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スイス閣僚が米国、中国、日本を訪問 その目的は? 

閣僚
スコット・ベッセント米財務長官(左)と会談したスイスのカリン・ケラー・ズッター大統領(中)、ギー・パルムラン経済相 keystone

スイス連邦内閣の閣僚3人が今週、中国、日本、米国を訪問した。輸出小国スイスは、米中貿易戦争の影響を最小限に抑える策を模索する。

イグナツィオ・カシス外相は日本と中国、ギー・パルムラン経済相とカリン・ケラー・ズッター財務相兼連邦大統領は米国を訪問した。旧来のパートナーシップが試される国際情勢のなかで、スイスは新たな足固めに奔走する。

今回の3カ国公式訪問の狙いと課題をまとめた。

米国訪問の成果は?

ケラー・ズッター財務相は24日、スコット・ベッセント米財務長官と会談した。ベッセント米財務長官は関税問題のキーパーソンと目され、ケラー・ズッター氏が9日、ドナルド・トランプ米大統領と電話会談した際にも同席していた。

スイス側の主張は以下の通りだ。スイスは第6の対米投資国であり、スイスの製薬大手ロシュとノバルティスも米国に750億ドルを投じる。

米国が関税引き上げの根拠とした数字について、スイス側は事実と異なると反発する。2024年のスイスからの金輸出が貿易黒字を押し上げたほか、スイスが輸入した米国のサービス(ソフトウェアのライセンスなど)が考慮されていない点を挙げる。

会談後、ケラー・ズッター氏は記者会見で、米国の貿易赤字額が多い15カ国のグループに「スイスも入っている」とし、協議は今後も継続すると発言。米国側との会談は「大きな進展だ」と述べた。

この会談と、ギー・パルムラン氏とジェイミーソン・グリア米通商代表部(USTR)代表米商務長官との会談において、スイスの目的は、さらなる関税交渉のテーマを明確にすることだった。

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パルムラン氏はリンダ・マクマホン米教育省長官とも会談。職業訓練と学業が並立するスイスの教育制度の強みを説明した。

米国訪問の目的は?

スイスにとって、米国は欧州連合(EU)に次ぐ第2の貿易相手国だ。ケラー・ズッター氏の公式任務は世界銀行・国際通貨基金(IMF)の春季会合出席だった。ケラー・ズッター氏の訪米は以前から予定されていた。

大統領職を兼任するズッター氏には滞在中、トランプ政権の中枢人物と最初の接触を図るという非公式の目的もあった。

米国がスイスに対し31%の追加関税を課した(その後延期)ことへの対応は、スイスにとって最優先事項となっている。

優先度がいかに高いかは、政府次官3人と新たに任命されたガブリエル・リュヒンガー対米特使が同行した事実にも表れている。独語圏日刊紙NZZはこれを「オールスターチーム」と呼んだ。

パルムラン氏の訪米は計画になく、当初は大阪・関西万博を訪問するため日本に向かうはずだった。しかし米国の追加関税発表を受け、急遽カシス外相が日本行きに回った。

中国訪問の目的は?           

スイスにとって中国は第3、日本は第4の貿易相手国だ。本来は年後半に予定されていたスイス外相の中国訪問はサプライズとなった。スイス連邦政府は、中国訪問は外相の日本訪問と組み合わせるのが定石だとした。

しかし、真意は米国の追加関税にあったようだ。トランプ大統領が追加関税を発表した後、スイス政府はすぐに、輸出中心である自国の対外貿易網を見直し、裾野を広げる必要があると確信した。

スイスは中国と2014年に自由貿易協定(FTA)を締結している。2024年にFTAを結んだインド、その予定があるメルコスール(南米南部共同市場)と並び、中国はスイス貿易にとって成長の可能性を秘める。

対中FTAはスイスの要請で更新の検討が進む。製薬産業と機械産業に有利な項目が盛り込まれる予定だ。

スイスは中国での有利な位置を死守するため、急遽訪中を計画した。米国が関税引き上げを発表すれば、中国はすぐに多くの国、特に精密産業で中国市場を狙うドイツから秋波を送られることになる。しかし、中国市場においてスイスはまだ先行している。スイスはこの有利な位置を確保したい考えだ。

カシス氏は北京で中国の王毅外相と会談した。公式には、スイスは「二国間関係の強化」と「政治対話の深化」が目的としている。両国の外交関係樹立75周年も祝った。

「歴史的な節目を中国は非常に重要視する」とスイス・中国商工会議所の会頭を長年務めるクルト・ヘリ氏は説明する。

相手国との良好な関係も、中国では他国よりもはるかに重要視されるという。 

カシス氏は独語圏スイス公共放送(SRF)に 「友情は大切だ。そうすれば不快なことについても話すことができるから。単に意見が違うだけだ」と語っている。          

訪米での課題は?

訪米時の課題は、スイスの懸念事項を可能であればドナルド・トランプ氏本人に伝えることだった。

ケラー・ズッター氏が9日、トランプ氏と25分間の電話会談を行った数少ない首脳の一人であることは、スイスがすでに十分な働きかけを行ったことを示している。とはいえ新政権、また新たな大使就任を受け、対米関係の足場構築は振り出しに戻ったとも言える。

しかし、スイス通商代表団は対米への外交努力を続けてきており、スイス企業は政府と並行しロシュ(500億フラン)とノバルティス(230億フラン)による投資を米国側に約束。これにより好機は見える。

しかし、危険も潜む。中国を毛嫌いするトランプ氏は貿易相手国にイデオロギー的な忠誠を要求し、中国と米国のどちらかを選ぶよう迫ってくる可能性がある。その場合、スイスは難しい決断を迫られることになる。

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訪中での課題は?

対中ではこれまで同様、スイスは経済的利益と政治的価値観の間で微妙な舵取りが必要になる。

中国は貿易相手国が譲歩することを期待している。ヘリ氏は「良好な関係は不変ではない。この雰囲気は簡単に乱される」と言う。

スイスでは、特に左派の緑の党(GPS/Les Verts)と社会民主党(SP/PS)が、強制労働の撲滅や持続可能性などをFTAの更新に盛り込むよう働きかけている。

このためカシス氏には中国市場へのスイスの関心を強調する一方、たとえFTAがあろうとスイスの政界や一般市民が中国の行動を批判的に観察し、あるいは公然と拒絶することを止めないという事実を理解させるという使命もあった。

「私たちは野心的だ。議会と、おそらくはスイス国民から協定拡大への賛成を取り付けなければならない」とカシス氏は北京で語った。

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米中貿易戦争が激化すれば、自動車や機械など、中国国内で新たなサプライヤーや製造者が必要になる。米国のサプライヤーは、関税引き上げにより製品価格が上昇するため、中国市場からの撤退を余儀なくされるからだ。

ここにスイスのサプライヤーが入り込める好機が生じる。対中FTAが締結済みのスイスは他国に先行できる強みもある。

対中FTA更新に向けた第2回交渉は今年後半に行われる予定だ。スイスの関心も高まっている。

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編集:Samuel Jaberg、Marc Leutenegger独語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

※この記事は24日に配信されたものを更新しました。

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