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デジタル化される中世の写本

館内ではガラスケース越しに貴重な文献を目にすることができる

これまで、スイス最古の図書館が所蔵する、暗号に関する本や手書きの聖書は、本格的に研究する専門家だけが手に取ることができた。

ザンクトガレン修道院付属図書館にある2100冊の蔵書のうち1冊でも閲覧したいと思ったら、門をくぐる前にまず推薦状を提出して閲覧許可を得なければならなかった。しかし、それも変わろうとしている。

デジタル化

 1200年の歴史を持つザンクトガレン修道院の図書館内で、今、デジタル化という大変動が起きている。膨大な数の名高い写本がオンラインで閲覧できるようになる。

 この図書館には、世界で最も古い修道院のコレクションの一部が収められており、その半数は中世に書かれたものだ。代表的な写本はバロック様式の展示室内で見ることができる。この展示室には観光客が絶えず訪れ、古代の本、スケッチ集、辞書、詩集、なぞなぞの本をガラスケース越しに眺めていく。別の閲覧室には、慎重に蔵書を扱う研究者の姿がある。

 現在、最新の画像処理技術を用いた中世の写本のオンライン化の作業が進んでおり、閲覧希望者はいつでも無料でアクセスできるようになる。
「ザンクトガレンは世界屈指の写本を収めた図書館の一つです」
 と、フリブール大学のプロジェクトリーダー、クリストフ・フリュエラー氏は言う。
「このプロジェクトには2つの目的あります。まず、コレクションの知名度を上げることです。そして次に、さらに大掛かりな目標ですが、科学的なサイトに仕上げることです。専門家がこの図書館を十分に活用でき、また、将来的には新情報や研究成果を追加できるようになる空間です」

自宅で研究

 アンドリュー・メロン財団から100万ドル ( 約9600万円 ) の助成金を受け、図書館は紀元1世紀以前に書かれた355冊の古写本のデジタル化に取り組んでいる。この355冊は来年までに同図書館の「バーチャル図書館」のサイトに更新される予定だ。まず、特製の台の上に乗せられた写本は140度の角度に開かれ、吸引装置により該当ページが平らに伸ばされる。その後、高性能カメラで真上から撮影され、100MBの画像として保存される。写本1冊の撮影作業には約1日かかり、サイトには専門家による注釈も載せられる。

 2005年の最初の試験的プロジェクトでは、スイス国内の14の図書館にある中世の写本の一部がオンライン化されたが、その大部分はザンクトガレンの蔵書だった。今年末までにこのサイトへの訪問者数は約15万人に上ると予想され、実際に図書館を訪れる人数よりもはるかに多い。
「閲覧したい写本を自宅で読むことができるのですから、当然、専門家にとっては非常に便利なサイトです。そして、何か特別なことを確認したい時には、実際に図書館に足を運べばいいのです」
 とフリュエラー氏は言う。
「インターネットが文書研究の方法を完全に変えると思います。また、一般の人たちも図書館の貴重な財産をより身近に感じるようになるでしょう」

 このザンクトガレンの「オンラインコレクション」は、現在平行して作成されているさらに大規模な「スイスバーチャル写本図書館」の中核を成すことになる。今後4年間で、スイス国内からさらに100冊が追加される予定だ。
「このプロジェクトのとても良い点は、学術的だということです。ほかの図書館のデジタル化のプロジェクトでは、ただ写真を撮り、サイトに掲載するだけです」
 と、プロジェクトスタッフのアンネ・マリー・アウステンフィールド氏は説明する。
「まず、写本の画像化が最初のステップです。そして次に、専門家と共同で写本の解説を書きます。そうすることで、閲覧者は学術的な解説も読むことができ、素人だけでなく専門家にとっても非常に役立つ情報になります」

ウェイクアップ・コール

 プロジェクトチームの希望は、このバーチャル図書館が将来、ウィキペディアのように研究者が意見交換をでき、説明を追加補足できるような「科学的な場」に発展することだ。図書館に収められた写本は歴史に刻まれた一場面であり「人類の宝」であるため、今後も、だれもが自由にサイトにアクセスできるようになっている。

 また、バーチャル図書館の利点は、本を実際に閲覧する際に生じる磨耗や破損の件数を大幅に減らすことができるため、本の寿命を長く保つことができることだ。近年、火事や洪水により、スイスやドイツにある図書館や教会の貴重な蔵書が被害に遭っていることから、デジタル化はもう一つの保管方法になるともアウステンフィールド氏は言う。
「今回のザンクトガレンのプロジェクトは、ほかの図書館に向けた『ウェイクアップ・コール ( wake-up call ) 』だと思います。今のところ実現可能な最も高い解像度の画像を残すことで、図書館が所蔵する本の保管体制をさらに強化することができます」

 「図書館には2つの義務があります。古文書の保存と利用です」
 と、フリュエラー氏は言う。
「これまで、この2つを両立させるのは無理でした。最良の保管方法は、本を書架に入れたまま誰にも見せないことでした。今回のプロジェクトでは、この両立を図ろうとしているのです」

swissinfo、ジェシカ・ダシー ザンクトガレンにて 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

ザンクトガレン修道院付属図書館

719年に建造されたスイス最古の図書館。中世に建てられた修道院付属の有名な図書館としては唯一、建設当初の場所に今も建つ。

修道院はアイルランド人修道士ガルスが建てた小さな僧院に始まる。修道院が最盛期を迎える9世紀までには、すでに図書館には古代の文献を含む貴重なコレクションがあった。蔵書の中には、ラテン語で書かれた福音書の写本、ドイツ語で記された最古の本、現存する中では最も古い羊皮紙に描かれた建築設計図がある。

修道院は土地や財産の遺贈により富を築き、本の執筆や研究も行いながら、科学的な活動も活発に行なった。宗教革命を生き残った修道院は、アルプスの北部地域で最も重要な修道院の一つに数えられ、18世紀には再興を見た。その頃に、図書館は美しい木工細工、天井画、化粧漆喰が組み合わさった現在の姿に改装された。

1805年、再編成されたザンクトガレン州は修道院を閉鎖したが、図書館の保存を決定した。1983年、図書館同様、中世に建てられたバロック様式の壮大な教会 ( 現在は大聖堂 ) が建つ修道院の全敷地は世界遺産に登録された。

図書館のコレクションを見に世界中から年間10万人以上が訪れる。また、中世初期に書かれたアイルランド語の写本コレクションもあるため、ドイツ語や古アイルランド語の研究者も訪れる。

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スイスバーチャル写本図書館

別名「電子古写本」。スイス国内の図書館が所蔵する中世の写本をデジタル化するプロジェクト。

プロジェクトの第1段階では、ザンクトガレン修道院付属図書館が所蔵する紀元1世紀以前に書かれた355冊の写本が2009年までにデジタル化される。さらに100冊がスイス国内のほかの図書館から提出され、今後4年間でデジタル化される予定だ。

白紙のページや製本の様子なども含め、写本が丸ごとデジタル化される。また、学術的な情報も掲載され、写本に関する短い説明書きは英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語で読むことができる。

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