軍需企業への融資禁止案、スイス下院は否決を勧奨

チューリヒ州アルトドルフにあるラインメタル社製の薬莢(やっきょう)。スイスの軍需企業は昨年、前年比43%増の7億2800万フラン相当(約804億円)の軍需品を輸出した Keystone / Urs Flueeler

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)や年金基金に軍需品の製造企業への投資を禁じるイニシアチブ(国民発議)を巡り、国民議会(下院)は有権者に否決を勧めている。

下院の過半数は、軍需品取引への投資は現行法で十分規制できるとし、「軍需企業への融資禁止イニシアチブ」を否決するよう有権者に勧奨することを決めた。

下院ではまた、禁止兵器への間接的融資の禁止を厳格化し、融資元に関する情報の透明性向上を目指す間接的対案を検討。採決の結果、提出は見送った。

「今回のイニシアチブでスイスの雇用を支える中小企業にダメージが及ぶだろう。精密工具や軍需用ガラス部品の製造会社といった中小企業にも影響するためだ」

マーヤ・リニカー議員、急進民主党

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イニシアチブを提起した「戦争ビジネス禁止同盟」は、「軍隊なきスイスをめざす会(GSoA)」と緑の党青年部から構成されたグループ。今回のイニシアチブがもし国民投票にかけられ、そこで可決されれば、スイス中銀、財団、年金基金の軍需品製造企業への融資を禁じる新条項が憲法に盛り込まれる。

同案では、軍需品の製造が年間売上高の6%以上を占める企業に対し、スイス中銀が信用貸し、融資、贈与することを禁じる。また同行がこうした企業に関連する有価証券、株式、金融商品を購入することも禁止する。

金かモラルか?

下院での議論は右派と左派の対立にまとめられる。一方はスイスの経済拠点としての立場を、もう一方はスイスの倫理観を擁護した。

急進民主党のマーヤ・リニカー議員は、スイス中銀にはすでに厳格な投資基準が適用されており「銀行業務へのいかなる政治的干渉も拒否する」と語った。また、今回のイニシアチブで国内雇用を支える中小企業にダメージが及ぶことを懸念した。精密工具や軍需用ガラス部品の製造会社といった中小企業にも影響するためだ。また別の右派議員からも、年金基金は安全な分散投資ができなくなり、利回りが低くなることを危惧する声が上がった。

「スイスが自国の価値観と一層調和していくには、この一歩を踏み出さなければならない」

ピエール・アラン・フリデス議員、社会民主党

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一方、左派の議員たちは「スイスは世界平和を推進する傍ら、武器を売り、軍需品製造企業に融資している」という矛盾点を主張した。社会民主党のピエール・アラン・フリデス議員は「我が国の信頼性とイメージが危機に直面している」と強調した。スイスは紛争当事国間の仲介役や、国際機関の拠点、国際会議および和平交渉のホスト国として知られるとし、「スイスが自国の価値観と一層調和していくには、この一歩を踏み出さなければならない」と語った。

左派の議員たちは「スイスは世界で最も重要な金融センターの一つ」と言及し、「これを機にスイスは投資先を別の分野に移し、模範を示すことができる」と主張した。

現行法の限界

スイスでは核兵器、生物兵器、化学兵器、対人地雷、クラスター弾などの禁止兵器への直接融資は法律で禁じられている。間接融資は、直接融資を避ける目的で行われる場合にのみ禁止となる。

左派議員の一部はオランダのNGO「PAX」の統計を引き合いに、そのような法律は不十分と主張した。PAXの「Don't bank on the bomb(核兵器にお金を貸すな)」プロジェクトでは、クレディ・スイス、UBS、スイス中銀が2017年から19年の間に、ボーイング、エアバス、ハネウェル、ロッキード・マーチンなど核兵器を製造する企業に約90億ドル(約9680億円)を投資したことが明らかにされた。

「銀行には現行法を確実に遵守するための効果的な規則がある」

ギー・パルムラン経済相

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イニシアチブが可決されれば、「禁止兵器と禁止対象外の軍需品の境目がなくなってしまう」とギー・パルムラン経済相は語った。スイスの法律は特定武器への融資を禁じるが、イニシアチブは適用範囲をすべての軍需品に拡大しようとしていると同氏は指摘した。

パルムラン氏は「『核兵器にお金を貸すなプロジェクト』でそのような報告があったからといって、法律が機能していないわけではない。エアバスやボーイングのような複合企業は民間製品も製造しているが、(プロジェクトは)その事実を無視している」と述べた。同氏の説明では、連邦経済省経済管轄局が18年に検査を実施した結果、銀行には現行法を確実に遵守するための効果的な規則があるとの結論が出たという。

連邦政府の主張には下院の過半数が納得し、間接的対案で現行法を強化する必要はないと判断した。イニシアチブの審議は今後、全州議会(上院)に移る。イニシアチブの最終的な可否は、間違いなくスイスの有権者に委ねられるだろう。

軍需品の輸出、爆発的に増加

スイス企業による軍需品の輸出額は昨年、前年比で43%増えた。売却先は71カ国、輸出額は合計7億2800万フラン(約800億円)に及んだ。

連邦経済省経済管轄局(SECO)によると、増加の主な理由は3カ国との大型取引だ。スイスはデンマーク(1億5000万フラン)、ルーマニア(1億1100万フラン)に装輪装甲車を納入し、バングラデシュに防空システムを販売した(5500万フラン)。ただ、武器は輸出品目全体の0.23%しか占めていない。

アムネスティ・インターナショナルは、スイスが紛争当事国や、組織的かつ重大な人権侵害を行っている国に武器の供給を続けている点を批判している。これらの国にはバングラデシュ、パキスタン、アラブ首長国連邦(UAE)、その他の湾岸諸国が含まれる。スイスでは昨年、紛争当事国への武器輸出を禁じるイニシアチブが成立した。

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