コロナ危機 スイスの連邦制に試練

建国記念日に各州の旗が飾られた連邦議事堂。新型コロナ危機を機に、連邦と州のパワーバランスのあり方が問われている Keystone/Edi Engeler

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、連邦政府は連日のように記者会見を開き、各州も頻繁に情報を発信している。それぞれの発言内容からは、スイスの政治システムの内情や、連邦と地方(または州)のパワーバランスが垣間見られる。

連邦政府は新型コロナウイルスの感染拡大に対処するため、2月末から感染抑制措置を開始した。個人の自由は徐々に制限され、公共生活はほぼ閉鎖されることになった。その過程で、連邦政府と一部の州との間で意見の相違が浮かび上がった。

連邦政府と一部の州の間で対応が割れた例には、建設現場や工場、スキー場、保育所の閉鎖、主要な公共イベントや個人の集まりでの人数制限(2月末は最大1千人、3月20日以降は最大5人)、年配者に対する外出禁止令、失業給付金の規則緩和などがある。

傍から見ればどの規制に従うべきかが分かりにくく、とりわけメディアもこうした状況に困惑した。そのため連邦政府に強いリーダーシップを求める声が高まった。

連邦政府による規制の適用に関し、連邦政府とティチーノ州は合意できていないのではとの疑惑があったが、アラン・ベルセ内相は記者会見でそれを否定。「我々は行き詰っているわけではない」と述べた。 

そして同氏は連邦政府の政策方針について報道陣に丁寧な説明を試みた。 

「今のような困難な時期には団結の維持が重要だ。意見の相違については交渉の場で議論する必要がある」「確かな解決策を生み出すために今必要なのは、多くの善意とプラグマティズム(実用主義)だ」と語った。 

遅いが安定

これまで多くの専門家が、連邦と州が明らかな緊張関係にあることに危惧を示してきた。また、連邦制は合意形成に時間がかかり、手続きが煩雑な点が批判されてきた。

そこで社会学者のカティア・ロスト氏は、通常は長い議論を伴う協議段階を省き、政策プロセスを迅速化するべきだと提唱する。通常なら妥協点を見いだすために必要なプロセスを回避することになる。

ただ、同氏はドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーのインタビューで、妥協点を追求する通常の方法は「迅速さが求められる状況では通用しない」と語っている。

連邦制で政策プロセスが遅いのは、州に自治権があるためだと考えるのが一般的だろう。

ただ実際、スローペースだからといって、中央集権型でトップダウン型のシステムに比べて結果が劣ると言い切れるだろうか? 

ローザンヌ大学の政治学者アンドレアス・ラドナー氏や、世論調査機関gfsベルンの政治学者クロード・ロンシャン氏も、フランスや英国などの中央政府の方が危機対応に優れているとは考えていない。 

柔軟性があり革新的

「長期的に見れば、連邦制の下では適切な解決策が導かれる。連邦制は(中央集権制に比べ)柔軟性があり、革新的だ」とロンシャン氏は話す。

またラドナー氏は「政治プレイヤーがいかにこの制度を支持するか、そして州が他州および連邦政府といかに協力していくかが重要」と付け加える。

連邦制には確かに欠点もあると、ロンシャン氏は考える。連邦制では戦略的に政策を打ち出すことが非常に難しいという。同氏はその例として、スイスが欧州連合(EU)との関係について一貫した方針を打ち出せていないことを挙げる。 

ラドナー氏は「スイス政治には、連邦政府と州政府の緊張関係がつきもの。だが現在は緊張がさらに鮮明になっている」と指摘する。 

例えば連邦レベルで策定された環境関連の法律や、麻薬に関する政策改革が地方レベルで試験的に導入されたときに、両者の緊張が高まったことがあった。こうした分野における州の自治が否定されたからだ。 

コロナ危機の影響

スイスの連邦制は地域の多様性や、マイノリティの参加を保証する一方、難点もいくつかある。だが現在のコロナ危機をよく耐えている。

そのためロンシャン氏もラドナー氏も、連邦制を全面的に見直す理由はないと考える。

ロンシャン氏は「現在の危機をきっかけに州による自治に終止符が打たれるようなことはまずないだろうが、国の責任がこれまでより重視されるようになる可能性はある」と語る。

また「連邦制は維持されるだろう。なぜならスイスのDNAに刻まれているからだ」と述べる。連邦制のルーツは中世から続く州の歴史にあると同氏は説明する。1848年に建国された現在のスイス連邦で、連邦制は中心的な政治制度となった。 

一部の専門家からは「政治的意思決定プロセスに市民が参加できる直接民主制と比べ、連邦制の方が重要とまでは言えないが、少なくとも同等に重要」との意見も聞かれる。

実用主義に則る

連邦政府が州の自治権や連邦議会の権限を一時的に停止、または抑制したとしても、連邦制の持つパワーバランスは滅びなかったことを示す例は多い。

連邦政府が主権を握ろうと第一次世界大戦中に導入した連邦税は今も残り、第二次世界大戦下に築かれた権威主義的な体制は終戦後もしばらく続いた。だが連邦議会は数年をかけて中央集権化を食い止め、憲法上の権利を取り戻した。

スイスの政治は、唯一無二の真理を追い求めるのではなく、結果を重視する実用主義の影響を強く受けているようにみえる。そのため、現在の連邦政府と州の間の緊張関係が長引いても不思議ではない。

連邦政府が出した新型コロナウイルスに関する措置を巡り、州や基礎自治体の一部で実施方法が異なったり、規則違反があったりした。だがそうした問題は今のところ全て解決されている。ただ、これまでのような意見の違いが再び起きない保証はない。

ここにスイス政治のもう一つの特徴が表れている。合意と妥協だ。受け入れ可能な解決策を模索していく中で、ある程度の政治的駆け引きがあることは否めないが、どのサイドもメンツが保てなくてはならない。 

ベルセ内相が善意、実用主義、団結を訴えたことは偶然とは言えないだろう。


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