スイスでは現在、多くの射撃愛好家が、新しい銃規制による趣味存続の危機を感じている。スイスで射撃は最も人気のあるスポーツの一つだ。射撃の始まりは中世後期にさかのぼるが、特に19世紀に入ってから、スイス人のアイデンティティ形成で重要なポジションを占めるようになった。
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グラウビュンデン州出身の教育史専門家。主な関心テーマは政治、社会問題。
Didier Ruef(写真)& Andrea Tognina(文)
今月19日の国民投票では、銃の取り締まりを厳格化した欧州連合(EU)の新規制をスイスも踏襲するかどうかが問われる。スイスの射撃愛好家たちは、同案件が可決されれば、自分の趣味が維持できなくなると恐れている。たとえ連邦政府がEUに対し、スイスの伝統の特殊性を認めさせ、国の銃規制を尊重する例外規定を認めさせることができても、だ。
スイスの田園地帯を散歩したことがある人ならきっと、射撃場を見かけたり、アサルトライフル(自動小銃)を肩にかけた一般市民に出くわしたりしたことがあるだろう。
多くのスイス人は射撃をこよなく愛する。射撃クラブだけでも13万人が登録している。スポーツ射撃は国の伝統だと捉えられているのだ。伝説の国民的英雄ウィリアム・テルは息子の頭上に乗せたりんごを見事に撃ち抜き、ゲスラー代官から市民を解放した。
史実上も、射撃は19世紀初頭における近代スイスの国家形成に強く結びついている外部リンク。射撃クラブの活動の幅は、ナポレオンの時代から着実に広がっていった。1824年、最初の連邦射撃祭がアーラウで開催された。その後数年間で、祭りや射撃クラブは、初期のリベラル運動における重要な会合場所となった。
1848年に連邦国家が誕生し(任務外での射撃訓練も義務付けられていた)徴兵制が導入されると、新しい射撃場が国内全域に次々と現れた。
市民から愛好家まで
スイス軍に属する国民(男性)は、この若い自由主義国家のアイデンティティを構成する要素となった。国は射撃クラブに対し、兵士に射撃訓練の機会を提供するよう義務付けた。こうして軍の文化と、市民が武器に触れる文化は密接に関わり合うようになった。
20世紀末には、スイスの共和主義の典型ともいえる、市民と兵士の間の同一性は衰退した。だが、武器への情熱は依然としてスイス社会に広まったままだ。
一方で、スイスでは退役後も希望者は武器を自宅に保管しておくことができるが、そのような人は年々減り続けている。
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写真はすべて2016年と2017年に撮影された。
(独語からの翻訳・宇田薫&大野瑠衣子)
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