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格安旅行の光と影

一夜明けて swissinfo.ch

大手航空会社の撤退が続く中、コストを徹底的に削減した格安航空会社が快進撃を続けている。欧州の先駆者であるイージー・ジェット(英国、easyJet)が、ホテル業界に乗り出した。この9月にバーゼルにもお目見えしたイージー・ホテル(easyHotel)。スイスインフォの記者が乗り込んだ。

イージー・ホテルは値段の安さで勝負なのだから、一切余分なものは期待してはいけない。そして少々の寝不足も覚悟しなければならない。

 ギリシャの海運王であるイージー・グループの創業者、ステリオス・ハジ・イオアノウ氏は記者会見で自信たっぷりに語ったものだ。「このホテルがオープンしたらぜひとも私も利用するつもりだ。一番小さな部屋にチェックインする」。窓のない、9平方�bの小部屋に、この大富豪が?持ち込む荷物だって入りきらないのではないだろうか?

小部屋の快適度

 ステリオスは(彼はファースト・ネームで呼ばれることを好む)、正直にもこの小部屋はダブルベッドがやっと入るほどの広さであることを明かした(インタビューを載せた関連記事をぜひご覧下さい)。

 さて記者が見学したイージー・ホテルの第一印象は悪くなかった。部屋は明るくてモダンだし、ベッドはふかふかだ。大きく「イージー・ホテル」のロゴが入ったオレンジのドアはスペースを節約するために外側に開く。全ての部屋にはユニットバスがついているし、手を伸ばしてぐるりと廻れるほどの空間もある。

 母体の航空会社、イージー・ジェットなど他のイージー・グループ傘下の企業と同じく、イージー・ホテルもインターネットを通じてのみ予約できる。人件費削減のためだ。

イージー・オレンジ

 「インターネットの写真だったら、オレンジ色のドアもいつまででも同じ鮮やかさを保てるからね」。ステリオス氏はインターネットの利点を挙げる。


 「窓なしの小部屋」は24フラン(2100円)だが、好みによってシングルベッドやダブルベッドの部屋もあり、当然その分お値段も高くなる。追加料金を払えば、朝食やテレビ、リネンのシーツやタオルの交換も頼める。

 「お客様は、知らない土地に来ておいしい料理や、美術館などの文化的なことにお金を使いたいはずです」とイージー・ホテル・バーゼルのオーナー、フィリップ・フィンクさんは語る。「清潔でしっかり機能しているのであれば、泊まる場所については、少々お金を節約しようと思うのは自然なことです」

往復航空チケットとホテル代その他で1万4000円なり

 イージー・グループはバーゼル観光局と提携を結び、イギリスからバーゼルまでの往復航空チケット、1泊のホテル代、バーゼル美術館の入場券、ライン川のフェリー下りとガイド付き市内観光、全部あわせてなんと160フラン(1万4000円)という格安パッケージを売り出す。

 今回、イージー・グループがスイスの拠点をバーゼルに決定したことは、当地の旅行業界にとって非常に明るいニュースだ。バーゼル空港(別称:ユーロ空港)は、今年上半期だけで25%の旅行客の増加を見込んでいる。現在でもイージー・ジェットは、バーゼル空港に離着陸する旅行客の3分の1を運んでいるのだ。

 バーゼル観光局のダニエル・イゴロフさんは語る。「現在、イージー・ジェットを使っている旅行客の多くは、以前は飛行機になど乗ろうとは思わない人たちばかりでした。飛行機代は、彼らにとって高すぎたのです。ところが彼らにも手が届く料金で飛ぶ飛行機が出てきたおかげで、空の旅を選ぶ人々の裾野はぐっと広まりました。ホテルについても同じことが言えるでしょう」

 なるほど。深くうなずきながら、いよいよイージー・ホテルにチェックインした。

究極の選択

 選んだ部屋は、ステリオスが泊まる予定の最小の部屋より3平方�b広い。 コーナーには一泊用の荷物を置ける場所もある。もちろん家具などはついていない。しかし、貴重品を置ける窓枠がついている。

 衣装棚なんて望むべくもないが、代わりに壁に洋服をかけるための留め金が打たれている。バスルームには洗面用具を置けるような出っ張りもある。

 快適、快適、と時間が流れ、やがて夜が来た。暑苦しいが、部屋にはもちろん冷房などはない。外から入ってくる騒音に悩まされながら窓を開けたままにするか、それとも蒸し風呂状態のまま窒息するか。

 前者を選んだことで、トラムが走るゴトゴトという音や酔っ払いの喧嘩の声に数時間悩まされることになった。眠い頭にステリオスの顔が浮かんだ。そうか。なぜ彼が窓のない部屋を選んだのか、やっと分かった。その部屋には冷房が付いているのだ。

 騒音はまだひっきりなしに続いている。車のタイヤのキキキーッときしむ音とパトカーのサイレンの音にじっと耐えた後、深く深く息を吸い込み、思い切ってばたんと窓を閉じた。

 「日中、空気の入れ替えを忘れたために、夜、思った以上に気温が上がってしまったようです」。記者が「一晩中眠れなかった」と苦情を言うとフィンクさんはこう説明した。気温どころの騒ぎじゃない、酸素が不足していた事実をどうしてくれる。

 「もし全ての部屋に冷房が必要なら、このように安い値段を提供できなくなるでしょう」ともフィンクさんは言った。その前に、ただ受け付けで耳栓を売ればいいだけじゃないのか。イージー・ビジネスの頭の切れるビジネスマンは、なぜこんな簡単な事に気がつかないのだろう。

swissinfo、デイル・ベヒテル(バーゼルにて) 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

イージー・ホテル・バーゼルが提供する部屋は3種類:最小(9平方�b)、小(12平方�b)、スタンダード(16平方�b)。
価格は24フラン(2100円)から。
予約はインターネットのみ。
場所は市の中心でバーゼル会議センターの隣。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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