メタノイア アイガー北壁 伝説のスイスルート、再び

(Stephan Siegrist)

難所として知られるアイガー北壁。中でも「メタノイア」ルートは、伝説の米登山家ジェフ・ロウさんが初登を果たしたのち、四半世紀にわたって第2登者が現れないままだった。

 2016年が幕を閉じる直前、スイスとドイツの3人の著名プロ登山家が、アルプスの中でも特に険しく困難なことで知られる「ロウの傑作ルート」第2登という悲願をついに果たした。

(Stephan Siegrist)

 スイス人のプロ登山家シュテファン・ジーグリスト他のサイトへさんとロジャー・シェリ他のサイトへさん、そしてドイツ人のトーマス・フーバーさんは1月9日、昨年12月29日と30日の両日で同ルートの登攀(とうはん)に成功したと報告。クリスマス前の週から悪天候に阻まれ、何度かトライを繰り返した後の完登だった。

 遡って91年、ロウさんは激しい吹雪の中、ただ一人で9日間も冬山の厳寒に耐え、このルートを開拓した。当時の様子は14年の記録映画「メタノイア」に描かれている。「メタノイア」とは、悔い改めや精神的な転化によって人生の進路が変化することを意味する。世界各地の1千を超える山の初登を果たしたロウさんは、従来の登山スタイルではなく、軽装で機敏な「アルパインスタイル」の支持者だった。

個人的な勝利

 ロウさんは離婚の悲しみと金銭的な苦労に耐えた後、自分の人生と折り合いをつけようと決心。そして、アイガー北壁を直線的な新しいラインで登ることにした。その際には、ボルトを一切使わなかった。最小限の装備しか使わないエクストリーム・アルピニズムの先駆者たちへの賛辞のつもりだった。

 今回の第2登を成し遂げた1人、フーバーさんも一風変わった登山歴の持ち主だ。彼の情熱に、登山仲間のジーグリストさんとシェリさんは即、引き込まれた。

 ロウさんは現在、神経変性疾患を患い、車椅子の生活を余儀なくされている。自分が登ったルートの第2登成功の知らせに大喜びした。そして、「彼らがこのルートを、厳しく、険しく、だが美しく、そして想像力に富んだものだと思ったと聞いて、うれしくもあり満足もしている」と語った。

確証

 第2登が果たされ、登山の規模ついての理解にも新鮮な空気が流れ込む。

 「メタノイアの質を彼らが確証したことはとても喜ばしく、同時にまたかなり謙虚なことでもある」とロウさんは言う。「何よりも素晴らしいのは、私が登山でやってきたことをトーマスが理解したことだ。私は、エクストリーム・アルピニズム精神の評価を高めるような、環境に配慮するやり方で、アルピニストが進歩していく一つの例を作ろうとしていた」

 ジーグリストさんとシェリさんにとって、第2登は自己の登山歴のハイライトだ。2人はこれまでにもアイガー北壁に何十回も挑んでいる。アイガーはシェリさんのお気に入りだ。一方のフーバーさんは、ロウさんにとってアイガーがどんなものだったのかということをいつまでも感じ続けたいと話す。

 「彼がやり遂げたことは、まさに狂気の沙汰だ。メタノイアを通じて、ジェフは不可能に見える挑戦も、情熱さえあればやり遂げられることを証明したのだ」


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(英語からの翻訳・小山千早)

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