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スイスの政治 国際法より国内法を優先?「国内法優先イニシアチブ」とは

スイス

グラールスの住民投票。イニシアチブが可決されたら、スイスにどのような影響をもたらすのか

(Keystone)

スイスでいま、国際法より連邦憲法を優先するよう求めるイニシアチブ(国民発議)が話題になっている。発起人の右派国民党は「(憲法を最上位にすえることで)スイス固有の民主主義を取り戻す」と訴えるが、連邦政府などは、国際法を軽んじる姿勢を取れば他国の信頼を失うと反対する。一体どんな内容なのか。

 イニシアチブの正式名称は「よその裁判官ではなくスイスの法律を(国内法優先イニシアチブ)」。スイスの国内法と国際法にどう優先順位をつけるべきかを示した内容だ。3月の全州議会(上院)では同イニシアチブと急進民主党の対案の両方が審議され、どちらも否決された。ただ議会の決定に関係なく、来年にも国民投票でこのイニシアチブの是非が問われる。

現在の国内法と国際法の優先順位はどうなっている?

 現状はあいまいだ。国際法は原則としてスイス国内でも直接適用され、それに準じた国内法を作る必要はない。対外的に条約を侵した場合はその責任を負わなければならない。また、スイスでは国際法上の強行規範(拷問、奴隷制度、侵略の禁止など)がいかなる法律よりも優先される。

 それ以外の「一般的な」国際法と国内法が競合する場合、どちらを優先するかは明確な規定がない。連邦内閣は2010年3月5日、「連邦と州(カントン)は国際法を考慮する」と規定された連邦憲法第5条4項他のサイトへから「国際法が(国内法より)常に優先されるとまではいえない」との見解を出した。国際法と矛盾する内容と知っていて作られた法律でも人権が守られているものであれば、その法律を優先する、との連邦最高裁判所の判例もある。 

国民党がイニシアチブを立ち上げた理由は?

 これに対し、国民党は「近年、連邦最高裁判所、連邦内閣、行政、法曹界は国際法が国内法に優先する、という風潮にある」と批判。その顕著な例が、2012年10月12日、最高裁が「外国人犯罪者を国外に追放するイニシアチブ」(国民党が発議、10年に国民投票で可決)に関連して出した判決だという。国民党は最高裁がこの判決で「強行規範でない国際法も、連邦憲法と連邦法に優先する」との見解を出したとして、強く批判している。国民党はこのため今回のイニシアチブを立ち上げ「スイス国民の権力のはく奪」を防ぎたいと主張する。 

イニシアチブが可決されたらどうなる?

 根幹となるのは「いかなる場合においても連邦憲法は国際法に優先する(ただし強行規範は例外)」という条項を、連邦憲法に盛り込むことだ。国際条約が連邦憲法に抵触する内容であれば、国際条約を変更するか、破棄する。

 一方、連邦法などと国際条約が相反する場合、どちらを優先するかについては、その国際条約がレファレンダム(議会の決定に関する国民投票)にかけられたものであることが前提条件となる。ただ、イニシアチブでは、レファレンダムにかけられた国際条約と国内法が矛盾した場合、裁判所が実際にどちらを優先するのかについては明確にしていない。

 従来と変わらないのは、強行規範はいかなる場合でも優先されるという点。裁判所に違憲審査権がない点もこれまでと同じだ。

「国内法優先イニシアチブ」

イニシアチブには複数の憲法改正事項が含まれる。詳細は以下の通り。 

  • 連邦憲法はスイスの法体系の最上位に置く。
  • 連邦憲法は国際法に優先する。ただし国際法の強行規範(拷問、奴隷制度、侵略の禁止)は例外とする。
  • 連邦と州は、連邦憲法に抵触するいかなる国際法上の義務を負わない
  • 連邦憲法と国際法上の義務が相反した場合、スイスは該当する国際条約を変更するか、破棄する。ただし国際法の強行規範は例外とする
  • 連邦法およびレファレンダムにかけられた国際条約は、裁判所およびその他司法機関において効力を持つものとする。
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イニシアチブが可決されたら、欧州人権条約(EMRK)は破棄されるのか?

 スイスは1974年に欧州人権条約に批准したが、人権保護団体「シュッツファクトール・M」(仮訳「人権が私たちを守る」)などイニシアチブの反対派は、国民党が同条約の破棄を視野に入れていると訴える。しかし国民党は「条約の破棄を目指すという文言はイニシアチブのどこにも明記されていない」と否定する。

 例えば、スイス連邦憲法ではミナレット(イスラム教のモスクに付属する塔)の建設を禁止しているが、欧州人権裁判所が「欧州人権条約の下で保障された信教の自由に反する」という決定を出したとしよう。イニシアチブが可決されたと仮定した場合、憲法が最優先となるため、スイスは欧州人権条約を変更するか、破棄の二択を選択できる。だが条約の修正は現実的ではなく、起こりうるのは条約の破棄だろう。ただ、どの段階で破棄すべきか、イニシアチブは明記していない。したがって、必ずしも破棄されるというわけでもない。実際、欧州人権裁判所から判決が出されたにもかかわらず、それを無視し続けている国もある。

イニシアチブが可決され、欧州人権条約より連邦憲法が優先されたら、スイスで人権は守られなくなるのでは?

 そんなことはない。一つ目に、スイスの連邦憲法は欧州人権条約とほぼ同一の基本的人権を保障している。二つ目に、国連の国際人権規約に盛り込まれた人権条項は、他の法律と「競合」した場合でも(破棄されない限り)優先される。同規約はレファレンダムで可決されたものだからだ。

 反対派はこのイニシアチブによって人権が脆弱化すると主張する。欧州人権条約は一度もレファレンダムにかけられていないため、例えば何らかの人権問題が生じた場合に欧州人権条約が適用できない、もしくは条約自体が破棄されてしまう、さらにスイス在住者が欧州人権裁判所に訴えることすらできなくなるおそれがあるという。欧州人権裁判所はこれまで、スイスの刑事訴訟法などの国内法に大きな影響を及ぼしてきたという背景もある。

 欧州人権条約が一度もレファレンダムにかけられていないという問題を解消するためには、スイスが欧州人権条約を破棄し、新たな条約に批准し、レファレンダムにかけるというシナリオが考えられる。だが実現可能か否かはまた別の問題だ。

国民党のイニシアチブと急進民主党の対案の違いは?

 国民党のイニシアチブは、原則として国内法が国際法に優先するという内容。急進民主党の対案は、原則として国際法を優先するが、例外として、連邦議会があえて国際法に反する法律を制定し、それが人権を侵害するものではない場合は、裁判所はこの法律を適用する。これは、最高裁の判例に沿ったものだ。

イニシアチブが可決されたら欧州、とりわけ欧州連合(EU)との関係はどうなるのだろうか?

 連邦政府や反対派は、イニシアチブが可決されたら、スイスが国際法を遵守しない国とみなされ、条約締結の相手国として信頼を得られなくなると危惧する。とりわけ欧州人権条約を破棄する事態に発展すれば、スイスのイメージに大きな傷がつき、他国へのドミノ効果も懸念される。欧州人権裁判所の判決にスイスが従わなかった場合、欧州評議会とあつれきが生じ、制裁に発展するおそれもある。

 EUとの関係には影響が出そうだ。反対派は、移民イニシアチブを巡るEUとの交渉が頓挫した場合、スイス政府は人の移動の自由を定めた二国間協定を破棄しなければならなくなると指摘する。

 スイスの好調な経済が危ぶまれるという指摘も多い。輸出産業は、国外市場へのアクセスを認める国際協定に大きく依存しているためだ。

欧州諸国は国内法と国際法をどのように位置づけている?  

 フランスは国際条約が国内法に優先。ただし相手の批准国が条約を遵守している場合に限る。オランダも国際法が国内法より上位に位置づけられる。英国は逆で、原則として国内法が国際法に優先する。ロシアでは憲法裁判所が2015年、国内法が国際法に優先するとの判決を出した。

 ドイツは国際法が基本的に優先されるが、一つだけ例外がある。ドイツの政治関係を規律する国際条約、もしくは連邦の立法の対象に関わる条約は「同意法」が必要になる。これらの協定には優先順位がなく、ドイツの法律と同位的に扱われる。

 フィンランドやデンマークなど一部の国では、原則として国内法に規定される場合にのみ、国際法の条項が直接適用される。このため国際協定を適用する場合は、改めて国内法で規定する必要がある。これは国内法と同位の位置付けとなる。

 (独語からの翻訳・編集 宇田薫)

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