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実りの喜び〜ティチーノの秋

公園の木々も色づいてきました swissinfo.ch

日本に秋を表す豊かな風物がたくさんあるように、南スイス、ティチーノ州にも恵みの秋を象徴するものがたくさんあります。狩猟、ポルチー二、焼き栗など、日本とはひと味違う当地の秋の風物詩をご紹介します。

 秋といえば、何を連想しますか?新米、サンマ、巨峰、松茸・・・食いしん坊な私は食べ物ばかり思い浮かべてしまいますが、紅葉、お月見、赤とんぼなど、日本には豊かな秋の風物詩がたくさんあります。南スイス、ティチーノ州も秋が深まってきました。当地でも実りの秋を感じ、楽しむ気持ちは日本と変わりありませんが、秋からイメージされるものは日本とはちょっと異なります。

スイスの空にもイワシ雲が広がります swissinfo.ch

 ティチーノの人が秋といって誰もが口にするのが、狩猟です。最近は規制も厳しく若い人も減っているようですが、ティチーノ州の狩猟人口は4000人を超えています。友人の旦那さんも平日はふつうのサラリーマンですが、狩猟公認の休日(狩猟をしてよいのは法律で定められた期間の週末のみです)には、キジ狩りをしに愛犬とともに、2000メートル級の山に出かけていきます。友人は狩りには反対なのですが、ご主人は、お父さんもお爺さんも狩りに行っていた、これはもう自分の血の中にある伝統だ、と言うのだそうです。

 しとめた獲物は小さいものは家で、大きな獲物は肉屋で解体してもらいます。散弾を使うので、食べているとポロポロと弾が出てくるから気をつけて・・・なんて、中世ヨーロッパ小説のワンシーンみたいな会話が交わされます。彼女の家のように、自分で狩りをした獲物を食べているのは一部の人ですが、鹿肉やウサギ、キジなどの狩猟肉は秋になると肉屋の店頭に並び、家庭やレストランなどで季節の間に一度は食べるものです。

狩猟肉の料理。甘く煮た栗を添えるのがスイスの定番です swissinfo.ch

 フンジャットーーこの地方の方言で”きのこ狩りをする人”も、秋の風物に欠かせません。ティチーノにはきのこが採れる森がたくさんあって、きのこ狩りをする人もたくさんいます。みんなが一番探すのは、きのこの王様ポルチー二で、見つけたときの嬉しさは格別。ほかにも、ヨーロッパの三大食用きのこシャントレル(アンズタケの一種)、傘の裏に針状の突起があるピエ・ド・ムトン(フランス語で羊の足。和名はカノシタ)、傘が人の顔くらい大きなものもあるマッツァ・ディ・タンブーロ(イタリア語で太鼓のばち。和名はカラカサダケ)など、いろんな種類のきのこが採れます。

ティチーノの秋の味覚。手前はきのこの王様ポルチー二 swissinfo.ch

 きのこは毎年だいたい同じ場所に生えるので、フンジャットにはいつも行く場所があって、それは家族の中だけの秘密です。山で他のフンジャットに出会っても、収穫したものを見られないように隠しながらこそこそと分かれたりします。トレッキングを兼ねて気軽に楽しんでいる人も多いのですが、きのこを探して山の中の道のないところに行くので、時折事故も起こっています。収穫してよい量も法律で決まっていて、ティチーノ州では1人3kgまで。わりと頻繁に警察が巡回していて、摘発されてとんでもない金額の罰金命令が出たというニュースをときどき見かけます。

ぶどうの収穫祭。ワインを立ち飲みできる小さなバーがいくつも出店し、一日中おしゃべりとワインに興じる人も swissinfo.ch

 日本なら実りの象徴はお米ですが、ティチーノではぶどうと栗です。ティチーノは高品質なワインの産地として有名で、ルガーノ、ベリンゾーナ、メンドリージオという街では大きなぶどうの収穫祭が行われ、ワイン好きのティチーノ人たちがこぞって出かけていきます。庭でぶどうを育てている友人たちは、手塩にかけたぶどうを収穫してジュースにしたり、自家製のグラッパ(北イタリアの特産品で、ブランデーの一種)を作るのを毎年楽しみにしています。栗は、昔ティチーノが貧しかった時代に「栗のおかげで生き延びた」といわれる特別な食べ物です。そこら中に落ちているので、散歩をしながら拾います。そして10月になると”カスタニャータ”といって、みんなで集まって焼き栗を食べます。学校やスポーツクラブ、友だち同士で「カスタニャータしようか」と言っては集まって、栗を食べながらおしゃべりを楽しむのです。

屋台の焼き栗。大きな鍋の下から加熱していて、ときどき蓋を開けて栗を転がします swissinfo.ch

 ティチーノの秋は、自分の手で収穫をする喜びを感じたり、ワインや栗を片手におしゃべりを楽しんだり、実りの喜びをおおいに共有する季節。さて私はと言えば、もっぱら食べる専門。スイスにはお菓子作りが上手なお母さんが多いですから、手作りの栗のケーキやジャムなどをいただいて、いろんな家庭の味を知るのが毎年のひそかな楽しみなのです。

奥山久美子

神奈川県生まれ、福岡県育ち。都内の大学を卒業後、料理や栄養学を扱う出版社に就職。雑誌、書籍の編集業務に携わる。夫の転職に伴い、2012年からイタリア語圏ティチーノ州に住む。日本人の夫、思春期の息子2人の4人家族(+日本から連れてきた猫1匹)。趣味は旅行、読書、美味しいものを見つけること。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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