批判を打ち返した糖尿病研究者

ドナート氏は糖尿病患者に新しい希望の光を与えられそうだ Keystone

チューリヒ大学教授のマルク・ドナート氏は2型糖尿病の進行を食い止める前途有望な治療法を開発した。

このコンテンツは 2008/10/08 15:25

「2型糖尿病は最も多く見られるタイプの糖尿病で、いわば細胞が炎症を起こすことによって生じる」。ドナート氏のこの説は、発表当初多くの批判にさらされた。しかし9月、同氏はスイス人で初めて権威あるノバルティス糖尿病賞を受賞した。

受け入れには時間がかかる

2型糖尿病は高齢者に多く見られ、糖尿病患者全体の9割を占めている。不健康な生活習慣も原因の一部となっており、患者の数は増加するばかりだ。スイスで2型糖尿病を患っている人は全人口のおよそ7%に当たる。

原因は、体内のグルコース値 ( 血糖値 ) をコントロールするホルモン、インスリンの分泌不全にある。2型糖尿病の患者はすい臓でインスリンを十分生成することができない。あるいは、これを効果的に使うことができない。そして、やがてインスリンを生成するベータ細胞が破壊される。内分泌学と糖尿病を専門とするチューリヒ大学病院のドナート教授は、細胞を破壊する物質を突き止め、それを遮断することに成功した。

遮断物質の臨床試験は、関節炎の薬の処方を受けている人を対象に実施された。製薬企業も関心を示しており、この先、糖尿病患者はもう毎日インスリン注射を打たなくてもよくなるのではと期待されている。その一方でドナート氏は、この説が完全に受け入れられるまでにはまだしばらくかかるだろうとみている。

swissinfo : 2型糖尿病患者の生活とはどんなものですか。

マルク・ドナート : 初めは生活スタイルを変えることで必要なインスリンの量を低く抑えることができますが、ベータ細胞の破壊が進むと薬が必要になってきます。そして、最後にはインスリンを注射しなくてはならなくなります。

大切なのは、これは進行性の慢性疾患だときちんと理解することです。進行を遅らせることはできても止めることはできません。10年、20年後には体内で生成されるインスリンを注射で代替しなくてはならなくなります。通常は、さまざまな種類のインスリン注射が必要です。また、注射するときには血糖値も把握していなくてはなりません。そのためには1日数回の測定が必要です。

swissinfo : 研究はどのように進展しましたか。

ドナート : まずはなぜ細胞が破壊されるのかということを明らかにしなくてはなりませんでした。そして、細胞自身が生成する分子「インターロイキン1ベータ ( IL 1β ) 」がその原因であることを突き止めたのです。

その後、IL 1βを遮断する物質を使って臨床試験を行い、その結果を2007年に発表しました。この遮断物質は病気の進行を変化させます。患者の血中グルコース値が改善されたのみでなく、さらに重要なことに患者の体内で生成されるインスリンの量も増えていることが分かりました。

今年はもっと長く作用する遮断物質を使いました。安全性に問題はなく、1本の注射で1カ月以上にわたって血中グルコース値の大幅な改善が記録されています。つまり、注射は1カ月に1本で済むのです。

また、患者自身が生成するインスリンの量も1カ月後に26%増加、3カ月後には52%まで増加しました。これは症状を抑える治療ではありません。私たちは血中グルコース値だけに焦点を絞っています。しかし、これが病気の進行に大きな影響を与えているのです。インスリン生成量が増加することによって、糖尿病の進行を食い止めることができるのです。

swissinfo : 1カ月に1度注射をすればよいだけとなると、大突破口を開いたに等しいのでは?

ドナート : 現在、できるだけ早い実用化に向けて、複数の企業と研究を進めている最中です。患者にとってはかなりの負担軽減となるでしょう。特に、時には幾つ飲んだか分からなくなるほど多くの薬や注射が必要ともなれば。

新薬が発売されるまでにはまだ3年ほどかかると思います。その後、5年から7年の間に次の薬を発売できるでしょう。

swissinfo : この説を発表した当時は、懐疑的な声が多かったようですが。

ドナート : 従来の理論が覆されるとき、学術界にはよく起こることです。私たちは炎症の特殊なタイプについて発表したわけですが、炎症と2型糖尿病の間に関連があるということをなかなか納得してもらえませんでした。特にヨーロッパではたいへん懐疑的でした。

ですから、ローマの国際糖尿病会議でこの新しいコンセプトが受け入れられたときは、なんだかプレゼントをもらったようでしたね。また、私たちとは無関係に、別の団体によってこの発見が裏付けされたこともとても重要です。最終的に学術関係者を納得させるのは、このような証明なのですから。

swissinfo : これはつまり、大胆な研究だったということですか。

ドナート : そうですね、難しい局面は幾つかありました。人に信じてもらえないと、自分自身でも疑わしく思えてきたりします。小さな疑惑の雲がかかってしまうと、成果を発表したりスポンサーを見つけたりすることが難しくなります。

そんな中、最初のターニングポイントは2007年にやってきました。当時、私たちの研究結果をある別の団体が裏付けし、その後、私たちは著名医学雑誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン ( New England Journal of Medicine ) 」に研究の成果を発表することができたのです。

そして今年、私たちはこの仮説を2度目の研究でも実証しました。すると、この結果はまったく明白だと言われ始めました。昨日の敵は、今や親友となりたがっているようです。これもまた人間にはよく見られることですが。

ノバルティス糖尿病賞の審査委員会は、私が非常に尊敬する糖尿病の専門家がメンバーになっています。全員が研究のトップにいる人々です。この賞も私たちを評価してくれました。

swissinfo : 安全性に対してはどのような実験を行うつもりですか。

ドナート : まずは理想的な服用量を特定しなければなりません。その後、第3段階で安全性に関する実験を行います。安全性はどの薬にも欠かせないテーマですが、糖尿病患者に投薬されている薬には安全性が不足していると思われるものがあるため、糖尿病はまた特別です。

とはいえ、私は楽観的な見方をしています。リウマチ性関節炎の患者が類似の薬を服用しても安全性の問題はほとんど出ませんでした。生物学的な知識をかなり持ったグループで研究を進めていますから、副作用は出ないと思います。

最悪の場合、副作用のためにこの薬が実用化されなくても、少なくとも研究の方向性を示すことはできたはずです。今回の薬が効かなくても、同じ原理で作用する別の薬が作られるでしょう。

swissinfo、聞き手 イソベル・レイボルト・ジョンソン チューリヒにて 小山千早 ( こやま ちはや ) 訳

マルク・ドナート

44歳のドナート氏はチューリヒ大学病院の内分泌学および糖尿病の教授。

出身はジュネーブだが、仕事はほとんどチューリヒで行っている。エルサレムでも2年間を過ごした。

医師として患者に接するほか、研究や事務にも携わる。

9月9日にローマで開かれた糖尿病研究ヨーロッパ協会会議で、賞金2万5000ドル ( 約255万円 ) のノバルティス糖尿病賞を受賞した。

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2型糖尿病

糖尿病患者は肥満の人が多く、特に40歳から59歳の間に頻繁に見られるが、最近では青少年の間にも広がりつつある。

1度糖尿病になると一生治らない。

スイスで糖尿病患者が占める割合は人口全体の6%から7%。アメリカでは10%。

糖尿病には遺伝も関係している。また、貧国において食生活が急激に高カロリーになると、糖尿病にかかる人が急増する。地域によっては住民の半数に達することもある。

この先20年間で、糖尿病患者は流行病レベルのおよそ3億8000万人に増加すると予測されている。

1型糖尿病は人体が自分のインスリン細胞を攻撃するタイプのもので、青少年に多く見られる。手間のかかるインスリン注射で治療しなければならない。

ドナート氏は、2型糖尿病の進行を食い止める治療法を1型糖尿病にも活用できると期待している。

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