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国連のピネイロ氏、母国ブラジルの標的に

シリアに関する独立国際調査委員会の委員長として記者会見に臨むパウロ・セルジオ・ピネイロ氏。スイス・ジュネーブの国連欧州本部にて2018年撮影 © Keystone / Jean-christophe Bott

ブラジル出身のパウロ・セルジオ・ピネイロ氏は国連に勤務して25年だ。これまで、主に人権侵害に関わるいくつもの要職を世界中で務めてきた。だが、同氏は母国ブラジルで過去最大の脅威にさらされている。

このコンテンツは 2020/10/02 08:30
Jamil Chade

法学者のピネイロ氏は最近、ブラジル政府と同国の諜報機関が「反ファシスト」とみなす教師、警官、著名人のリストに掲載された。

swissinfo.chとのインタビューで、ピネイロ氏は、多国間主義、国連の活動における被害者の中心的役割、母国で政治的標的にされていることなど、過去25年間の試練について語る。

swissinfo.ch:国連での25年にわたる経験から、人権を守るために、国連はどのような役割を果たすことができると思うか?

パウロ・セルジオ・ピネイロ:国連システム全体を見れば、1948年の世界人権宣言以来、人権は最初から国連の中心にある。国連総会や安全保障理事会(安保理)の決議に表れている。あらゆる国連機関が世界中で人権を擁護しているが、人権を保障する最も重要な機関はスイス・ジュネーブにある国連人権理事会だ。同理事会には79年以来、国連人権高等弁務官の支援を受けて様々な国の人権状況を調査する特別報告者がいる。

swissinfo.ch:国連の役割に限界を感じて、いら立ちを覚えたことは?

ピネイロ:人権侵害の被害者―私は生存者と呼ぶ方が好ましいと思う―だけが、不満を感じることができる。権利侵害を明らかにし、正義を追求しようとする私達は、本来あるべき形で機能しない国連機関に対していら立つばかりだ。シリアなどで人権侵害や戦争犯罪が10年以上続いても、安保理が機能不全に陥っているため、これらの犯罪は国際刑事裁判所で審理されていない。戦争を生き残った人々にとって、このことはいら立たしいだけでなく不可解だ。

swissinfo.ch:国連で特別報告者に任命され、最初のミッションとして95年に赴任したブルンジでは、進展が期待されていたが、それは実現したのか?

ピネイロ:特別報告者は、ある特定の国の状況を変える魔法の杖を持っているわけではない。しかし、そこに特別報告者―2016年以降は、調査委員会―が存在したことで違いが生まれる。ブルンジの市民社会がより強くなり、政府は人権分野で力を得たと感じる。同国における私の一番の協議相手は、ユージン・ニンドレラ人権大臣(当時)だった。ニンドレラ氏は後に、コートジボワールと南スーダンにおいて国連人権ミッションの代表を務めた。

ミャンマー・ヤンゴンの寺院シュエダゴン・パゴダで職員の説明に耳を傾けるピネイロ氏(写真中央)。同氏は07年11月、国連の人権特別報告者として同国を訪問した Keystone / Str

swissinfo.ch:ミャンマーと当時はまだ自宅軟禁されていた指導者のアウンサンスーチー氏の問題に長年取り組んだ。会合はどんな様子だったのか?

ピネイロ:ミャンマーは例外的なケースだった。国連の人権機関や市民社会に接近しようとしたのは軍事政権だったからだ。初めの4年間、私は要望する場所や機関のすべてに入ることができた。しかし、私もミャンマーの他の国連職員もこの開放性に満足のいく形で応えなかった。だから、軍事政権は(事実上、国を支配していた)国軍に対して私達の存在を正当化することができず、追放された。それからさらに4年後、仏教僧侶と市民社会による反政府デモが起きた07年まで私はミャンマーに戻らなかった。

swissinfo.ch10年近く続くシリア内戦の人権侵害について、独立国際調査委員会はかつてない量の情報を集めた。この情報で何ができるのか?

ピネイロ:シリア・アラブ共和国に関する独立国際調査委員会は法廷ではない。また、政治的交渉に関して何の権限も持たない。同委員会の目的は、人権侵害、戦争犯罪、人道に対する罪を捜査し、記録することだ。シリアの人々の真相を知る権利に応えようと活動している。

同委員会のデータベースは、数カ国で始まったシリア内戦の人権侵害の加害者に関する捜査に活用されている。また、シリアに関する国際的公平独立メカニズムもデータベースを利用し、将来、刑事訴訟を提起する準備をしている。

swissinfo.ch2020年は国連創設75周年でもある。祝うべきことはあるか?

ピネイロ:後悔することよりも、祝うことの方が多い。国連が無かったらと想像してみて欲しい。国際紛争はより一層激しく、人道上の危機は対処されず、経済的社会的権利はさらに保障されないだろう。世界人権宣言や人権諸条約の原則の適用は今も不完全だとしても、より限定的になるだろう。ブルンジで私のアシスタントだったブリジット・ラクロワ氏が離任時にこう言った。「パオロ、本当に重要なことは、あなたが被害者のために何をするかだ。生存者の立場から言えば、私達の行動の中心に生存者がいるのだから、私達は喜ばなければならない」

swissinfo.ch:国連と多国間主義は岐路に立たされている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への対応がそのことを示している。国連システムに現実的な危険があるのか?

ピネイロ:パンデミックは、先進国・発展途上国を問わずほとんど全ての社会で蔓延し続けている不平等、所得の集中、人種差別を浮き彫りにした。逃れられた者はいない。貧しい者はさらに貧しくなっている。新型コロナの感染者に対するケアが不十分なだけではなく、一般的な医療を受ける権利についても、貧困者の医療状況はさらに悪化している。

私は、パンデミックの後、自動的に、より強い連帯感が生まれたり、権利を奪われた人々により良いケアがなされたりするとは思わない。これらを実現するためには、国連加盟国は、世界保健機関(WHO)に対してしたように、国連への拠出金を拒否するのではなく、国連に対する政治的・財政的支援を増強しなければならない。

swissinfo.ch:過去25年間余りの国連における活動で、ブラジル出身であることが役に立ったことは?

ピネイロ:元駐ブラジル仏大使のアラン・ルキエ氏は著書の中で、ラテンアメリカは西側諸国とは別のカテゴリーの「極西」だと書いている。ブラジルは「極西」に含まれるので、ブラジル人は独立していると認識されている。85年に民主主義に回帰してから、ジルマ・ルセフ政権が続いた2016年まで、ブラジルは誠実な仲介者―信頼のおける交渉者―とみなされていた。この間、ブラジルが自国における深刻な人権侵害を否定したことは無かったからだ。ルセフ大統領が弾劾されるまでは、どの国もブラジルに関わろうとした。国連人権理事会では、同性愛、人種差別、女性や子供に対する暴力など、最もデリケートな決議にブラジルは常に参加していた。ブラジルが持つオーラは、私にとって確かに有利に働いてきたと思う。

swissinfo.ch:ブラジル法務省がこの夏作成した政府に懐疑的な人物の一覧、いわゆる「反ファシスト」リストに掲載された。どう思うか?

ピネイロ:ブラジル、国連機関、世界において私が何を考え、何を発言し、何をしているかは、グーグルを開くだけで十分わかるにもかかわらず、リストに載っていたことは奇妙な栄誉だった。軍事独裁政権が作成した政治的スパイ活動に関する文書を復活させようとする遺憾な動きだった。

幸いなことに、ブラジル連邦最高裁判所は8月21日、賛成9、反対1で歴史的な判決を下し、法務省に対し、特定の市民の考えや行動に関する報告書を配布することを禁じた。

パウロ・セルジオ・ピネイロ

ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。国連システムで、ブルンジ特別報告者やミャンマー人権特別報告者など様々な要職を歴任。2011年からシリア内戦に関する独立国際調査委員会の委員長を務める。母国ブラジルでは、フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ元大統領の下で人権担当大臣を務めた。

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