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アール・ブリュット日本人作家展、神に導かれて

小幡正雄、「無題」、製作年不詳、鉛筆・色鉛筆・ダンボール、49.1x59.3cm

芸術の1分野であるアール・ブリュットで世界的に有名な、ローザンヌの美術館「ローザンヌアール・ブリュット・コレクッション ( la Collection de l’Art Brut, Lausanne ) 」で、日本の12人作家展が開催されている。

このコンテンツは 2008/02/25 15:46

今回出品された100点には、西欧のアール・ブリュットに慣れた人にとっては、まったく新しい表現や造形性に溢れ、さらに日本的なものがあるという。

アール・ブリュットは「生の芸術」と訳されるように、専門の芸術教育を受けず、表現や創造過程が独自で、新しい発見をもたらす、しばしば特定の文化的体系に属さない人による芸術をいう。また作者が社会的評価や賛辞に無関心であることも定義の1つであり、社会的には疎外された人が多い。今回「日本のアール・ブリュット展」に招待された12人の日本人作家は、健常者の間宮英次郎氏を除いて、全員が自閉症などの病気を患っている。しかし彼らが生み出す、見たこともないような造形性とその創作への衝動は観る人の心を打ち、まるで神がそうあるべく意図して導いたようなところがある。( ギャラリーも合わせてご覧ください )

言葉にならないだけ

会場に入ると、男と女、または女と女の2対の人物が、シンメトリックに正面を見て立つ絵が目に飛び込んでくる。その穏やかな表情は、赤鉛筆で塗られているせいで輝く女神のようだ。装飾的な植物のモチーフも、やさしさを添えている。ビデオで、なぜ赤を使うのかと質問された作者の小幡正雄氏は、
「赤はめでたい、よう目立つ色。ほかに色もあるけどな、ほかの色を使うと時間がかかるからな。始めた絵は終わらんといけんからな」
と答えている。小幡氏は自分の表現したいものに赤が合うこと、赤 (ダンボール上に描かれるので淡くなった赤) には、救われるような浄化力があることを知っている。ただ、言葉にならないだけだ。


隣に、瓶、消火器などが黒いかたまりに形を変え並んでいる絵がある。ビデオで作者の舛次崇 (しゅうじ たかし )氏 はコンテの黒色を、まるで紙に刷り込むように何回もこすりつけている。その後、消しゴムで消しながら輪郭を作るため、形が切り込んだように紙に浮かび上がる。それら黒の形の横にパステルの青がさっと添えてある。舛次氏の作品はその黒が気品を持って、圧倒的な力で訴えてくる。

また、瓶などのオブジェの画面上の構成、配置はリズムがあり作品として見事に完成されている。
「最近は製作時間が長くなった。でも彼の中でこれで終わったという意識はきちんとあって、完成するとスクッと立ち上がるか、絵を持って私のそばで待っている」
と、「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」のアートディレクターで、知的障害者のためのアトリエを長年開催してきた、はたよしこ氏は言う。彼も言葉が語れないだけで構成力、バランスなどに対する感性は天性のものとしてあるにちがいない。影のように描かれたオブジェの黒色の力、しかもそれが粉となって積み重なる時のインパクトも知っているにちがいない。

日本作家の中の日本的なもの

以上の作品には、空いた空間などを含め画面に構成力があり、いい意味で軽く、温かい。ところが、一般に知られている西欧のアール・ブリュットの作品は1つのモチーフが画面を埋め尽くすように描かれ、重く暗い。

「それは、西欧の作品は分裂病など精神障害の人のものが中心だから。自分の失った世界をもう一度構築しようと画面を覆いつくし、重い。ところが、日本のアール・ブリュット作家は、自閉症やダウン症など知的障害の人が中心で、彼らの描くものは直感に従ってポンと描くからでしょう」
と、はた氏は説明する。知的障害の人は、言葉をしゃべらない場合が多いためその分、内面世界を造形的に表現しようという力が強いという。

日本に滞在して、今回の作家、作品を選んだアール・ブリュット・コレクッションの館長リュシエンヌ・ペリー氏は、
「日本の作家に、世界中のアール・ブリュット作家に共通する芸術的で、古代的な創造への衝動を感じた。しかし同時に非常に日本的なものも感じる」
という。

それは、日本の造形文化の持つ気品であり、例えばお菓子の包み方1つをとっても現れる、物を大切に扱う態度やデザイン性だという。確かに、例えば舛次氏には、日本の墨絵などの伝統が意識の奥深くにあるかも知れない。いずれにせよ今回12人の作家の、見たこともないような造形の新鮮さ、表現が生み出す純粋な力、創造への限りない衝動は、多くの人の心を打つにちがいない。

swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) ローザンヌにて

キーワード

「日本のアール・ブリュット展」

戸来貴規、石野光輝、喜舎場盛也、本岡秀則、西川智之、小幡正雄、澤田真一、舛次崇、富塚純光、辻勇二、宮間英二郎、吉川敏明、以上12人の作家の展示。

展示された作品の横に、作家に関する9本のドキュメンタリーフィルムが上映されている。

場所、アール・ブリュット・コレクション ( la Collection de l’Art Brut, Lausanne )
Avenue des Bergières 11 CH-1004 Lausanne,Tél. +41 21 315 25 70

開館日と時間、2008年2月22日から9月28日まで。火曜日から日曜日の11時から18時まで(祭日、復活祭の月曜日も含む),7月および8月は月曜日も開館、月の最初の土曜日は入館無料

入館料、 10フラン( 約1000円 )、割引料金 5フラン( 約500円 )、6人以上の団体 1人5フラン、失業者および16歳以下 は入場無料

日本語による無料ガイド、 4月17日19時(要予約)

アトリエ、 6歳から12歳までの子供対象,要予約
2008年4月9日(水)、5月28日(水)、9月10日(水)
2008年3月8日(土)、4月26日(土)、5月17日(土)

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アール・ブリュット

アール・ブリュットは「生の芸術」と訳されるように、専門の芸術教育を受けず、表現や創造過程が独自で、しばしば特定の文化的体系に属さない人による芸術をいう。また作者が社会的評価や賛辞に無関心であることも定義の1つであり、社会的には疎外された人が多い。

アール・ブリュットの発見者であり、理論家であるフランスの画家ジャン・デュビュッフェは、子供の絵、精神障害者の絵などを積極的に集め、1949年には60人の作家、200点の作品の展示がパリのギャラリー・ドルーアンで行われた。

1940年代、主にフランスのシュールレアリストたちはアール・ブリュットを創作のインスピレーションの1つの源泉とした。

1971年、ジャン・デュビュッフェとローザンヌ市長との間で行われた交渉で、デュビュッフェのコレクッションが現在の「ローザンヌアール・ブリュット・コレクッション ( la Collection de l’Art Brut, Lausanne ) 」に寄贈されることが決まった。

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「日本のアール・ブリュット展」成立の背景

今回の展覧会は、社会福祉法人滋賀県社会福祉事業団理事長の北岡賢剛氏が2年間かけ「ローザンヌアール・ブリュット・コレクッション」側と交渉した結果成立した。北岡氏は滋賀県の社会福祉事業の一環として、近江八幡にアール・ブリュットのギャラリー「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」を創設した。

ここでは、アール・ブリュットの作家のものと、現代アーティストの展示が同時に行われている。童話作家でもある、はたよしこ氏は長年知的障害の人のために絵画教室を開き、4年前から同ミュージアムのアートディレクターを務める。

今回、ローザンヌで展示された日本人作家の100点は展示後ローザンヌ側に寄贈される。一方、主にスイス人作家の60点の展示が日本の旭川(旭川美術館、1~2月、近江八幡(ボーダレス・アートミュージアムNO-MA、2~5月)近江八幡、東京(汐留ミュージアム、6~7月)で行われる

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