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サムライブーム 映画を通してスイス人が観る日本

動員数は高いものの、米国人が監督のサムライ映画に対しては厳しい評価。映画「ラスト・サムライ」. Warner Bros

スシやサシミはすでに流行おくれ。「ブシドウ」、「ローニン」、「サムライ」、「ザトウイチ」がスイス人の会話に侵入し始めている。サムライ映画からスイス人が学んだ単語である。

サムライ映画は以前から、1つのジャンル。黒沢明監督の「七人の侍」でスイス人はチャンバラを知った。現在、「たそがれ清兵衛」、「ラスト・サムライ」、「キル・ビル」、「座頭市」が上映中。武士道と映画における暴力シーンが話題になっている。動員数ではハリウッド映画が上位を占めるが、日本映画への評価は高い。スイス人が解釈する武士道とはなにか。その片鱗を垣間見る。

 米国の文化に批判的なスイス人は多いが、映画に関してはハリウッド映画が好き。2月26日付けドイツ語の経済新聞「キャッシュ」によると、昨年の映画の入場数の多い順に、ファインディング・ニモ(米アンドリュー・スタントン監督)(108万人)、ロード・オブ・ザ・リング第1作(米ピーター・ジャクソン)(87万人)、用意ドン、チャーリー(スイス・マイク・エシュマン)(5万3200人)、マトリックス リローディド(米ラリー・ウォシャウスキー監督)(5万3100人)となっている。 その一方で、ベネチア映画祭で一躍有名になった北野武監督の映画を代表とする日本の時代劇が続々と上映され、日本文化に接する機会が多くなった。

「たそがれ清兵衛」を理解するスイス人

 スイス映画協会プロシネマの統計でみると、昨年10月中旬から上映の「キル・ビル」(クエンティン・タランティーノ監督)は2万人、12月中旬から始まった「たそがれ清兵衛」(山田洋次監督)は6600人、新年から始まった「ラスト・サムライ」(エドワード・ズウィック監督)はハリウッド映画でもあり27万人、2月から上映の「座頭市」は1万人が観た。サムライ映画は人口700万人のスイスで健闘しているといえよう。

 「座頭市」を上映中の「リフ・ラフ」映画館のフランク・ブラウン氏は、「日本映画のほかに中国や韓国の武芸物が偶然、集中した。美しいシーンが盛りだくさんで、別世界を垣間見ることができる。日本映画のエキゾティックさにいつも惹かれる」といま流行している理由を分析する。 各紙の映画評から判断すると、動員数は少ないものの、受け入れ度は「たそがれ清兵衛」が高い。「寡黙な男の魅力。癒しのオアシスがある」(ドイツ語日刊紙ターゲス・アンツァイガー)と不言実行の日本人に魅力を感じるらしい。映画評論家のティス・ブルンナー氏は、アジア、アフリカの映画を好む。「日本人は日本のことが誰よりも分かっている。オリジナルであることが重要だ」。だから、「ラスト・サムライ」は「悪趣味。たとえば日本人が作ったアルプスの少女ハイジには興味はない」と語気が荒い。

良い暴力と悪い暴力

 「ラスト・サムライ」が真実に迫ろうとして中途半端に終わっている一方で、深作欣二監督に影響を受けたといわれる「キル・ビル」は映画の中の物語として受け入れられるシュールレアリズム(NZZゾンターク紙)だと評価が高い。また、チャンバラシーンに終始する「座頭市」は、「暴力の中に美を堪能できる」と日刊紙のノイエ・チュリュヒャー・ツァイトゥング紙は評価する。スイス人が一般に暴力を好むのではない。「暴力に対する捕らえ方が違う日本映画は魅力的だ」と語るのは前出のフランク・ブラウン氏。「暴力をそのまま受け入れ、道徳的評価を下さない。日本人的な暴力の捕らえ方はスイス人になじむ」という。

 武士道を極めなくとも、サムライ映画を通して日本人の精神を理解しようとするスイス人。これからもスイス人は、神秘な日本文化に惹かれ続けてゆくようである。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

スイス全国での入場者数
「キル・ビル」2万人
「たそがれ清兵衛」6600人
「ラスト・サムライ」27万人
「座頭市」は1万人

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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