院内感染、スイスで急増 予防対策強化へ

病気を治すために行ったはずの病院で、別の感染症にかかる——。海外で見られる院内感染がスイスでも広がっていることが、今月出版された医療ジャーナル、スイスNOSOで明らかになった。
今回の調査によると、特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のような、抗生物質が効かない耐性菌が院内で増えていることがわかった。
健康な人がこうした菌に感染しても通常は病気になりにくいが、高齢者や、手術で体力の落ちた患者が感染すれば死亡するケースもある。対応が遅れれば、院内での感染拡大に繋がる可能性も高くなる。このため、院内感染を防ぐ衛生管理の制度確立が緊急の課題となっている。
広がる院内感染
調査は国内にある57の病院で8,500人の患者を対象に行われた。このうち、MRSAに感染した患者数は2003年で176人と、2002年に比べ倍増していることが判明した。
また、他の菌に感染している患者も入れると調査対象全体の約8%を占め、重症患者を治療する集中治療室(ICU)での感染率はさらに高くなることがわかった。調査によると、ICUに入院している患者の4人に1人が感染しており、大きな病院であれば、3人に1人と感染率がさらに高くなっている。
今回の調査を報告書にまとめたジュネーヴ大学病院の感染予防課ウーゴ・サックス医師は、「スイスの院内感染率は海外と比べるとかなり低いが、感染した患者の数は年々増えている」と指摘する。
英国のある医療報告書によると、MRSAに感染し死亡する同国の患者は毎年約5,000人に上っているという。英国での院内感染による死亡率は今後5年間で倍増するとみる専門家もいる。
予防対策
感染経路には大きく分けて、注射や輸血の他に、手術や血液の病変を診断する血管造影検査等がある。今回の調査結果では、病院で働く職員が手洗いをきちんとしていないために感染が発生するケースが目立った。
こうした問題が起こるのは、院内の保菌・感染状況を把握し、衛生管理を行う感染対策チームの設立が国内で義務化されていないため、とサックス医師は説明する。「原因を究明し、感染対策チームの活動を徹底させれば、感染率はかなり抑えられるはず」と話す。
また、同医師は抗生物質の使い方が原因で感染のリスクを高める可能性があるとも指摘する。抗生物質の使用量が増えれば、抗生物質の効かない耐性菌を増加させてしまうためだ。
このため、スイスNOSOは現在、病院、政府当局と共同で感染予防対策の制度立ち上げに取り組んでいる。
スイス国際放送 イゾベル・レイボルド 安達聡子(あだちさとこ)意訳
院内感染とは:
患者が病院でもとの病気とは別の感染症にかかること

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