティをめぐる実存的な問いを提起することもあることを如実に物語っている。

1980年代初頭、オペラハウス暴動が起きたばかりのチューリヒで、シャフナーは特別な準備もせずに上司から潜入捜査員になるよう命じられる。

シャフナーは長年にわたり、自分とは全く異なる立場の人々と密接な関係を築き、数々の政治デモに参加し、時には逮捕されることもあった。1986年、チューリヒの週刊紙ヴォッヘンツァイトゥング(WOZ)に潜入捜査をスクープされ、しばらくの間姿を消した。

フィッシュ・スキャンダルの発覚後、シャフナーは過去の行動を批判的に見つめ直し、やがて警察と市内の様々な運動の間を仲介するという重要な役割を担うようになった。過去と向き合うシャフナーを主役にしたドキュメンタリー「Der Spitzel und die Chaoten. Die Zürcher Jugendunruhen外部リンク(密告者とトラブルメーカー~チューリヒの若者暴動)」が2020年にドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)で放映された。現在はウーリ州の自宅で隠居生活を送っている。

スパイ製造装置

主演したフィリップ・グラバーは、役作りにおいてシャフナーと緊密に協力した。ドイツ語圏の大手紙NZZ外部リンクのインタビューによると、グラバーが役柄に近づき、当時の諜報機関をより深く理解するのに役立ったという。

「役者になったスパイ」では、主人公はシャフナーと同しく、悪名高きチューリヒの第3刑事捜査局(KK3)に所属する。現在は廃止されたこの捜査局がスパイ活動を行っていたことが、1991年にチューリヒ市議会の調査外部リンクによって暴露された。

チューリヒ市議会が集めた約5万5000件の書類は現在、同市の公文書館に保管されている。チューリヒとスイスの政治運動の歴史を研究するための貴重な資料だ。

チューリヒ市の公的資料に含まれる情報は、連邦政府のそれと同じく、全てが信頼できるわけではない。だが他の資料と組み合わせることで、国家安全保障機構の活動や、1960年代半ばから1980年代後半にかけてチューリヒを覆った複雑な政治、社会、文化環境の真相が浮かび上がる。

独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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