法律上の婚姻関係にある夫婦に対する不平等税制の改善を求めた国民投票結果が無効と判断された問題で、スイス連邦政府は21日、今後の方針を発表した。2回目の国民投票は行われない可能性も出てきた。
このコンテンツが公開されたのは、
連邦内閣は国民投票結果を正式に取り下げた。連邦内閣のヴァルター・トゥルンヘア事務総長は21日会見し、今回の政府によるミスと、それによる投票結果の無効を重く受け止めていると釈明。今後、情報の質の向上に努めるとした。
取り下げを可能に
今回投票結果が無効とされた、結婚罰の是正を求めるキリスト教民主党(CVP)のイニシアチブ(国民発議)については、法的には再投票を実施する権利があるが、CVPがイニシアチブを取り下げた場合は行わないとした。
連邦内閣によると、二度目の国民投票をすぐに行うのではなく、まず連邦議会がイニシアチブに対し、憲法改正を伴わない対案を出すか否かを審議する。これはCVPの要求を取り入れた格好だ。
CVPは21日、声明を出し、連邦内閣の決定を支持した。イニシアチブを撤回するかどうかは議会審議後になるとみられるが、CVPはなるべく憲法ではなく法改正レベルで実現したいという。
国民投票の歴史初
スイス連邦裁判所(最高裁)は4月、通称「結婚罰」と呼ばれる不平等税制の改善を求めた2016年の国民投票結果について、これを無効とする判決を下した。最高裁は、連邦政府が有権者が投票行動を決めるために必要な情報を正確に提供せず、投票の自由が侵害されたことを理由とした。
連邦レベルの国民投票が無効と判断されるのは初めてで、大きな波紋を呼んだ。
>>最高裁が下した歴史的判決について詳しく読む
圧力となるイニシアチブ
問題は、CVPの党内でも意見が分かれている、「婚姻関係にある夫婦」の対象を男女と規定したイニシアチブの文言だ。このイニシアチブが二度目の国民投票で可決されれば、同性婚の合法化を阻んでしまうという懸念がある。CVPによると、大半の党員はイニシアチブを支持。しかし別の意見を持つ党員もいるという。
CVPは同性婚の合法化に手を差し伸べたいとはしつつも、一番の目的はあくまで「結婚罰」を失くすことにあるという。CVPは手中にイニシアチブという「圧力」を手にしていることになる。
議会がCVPの満足する法改正案を出せなかった場合、CVPはイニシアチブを取り下げず、国民投票のやり直しに持ち込む可能性がある。2度目の国民投票で可決されてしまえば、同性婚の合法化が憲法の規定によって妨げられてしまう。
期限は2020年5月27日まで
トゥルンヘア事務総長によると、CVPは内閣が再投票日を決定するまでイニシアチブを取り下げることができる。二度目の投票は2020年9月27日までに行わなければならない。投票日を決める期限は同年5月27日まで。
おすすめの記事
スイス北東部でオーロラ観測
このコンテンツが公開されたのは、
スイス北東部のゼンティス山頂で6日未明、オーロラが観測された。
もっと読む スイス北東部でオーロラ観測
おすすめの記事
ビクトリノックス、刃のないアーミーナイフを開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスアーミーナイフの製造で知られるビクトリノックス社は、世界で広まるナイフ規制強化の波に対応するため、刃のないモデルの開発に取り組んでいる。カール・エルズナー最高経営責任者(CEO)がスイス紙のインタビューで明かした。
もっと読む ビクトリノックス、刃のないアーミーナイフを開発
おすすめの記事
スイス飛行機事故、24%増 紛争地上空ではGPS妨害も
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦運輸省民間航空局(BAZL/OFAC)が3日発表した2023年の航空安全報告書によると、民間・小型航空機の事故件数は9995件と、前年から24%増加した。
もっと読む スイス飛行機事故、24%増 紛争地上空ではGPS妨害も
おすすめの記事
「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦裁判所(最高裁)は先月26日、チューリヒ地方裁判所の判事の1人に対し、気候活動家に関する裁判への関与を禁じる判決を下した。この判事が過去の裁判で活動家への団結心を見せたとして、考え方に偏りがあると結論付けた。
もっと読む 「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁
おすすめの記事
スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦統計局は25日、2023年の名目賃金は1.7%上昇したと発表した。インフレ(年平均2.1%)に相殺され、実質賃金は0.4%低下した。
もっと読む スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下
おすすめの記事
製薬大手ノバルティス、次期会長候補に米製薬BMS出身者選出
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの大手製薬ノバルティスは22日、2025年で任期満了となるヨルク・ラインハルト取締役会長の後任に、ジョバンニ・カフォリオ氏を選出すると発表した。
もっと読む 製薬大手ノバルティス、次期会長候補に米製薬BMS出身者選出
おすすめの記事
スイスで見つかったラムセス2世像破片、エジプトに到着
このコンテンツが公開されたのは、
エジプト考古省は21日、約30年前に盗まれ国外に流出したラムセス2世像の頭部破片が同国に到着したと発表した。
もっと読む スイスで見つかったラムセス2世像破片、エジプトに到着
おすすめの記事
スイス議会、G7のロシア資産追及チームへの参加を否決
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国民議会(下院)は17日、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)の資産を追及する主要7カ国(G7)の国際作業部会には参加しないことを決めた。
もっと読む スイス議会、G7のロシア資産追及チームへの参加を否決
おすすめの記事
米・イラン、攻撃前に「スイスを通じて」接触
このコンテンツが公開されたのは、
米政府高官は14日、イランによるイスラエル攻撃の前後に、米国は利益代表国であるスイスを通じてイランと接触していたと述べた。
もっと読む 米・イラン、攻撃前に「スイスを通じて」接触
おすすめの記事
チューリヒ春祭りの雪男、強風で燃えず 歴史上初
このコンテンツが公開されたのは、
チューリヒの春祭り「セクセロイテン」が15日開かれた。巨大な「雪男」を燃やして夏の天気を占う恒例行事は強風により中止となった。
もっと読む チューリヒ春祭りの雪男、強風で燃えず 歴史上初
続きを読む
おすすめの記事
「結婚罰」問う国民投票で政府のデータミス発覚 スイス初の再投票か
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで2016年に実施された夫婦に対する税制上の不均衡是正を問うイニシアチブ(国民発議)で、議論の根底を成すデータに誤りがあったことがわかった。不均衡税制の対象となる既婚夫婦が、当時示された組数の4倍以上いた。イニシアチブを提起したキリスト教民主党は投票のやり直しを求めており、実現すればスイス史上初となる。
もっと読む 「結婚罰」問う国民投票で政府のデータミス発覚 スイス初の再投票か
おすすめの記事
スイス連邦内閣、夫婦への「不平等」税制を是正へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイスでは、結婚した夫婦が事実婚の同居カップルに比べ、より高い税金を支払っているケースが多い。累進税率を採用しているこの国では、正式な婚姻関係を結んでいない同居カップルは個人単位で課税されるが、夫婦ではそれぞれの所得の…
もっと読む スイス連邦内閣、夫婦への「不平等」税制を是正へ
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。