ナビゲーション

ナビゲーションへ

グローバルメニュー

ナノテクってナンナノ?(3) スイス・ナノテク企業CEOにインタビュー

ナノテクで夢の汚れない服、実現(写真提供;シェーラー社)

(swissinfo.ch)

ナノテク・シリーズ第3回目は、実際にナノテク商品を開発、生産している企業に話を聞いた。1868年に設立された繊維企業、シェーラー社(Schoeller)。パリのエッフェル塔が建つ前にすでに存在していたスイスの老舗中の老舗だ。

伝統に縛られなかったのが活路となって、21世紀には最先端技術の旗手となった。ハスの葉の上に雨が降っても表面には染み込まずに水滴がころんと下に落ちる姿に着目した。同じ事をナノテクで再現したのだ。

 シェーラーの布地を使っている企業はアルマーニ、BMW、ナイキ、ラルフ・ローレンなどそうそうたる顔ぶれだ。知らない間にあなたの洋服ダンスの中にもシェーラーの布地が入っているかもしれない。

師匠はハスの葉

 ハンス・ヒューブナー氏がシェーラーで過ごした年月はもう40年間にもなる。夢を持った若いエンジニアがCEO(最高経営責任者)に上り詰めるまでの道のりは長かった。現在従業員は180人、ハイジの里に近い、セヴェレン(Sevelen)に工場と研究所を持つ。

 先進国で繊維産業をやっていくのは簡単なことではない。追い上げる中国やインドで生産される安い布地に太刀打ちするには、ハイテク技術しかなかった。10の試作品を作って、なんとかなりそうなのは3つだけ、という日々が続き、20年前には会社存続の危機にまで追い込まれた。

 10年近くも全社をあげてハスの葉の機能の研究を続けた結果、ついにシェーラーがナノ・スフィーア(NanoSphere)と名づけたコーティング方法を開発したのは4年前だ。しかし、ナノテクを駆使したこの技術を最初に同社が発表した時には、世間は見向きもしなかった。大発見が最初から世間に受け入れられるとは限らない。現代の電力技術の土台となる法則を発見した英国人、マイケル・ファラデーも、当時は多くの人から「一体これが何の役に立つのか」と聞かれたものだ。

 油だろうがケチャップだろうが泥だろうが、ナノ・スフィーアの服を汚すことはできない。汚れはそのまま下に落ちるか、布の上に残っても染み一つ付けずに水で簡単に洗い流すことができる。洗い流すための水も、当然、そのまま下に落ちて布地を濡らすことさえない。

 しかし、そんな夢のような「汚れない服」なんて、本当にあるのだろうか。実際、あるとしても、ごみとなった時、プラスチックと同じく容易に解体できずに困ったゴミになるのではないか。

環境に優しい製品を

 生産過程において、作業している人はナノ単位の粒子を吸い込むことで体に害があるのではないだろうか。ナノテクで作られた服は、リサイクルできるのだろうか。ごみとして処分された場合、環境に全く影響はないのだろうか。

 待ってましたとばかり、ヒューブナー氏の顔が輝いた。「安全評価基準に照らして企業をチェックするブルーサイン(Bluesign)という会社をご存知でしょうか。シェーラーは、もう何年も環境に対する企業や個人の責任について真剣に考えてきました」

 化学繊維を生産するには、染色などの過程で、多量の水や薬品を必要とする。ブルーサインは化学繊維を専門に、汚染された水や薬品、空気がどう処理されるか、生産過程で従業員に害はないか、生産された品物は消費者に完全に安全か、など厳しいガイドラインを設けている。シェーラーではボイラーも二酸化炭素をなるべく出さないよう、石油使用の物から天然ガス使用のものに総取替えを行った。

 ブルーサインのおかげで、シェーラーは時には実力行使も辞さない環境保護団体、グリーンピースからもお墨付きをもらっている。シェーラーが目指すのは、このナノ・スフィーアの技術をさらに限りなく自然に近づけることだ。

 「次世代のキーワードは『健康』です」とヒューブナー氏は熱く語る。「私たちは、絶対に公害を出さないようにしています。これからの20年は経済利益を最優先するべきではありません。もう環境や健康を無視して、進むことは許されないのです」

 シェーラーの布地にはシリコンで作られたナノ粒子1万個が、髪の毛の幅ほどの小さな面積にぎっしり固定されている。これはハスの葉の機能を真似したものだ。「人体や環境への影響はまったくありません」とヒューブナー氏は言い切る。「環境に安全だ、ということは私たちにとって何より重要なことなのです」

未来は確実にやってくる

 インタビューの中では、「健康」という言葉が何度も繰り返された。これは「公害を出さない」という受動的な意味だけではない。現在、シェーラーの研究室で科学者が追い求めているのは「禁煙できるナノテクの服」だ。現在、肌にシールを貼ればタバコを吸いたくなくなる商品が出ているが、それを服でやろうというわけだ。アトピーを改善する服、というものも視野に入っている。

 「汚れない服」というのも、20年前までは夢のような未来の代物だったが、2000年に入ってこれは現実になった。20年後、私たちは薬の効果がある服を着ているかもしれない。
 
 ナノテク商品は世界中で急速に市場を広げている。しかしその中でシェーラーのように安全基準に従って商品を生産している企業はどれだけあるのだろうか。ヒューブナー氏もこれを懸念している。「機械や医療産業で、簡単にナノテクが使われるようになり、利益を出すために環境や人体の安全性が軽んじられることのないよう、消費者や政府は気をつけなければいけません」

 特にナノチューブ(管のようになっているナノ分子)は非常に危険だ。これが人体の中に入れば、癌を引き起こす恐れもある。しかし、これを商品化につなげられないかどうか模索している企業は少なくない。繊維産業だけで2020年までに世界中でナノテク市場は10倍にも拡大すると予測されている。

swissinfo、遊佐弘美(ゆさひろみ)

キーワード

スイスのナノテク商品で代表的な繊維企業、シェーラー社(Schoeller)は設立1868年。
キーワードは「健康」と「環境」。

インフォボックス終わり


リンク

Neuer Inhalt

Horizontal Line


subscription form

この外部リンク先サイトのコンテンツは、当該リンク先サイトの管理者にあるため、アクセシビリティに対応していない可能性があります。

ニュースレターにご登録いただいた方に毎週、トップ記事を無料で配信しています。こちらからご登録ください。

swissinfo.ch

この外部リンク先サイトのコンテンツは、当該リンク先サイトの管理者にあるため、アクセシビリティに対応していない可能性があります。

×