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ローザンヌのエリーゼ美術館、反体制活動に参加?

明日の色。咲き誇るゼラニウムを利用して作動する原発 Plonk & Replonk

モーターサイクリングクラブ「ヘルズ・エンジェルズ」の裸の面々と肩を寄せ合うヴァレー州の少女達。芸術的に撮影された事故車。模造の山小屋や山腹の要塞。

これらは、ローザンヌのエリーゼ美術館で開催中の写真展「反・スイス文化([CONTRE ]CULTURE/CH)」に展示されている作品のほんの一部だ。

 この展覧会では、25人の写真家、芸術家、映画製作者たちの目を通して1950年代から現在に至るまでの(既存の文化・体制を否定する)カウンターカルチャーを考察する。

 展覧会の主催者側によれば、伝統的価値を覆そうとする1960年代から70年代にかけてのカウンターカルチャーやアンダーグラウンドとして知られる反体制運動は、1980年代には既に息絶え、ファッションや消費主義、市場経済にとって代わられることになった。

 しかし、エリーゼ美術館のディレクター、サム・ストゥールドゼ氏によれば、スイスではこの過激な年月のお蔭で批判的な表現が育ったという。

 さらに「1960年代や70年代の典型的なカウンターカルチャー、反体制運動やアンダーグラウンド文化は確かにもう存在しない。だが、多くの芸術家が批判的視点を持ち、時にユーモアや皮肉を交え、時により真面目に社会の問題点を指摘しながらドキュメンタリーや作品を制作している」と続ける。

 この展覧会は、現代の芸術家たちがスイスの風景や環境、セキュリティ、更には伝統的な山小屋(シャレー)などの主題を通して、この国のアイデンティティーを問いかけながら、いかに60年代、70年代のカウンターカルチャーを現代の表現に置き換えてきたかにスポットを当てている。

バイカーとドラッグレーサー

 展覧会は、カールハインツ・ワインベルガ―の作品から始まる。ワインベルガーは卸売業者だが、1950年代にアメリカの音楽や文化に影響され、余暇を利用してスイスの若い反逆者たちを撮り始めた。

 彼の「ヘルズ・エンジェルズ」(米国のオートバイクラブで反体制活動の象徴と見なされることが多い)シリーズには、入れ墨をしたバイカーや若いロックミュージシャンといった挑発的な作品が多い。中には服を脱いで撮影することに応じている人もいる。

 反対側の壁には、ヤン・グロスが、私たちを地平線の荒野の町のシリーズ「ホライゾンビル(Horizonville)」 へと誘う。これはデヴィッド・リンチの映画に出てきそうな、スイスの、厳密に言えばローヌ渓谷のウェスタン版だ。ロードトリップ映画に刺激されたグロスは、モペッド(補助エンジン付き自転車)に乗って、スイス辺境地に住むカウボーイ、カントリーやウェスタンにとりつかれた人々、そしてドラッグレーサーなどを撮るために旅をした。

 30歳になるグロスは、アメリカの写真雑誌で「新しい才能」と紹介され、現在はウガンダのスケートボーダーシリーズに取り組んでいる。

 「私の興味を惹くのは、普通の人々がどのように日常を過ごしているのか、手に入るわずかな物でどうやって夢を生きているのかということだ」と彼は言う。

チェ・ゲバラと宣教者

 同じフロアには、1960年代のキューバ革命を記録したリュック・チェセックスの写真が展示されている。彼の撮ったフィデル・カステロやチェ・ゲバラのポートレートを過ぎると、次には元スイス警察官の写真家、アーノルド・オーダーマットによる、犠牲者の出なかった自動車事故をモノクロで撮った写真が並ぶ。

 オーダーマットの劇的な作品は、2001年の第49回ヴェネツィア・ビエンナーレ(現代美術の国際美術展覧会)に選ばれ、近年アート界では注目を集めている。

「展示されている作品の中には、古い写真や再現されたものもあるが、新しい作品も多くある」とストゥールドゼ氏は言うが、その1人がクリスティアン・リュッツだ。

 リュッツは2011年にスイス報道写真賞を受賞したジュネーブの写真家で、三部作からなる「力」をテーマにしたプロジェクトの最終部から15枚の写真を展示している。このプロジェクトの焦点となるのは、宗教とスイスの伝道活動だ。

  クロード・ベックトールドの「スイスVS世界」シリーズは、彼がアフガニスタン、イラン、北極、中国を旅したときの写真を、スイス国内で撮影した写真と並べて展示したものだ。これら2枚の写真を見比べると、スイス人は本当にほかの国の人々とそんなに違うのだろうか、と自問せざるを得なくなる。

バンカーとアルプスの峰々

 最後は地下の展示室。ここには、スイスの文化を象徴する典型的なアルプスの風景、鉄道、山小屋、軍隊そして郵便サービスなどに対する批判性が見受けられる作品が展示されている。

 レオ・ファブリツィオの、岩や山腹の一部として綿密にカモフラージュされた軍事防衛施設、クリスティアン・シュヴァーガーの、軍隊が防衛目的で利用した偽山小屋、そしてフレッド・ボワソナが19世紀に撮影した、ジュネーブの中心に再現されたスイスの山村。

「その山村は、1896年にジュネーブで開催された万博の会場に再現された。村の中には高さ40メートルの山のレプリカがあり、毎日6百万ガロン(132万リットル)の水が流れる滝があった。更に、300人の村人、牛、ヤギ、ニワトリまでがいたのだ」と、共同キュレーターのダニエル・ジラルダン氏は説明する。

 隣室には、フランシス・ファースによるアルプスの雄大なパノラマを背景とした峰々や氷河、そしてジュール・スピナッチが、閉鎖回路テレビ(CCTV)で撮影した2176枚の静止画像からなる世界経済フォーラム開催中のダボスを一望する作品が展示されている。そして、マチュー・ガフスの、巨大化した観光業がアルプス地方に与える影響を批判的に捉えた作品が続く。

若く、ダイナミックな写真界

 現在のスイスの写真界は、とりわけフランス語圏において「非常にダイナミック」であるとガフスは言う。

 「我々は、多くの学校や団体から援助を受けることができて、とても幸運だ。そして、芸術家仲間の繋がりも深い。いくつかの巨大都市に比べると、ここローザンヌはある意味特別な環境だ。攻撃的な雰囲気も無く、生活しながら仕事をし、作品を海外へ輸出することも可能だ」

 グロスも彼に同意する。「20歳から40歳代の芸術家たちが特に活気づいている。ほとんどが顔見知りで、人間関係もうまくいっている。スイスの団体は文化活動への投資を惜しまず、芸術家をサポートしてくれる。だから、何か売れるものを制作しなくてはいけない、というプレッシャーがない」

 最後にディレクターのストゥールドゼ氏はこう結ぶ。「スイスには、フィンランドとは違い『スイス写真派』といった特別な傾向を持つ派は存在しない。しかし、フランス、ドイツ、米国とは違い、(スイスには外国人が多く、四つの隣国に囲まれた多言語文化の国であるが故に)写真家が特に興味を持つテーマがある。それは人々の共存やアイデンティティーそして領土問題などだ」

ローザンヌのエリーゼ美術館にて2011年12月4日から2012年1月29日まで開催中。

美術館は火曜日から日曜日まで、午前11時から午後6時までオープン(月曜日は休館日)。

この展覧会は、25人のスイス人写真家、芸術家、映画やビデオ制作者の作品を展示している:エマニュエル・アンティル(Emmanuelle Antille)、フレッド・ボワソナ(Fred Boissonnas)、リュック・チェセックス (Luc Chessex)、 ジャン-リュック・クラマット(Jean-Luc Cramatte)、 ニコラス・クリスピー二(Nicolas Crispini)、クロード・ベックトールド(Claude Baechtold)、ステファン・ブルガー(Stefan Burger)、アドルフ・ブラウン(Adolphe Braun)、レオ・ファブリツィオ(Leo Fabrizio)、フランシス・ファース(Francis Frith)、マチュー・ガフス(Matthieu Gafsou)、ヤン・グロス(Yann Gross)、クリスティアン・リュッツ(Christian Lutz)、ジャンニ・モッティ(Gianni Motti)、アーノルド・オーダーマット(Arnold Odermatt)、プロンク&リプロンク(Plonk & Replonk)、アンドリ・ポル(Andri Pol)、フランシス・ロイセール(Francis Reusser)、ニコラス・サヴァリー&ティロ・シュタイライフ(Nicolas Savary & Tilo Steireif)、クリスティアン・シュヴァーガー(Christian Schwager)、ジュール・スピナッチ(Jules Spinatsch)、マーティン・シュトーレンヴェーク(Martin Stollenwerk)、カールハインツ・ワインベルガー(Karlheinz Weinberger)。  

(英語からの翻訳、徳田貴子)

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