スイスの視点を10言語で

メルツ大統領 銀行守秘義務を再び擁護

メルツ大統領はアフリカ人記者の質問に「スイスはアフリカの独裁者の隠し資産をその国に返還している唯一の国だ」とスイスの銀行守秘義務の健全なあり方を強調した Keystone

ハンス・ルドルフ・メルツ連邦大統領は、3月5日ジュネーブで外国人記者に対し「スイスの銀行守秘義務が崩れることはない」と再び強調した。

アメリカ側はUBSがアメリカ人顧客の脱税をほう助したとして、250人に次ぎ5万2000人の情報開示を求めているが、メルツ連邦大統領は慎重な対応をするべきだとして、3月6日に税制の専門家を含む委員会で今後のスイスの「戦略」を決めると発表した。

脱税の2分離

 銀行守秘義務を巡る議論には、1 ) 現状維持ないしはさらなる強化、2)廃止し情報交換を自由にする、3 ) ダイナミック性を保ちながらの改正、具体的には欧州連合 ( EU ) との2国間協定に基づき改正していく3つの方法があると指摘し、メルツ大統領はダイナミックな第3の改正案しか選択の道は考えられないと語った。

 「銀行守秘義務は、個人の領域を侵さないというスイス人の精神性の一部にもなっており廃止は考えられない。ただ、故意に税金をごまかす脱税詐欺行為は、銀行守秘義務では保護しない。またこの脱税詐欺行為がスイスに定着することは避けなければならない」
 と説明した。

 スイスでは、税金の申告漏れなど単に税金を払わない「納税回避」と納税を故意にごまかす「脱税詐欺行為」を分けており、前者は違法行為ではない。今回アメリカ側から要求された顧客情報開示も、初めの250人に関しては脱税詐欺行為と判断して情報を渡したが、残り5万2000人分の情報開示に関しては脱税詐欺行為ではないとしている。アメリカの制度ではこの2分離は存在せず全ての脱税行為は違法だが、メルツ大統領は
 「スイスは今後もこの2分離を維持すべきだ」
 と語った。

スイスは租税回避地ではない 

 一方4月2 日のG20で問題にされる予定の、租税回避地のブラックリストにスイスが掲載されることにも言及し、
「スイスが租税回避地のブラックリストに載せられることは承知できない。スイスは租税回避地ではない。そもそもこの言葉が何を意味するのか定義をきちんと検討すべきだ」
 と述べ、G20には参加できないが、スイスが租税回避地ではないことを示すために「国際通貨金融委員会( IMFC)」の場で各国の財務大臣と話し合いを持つと語った。

 メルツ大統領は銀行守秘義務に対するアメリカやEU からの圧力の中で、スイスの孤立性を問われ、
「今週8日にルクセンブルクで、オーストリアとルクセンブルクの財務大臣と会談し、国際関係の中での3カ国に共通する税制問題を話し合う」
 と答え、特に3カ国が租税回避地のブラックリストに掲載されることを避けることも大きな課題の1つになると語った。オーストリアとルクセンブルクは、 EUの中で銀行守秘義務を課している国だ。


swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部