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日本の政権交代 スイスでも注目

Keystone

8月30日に行われた第45回総選挙について、スイスのマスコミは鳩山由紀夫代表の生い立ちを詳しく紹介するなど、民主党の大勝利を大きく取り上げた。

ドイツ語圏の日刊新聞で、ビジネスマンや教育レベルの高い読者を持つ「ノイエ・ツゥルヒャー・ツァイトゥング ( Neue Zürcher Zeitung/NZZ ) 」やフランス語圏の「ル・タン ( Le Temps )」などは特に1面で扱い、詳しい解説を付けて大きく報道した。

自民党 忠義を求め、政権にしがみつく

 NZZは、日本の政権交代について、実生活での不景気を感じる国民の不満が当然あったが、50年間以上支配してきた自民党への怒りが第1の理由だと説明した。しかし、麻生太郎首相、鳩山代表、小沢一郎氏が2世、3世の政治家であることを紹介しながら、「日本の政治に大きな変化が起こるのか?という疑問は当然ある。日本は伝統を重んじる社会と政治の力の支配が強く、こうした土壌での政権交代は ( 「日本丸」が ) 、新しい岸を見出すまでには至らない。日本の政党は、世界観をともにする集団というより、政権を取ろうとしたり政権にしがみついたりする『乗り物』だからだ」と指摘。さらに「真に新しい風を日本に導いたのは小泉純一郎元首相であり、彼がもたらした新鮮で自由な精神は日本では大きな例外だった」。今回の自民党の敗北は小泉氏がもたらしたパラドックスでもあると説明した。

 同じドイツ語圏の日刊新聞「ターゲスアンツァイガー ( Tages Anzeiger ) 」は、 中国が長期にわたって政権の座にとどまるためのサンプルとして日本の政治を研究していたことを例に挙げ、今回の日本の政権交代の理由をさらに分析する必要があると皮肉った。同紙は、自民党について
「自民党は自由や民主の思想があったわけではない。ネオリベラル的、右派国粋主義的、社会民主的思想を持つ政治家の集まりだった。こうした政治家が、自民党に残ったのは、政権党だったからであり、財政権を握ることができた上、大臣になるためには自民党員でなければならなかった」
 と紹介し、惨敗した理由を
「政治を独占した党は党員に対し、能力より忠義を要求する。忠義が党内部から崩壊をもたらした。能力が欠けていたため、経済の立て直しはうまくいかず、敗北に至った」
 と分析した。

ワシントンの懸念

 バーゼルの新聞、「バスラー・ツァイトゥング ( Basler Zeitung ) 」は「日本は歴史的転機にある」と書き、鳩山代表や小沢氏の選挙結果を踏まえての発言を紹介した。鳩山代表は勝利の大きな理由ではないと指摘しながらも、工学部出身だったといった履歴と共に、政治家の家系を持ちアメリカのケネディー家と比較されることや麻生首相より財政的に豊かであるといったことを紹介している。

 スイスフランス語圏の主流日刊紙「ル・タン」は、第1面トップに「日本人は政治の歴史的な方向転換へと舵を切った」と大見出しを掲げた。日本で取材した有権者の発言「オバマ米大統領がアメリカを変えようとしたように、日本人は日本を変えたいと思っている」を引用し、一般の有権者が政権交代を望んだ結果であることを強調した。

 今後の日本の外交方針について「ワシントンは東京の今後の意向を心配している」という小見出しで、民主党が折に触れ掲げたより対等な日米関係を目指すであろうと分析した。民主党が構想する、欧州連合 ( EU ) をモデルにした中国などを含む「東アジア連合」に関して、
「こうした連合が成立すれば、中国はアメリカからの独立性を高め、東アジア地域での優位性を強化していくだろう」
 と分析した。しかし一方で、ヨーロッパの外交官の「東アジア連合は鳩山氏の夢想だ。東アジアとヨーロッパはまったく異なる状況だ」という発言も紹介した

 また、ジュネーブの日刊紙「トリビューン・ド・ジュネーブ ( Tribune de Genève )」も第7面にほぼ1ページを割き、「日本は経済危機から抜け出すため中道派の政党を選んだ」という見出しで、民主党の子ども手当や失業者支援などの社会保障面での政治方針などを細かく紹介。また鳩山代表が歴代政治家を輩出する家系であることを挙げながら、インテリな経歴にも触れた。

佐藤 夕美 ( さとう ゆうみ ) 、里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、swissinfo.ch

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