バイオ燃料の「魔法の実」は争いの種

ジャトロファの実が、人道援助団体と代替燃料製造会社の対立の種となっている。スイスのバイオ燃料製造メーカーはジャトロファをモザンビークから輸入し、バイオ燃料を作ろうと計画中だ。
これに対しスイスの人道援助団体「スイスエイド ( Swissaid ) 」は、ジャトロファ ( 学名Jatropha Curcas ) の実は原油の代替燃料となるような魔法の実ではないと主張し、ジャトロファの栽培は食糧生産を脅かすものだと結論付けるリポートを発表した。
5年間のモラトリアム
「当初いわれていたこととは逆に、ジャトロファは病害に弱く、そのため大量の水が必要である上に、肥料や殺虫剤が使われる」
とスイスエイドのティナ・ゲーテ氏は指摘する。複数のスイスの非政府組織 ( NGO ) の依頼を受け、モザンビークの農家協会の会員が、ジャトロファ栽培の影響を調査した結果が発表された。ジャトロファは砂漠のような乾いた土地でも生育するとこれまではいわれてきたが、これは間違いで、多くの場合、肥沃な大地に成長するとゲーテ氏は明言する。
「ジャトロファの栽培は、モザンビークの持続的な開発に寄与しないことはすでに明らか」と調査は結論付け、モザンビークでのジャトロファ栽培を向こう5年間中止することを提案した。
調査結果が発表された時期は、偶然ではない。連邦国民会議 ( 下院 ) で、バーゼルシュタット州社会民主党 ( SP/PS ) のルドルフ・レヒシュタイナー氏がスイス国内でジャトロファを使ったバイオ燃料の製造を5年間中止するモラトリアムを間もなく提案する予定になっている。すでに全州議会 ( 上院 ) の準備委員会では、レヒシュタイナー氏の提案を支持している。
一方、「グリーン・ビオ・フュエル・スイス ( Green Bio Fuel Switzerland AG )」は、モザンビークからジャトロファを輸入し年間10万リットルのバイオ燃料を生産する施設の建築を予定しているが、5年間のモラトリアム提案に全く理解を示さない。
「政治的な圧力と調査報告で、レヒシュタイナー氏と人道援助団体はスイスにダメージを与えるような妨害政策をしている」
とグリーン・ビオ・フェル社の広報担当者、ウーリヒ・フライ氏は反論する。改正された石油税と燃料エコバランス条例があるので、モラトリアムは不必要だというのだ。
賛否両論
ドイツやアメリカのカリフォルニア州と同様、スイスでは再生可能エネルギーの製造や輸入は非課税にし、これを推進する政策を取っている。フライ氏は、環境政策の目標以外にも、社会的な観点からディーゼルオイルの総消費量の5%はバイオ燃料で代替されるべきだという意見だ。
「モザンビークでのジャトロファの栽培は1万ヘクタールにつき1500人の雇用を生む。都会のスラム化が避けられる」
と語る。
スイスエイドのゲーテ氏は社会的貢献度についても、ジャトロファ栽培を許可制にした途端に、わいろの道が開かれると警告する。
「投資家がライセンスをもらう代わりに、井戸を掘ったり病院を建てたりすると約束することで官僚を釣るといったケースがある」
レヒシュタイナー氏とスイスエイドの要求するモラトリアムは、すでに2007年に国連特別調査員だったジャン・ツィーガー氏が要求したモラトリアムと内容はほぼ同じもの。ツィーガー氏は当時からバイオ燃料は食糧生産の犠牲の上に立つと指摘し、バイオ燃料で車を走らせる人は、南諸国の人々を飢餓に陥れると警告していた。
レナト・キュンツィ、swissinfo.ch
( ドイツ語からの翻訳、佐藤夕美 )

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