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素朴で歴史を感じる静かな谷 - ポスキアーヴォとその周辺

グラウビュンデン州(Kanton Graubünden)には氷河と雪山を眺めた一時間後に、温暖な南国情緒を楽しめる場所がある。イタリア国境にほど近い静かな街、ポスキアーヴォ(Poschiavo)を中心としたポスキアーヴォ谷(Valposchiavo)だ。今日は、夏も冬も楽しめる、日本ではあまり知られていないこの地域についてご紹介しよう。

このコンテンツは 2015/05/14 09:00
建国記念日のポスキアーヴォ swissinfo.ch

スイス旅行の際、ユネスコ世界遺産でもあるベルニナ急行に乗ったことのある方は多いだろう。多くは終着駅であるイタリアのティラノ(Tirano)までの切符を買い、パスタに舌鼓を打ち、街を散策してまた列車に乗り込んで帰るという旅だ。しかし、すぐ近くのスイス領内にあるポスキアーヴォ谷他のサイトへで途中下車をする人はあまり多くない。

ベルニナ峠の南15㎞に位置するこの谷は、かつてはエンガディン地方とイタリアのヴァルテリーナ地方をつなぐ交通要所だった。ティラノ行きの電車に乗り、一面の銀世界であるベルニナ峠からいくつものカーブを通って南へと降りて行くと、ゆっくりと見えてくる美しいポスキアーヴォ湖(Lago di Poschiavo)と湖畔の街はとても印象的だ。

エンガディン地方は多くの市町村がロマンシュ語圏で、一般向けにはドイツ語がよく話されるのだが、ベルニナ峠を越えたあたりから言語はイタリア語に変わる。ポスキアーヴォ谷はイタリア語圏に属し公式文書等はイタリア語だが、ロマンシュ語に比較的近いイタリア語方言が話されている。

言葉だけでなく、イタリア式ジェラートや、本格的な窯で焼くピッツァが食べられることなど、イタリアはすぐそこだと感じさせてくれるが、それでもここはまだスイスなのだと感じる点もある。

ホテルやレストランの徹底した清潔さ、サービス、この地方だけに伝わるアニス風味のポスキアーヴォ・パン (Brasciadela)などがそうだ。それに、そば粉を使ったパスタに、ジャガイモと野菜を混ぜてチーズをかけて焼くポスキアーヴォ風ピッツォケッリ((Pizzoccheri alla valposchiavina)は、ヴァルテリーナ地方の麺をアルプス風の素朴な調理法で食べるもので、それがいかにもこの谷らしい。

ポスキアーヴォ・パン(Brasciadela) swissinfo.ch

同じイタリア語圏スイスであるティツィーノ州のルガーノやロカルノなどと較べると、小さくてショッピングなどには向かない。けれど、都会の喧噪を離れて静かに休暇を過ごしたい人たちが好んで滞在する街となっている。標高1000mの場所にあるにも関わらず、夏は驚くほど日差しが強く、南国の雰囲気を楽しむことができる。

私たち夫婦の友人で、ポスキアーヴォで知り合ったあるエジプト在住の夫婦は、毎年バカンスで一ヶ月ほどこの街に滞在するのが通例となっている。街の中心コミュナーレ広場(Piazza Comunale)に出されたレストランのパラソルの下で、のんびりと時を過ごすことがメインの休暇だ。

街には、目立たない小さな美術館(博物館 Museo poschiavino)他のサイトへがある。歴史建造物の一つであるバッスス=メンゴッティ邸(Il Palazzo de Bassus-Mengotti)を改装して公開されたのは2013年の秋だ。

特別展も興味深い作品を展示するが、常設展の絵画も素晴らしい。好きな絵の前に座ってゆっくりと鑑賞することもできる。

また、伝統的な機織物や地元の作家の絵画を展示販売するなど、地域の文化振興に力を入れている。

美術館は小さいが充実している swissinfo.ch
1439年建造の聖アンナ祈禱所(Oratorio S. Anna)。1903年以降は納骨堂 swissinfo.ch

同じ美術館(博物館)の別館としてカーサ・トメ(Casa Tomé)が、少し離れた場所にある。もともとは1357年に建てられ、1750年までに順次改築された民家で、当時の暮らしを彷彿とさせる興味深い展示物を観ることができる。

散策をしていると感じることがある。同じような古くからの建造物の残る他の街と較べて、ポスキアーヴォの建物はとても綺麗な状態に修復されているということだ。この地域の人びとが他の市町村の人びとよりも裕福で、だから定期的にメンテナンスをしているのかと思っていたが、そういうことではなかったらしい。

スイスアルプスのお膝元にあって、この谷はこれまで何度も大きな洪水に見舞われてきたのだ。1987年の夏の洪水は人びとの記憶にも新しく、当時を経験した人たちから話を聴くこともできる。街のほとんどが土砂で壊滅的被害を受けたらしい。だから、それからまともに人びとが住める状態にするために、全ての建物が改修されたというわけだ。

そういう状態になっても、古い建物を撤去してモダンな建築にしようと思わない人たちが多い所がスイスらしいと思う。もともとの建物を修復して、暖房や水回りは機能的に変えて暮らし続けている人びとは、心からこの街並を愛しているのだなと思う。

歴史建造物でもあるホテル・アルブリチ swissinfo.ch

歴史的ホテルの一つ、アルブリチ(Hotel Albrici)他のサイトへ は、美味しいピッツァを食べさせてくれるレストランと清潔で居心地のいい部屋、それに愉快なスタッフのサービスで満足のいく滞在を約束してくれるが、それと同時に17世紀以来の素晴らしい小部屋がとてもいい状態で残っているのを見ることもできて、ちょっとしたタイムスリップをした感覚にしてくれる。

散策の際には、街の外れにある美しい豪邸の建ち並ぶ一画にもぜひ立ち寄ってほしい。1856年から1891年にかけて続けて建てられた屋敷の数々はまとめてパラッツィ(Palazzi)と呼ばれている。またの名をスパニオーレンフィアテル(spaniolenviertel)という事が示しているように、スペインへ出稼ぎによって財を成した人びとが、故郷に錦を飾ったのだが、この美しい家々は、時々改修されて現在もアパートメントとして使われている。日当りがよく、それぞれが競うように花や野菜を植えた庭園を望む素敵な住宅街だ。私もいつかは、こういう所に住みたいなどと思いながらよく散策をしている。

パラッツィといわれる家々の立ち並ぶ区画 swissinfo.ch

もう少し体を動かしたい旅行者たちは、電車に乗ってベルニナ峠まで登り、そこから再びポスキアーヴォまでハイキングをしながら降りてくる。ハイキング道が整備されているので、道に迷うことはない。ただし、きちんとした靴や飲み水など、ハイキングの準備は必須だ。

夏のポスキアーヴォ湖 swissinfo.ch

また、同じポスキアーヴォ谷にあるレ・プレーゼ(Le Prese)とミララゴ(Miralago)の間に位置するポスキアーヴォ湖(Lago di Poschiavo)を徒歩で一周したり、ボートを借りて魚釣り(5月1日以降秋まで)をすることもできる。

谷には、いくつもの小さな村落があり、半日のハイキングやマウンテンバイク借りてサイクリングをする人が多い。

冬には、谷の近くで雪のハイキングができる他、レーティッシュ鉄道でディアボレッツァ(Diavolezza)やラガルブ(Lagalb)他のサイトへまで行き、ベルニナ山脈を眺めながらスキーやスノーボード、クロスカントリーを楽しむこともできる。また、ビアンコ湖(Lago Bianco)が十分凍っていれば、スノーカイトを楽しむ人たちがたくさんいる。

スイスの南のはずれ、空港や大都市から行くにはなかなか骨の折れる場所にあるポスキアーヴォ谷は、その背景や地理的条件ゆえに素朴で美しい姿を今に留めている。一つの都市を一日二日で通り過ぎるような忙しい旅行者には向かないが、休暇を自然と歴史のある場所でゆったりと過ごしたい方にはぜひお薦めしたいスポットだ。

ソリーヴァ江口葵

プロフィール:ソリーヴァ江口葵

東京都出身。2001年よりグラウビュンデン州ドムレシュク谷のシルス村に在住。夫と二人暮らしで、職業はプログラマー。趣味は旅行と音楽鑑賞。自然が好きで、静かな田舎の村暮らしを楽しんでいます。

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