スイスの視点を10言語で

現代の中の中世

時代の遺産:かつて病院であったベルンのブルジョアジー所有の建物は、今は老人ホームになっている swissinfo.ch

スイスの市町村の中には、中世の町に住む上層、中層市民階級(ブルジョアジー)がまだ行政の一部を担当している所がある。

ブルジョアジーが国籍収得手続きの仕事まで担当している州もあれば、単に文化遺産の管理や社会福祉関係の仕事だけをしている州もある。

 ヨーロッパ中世の旧体制下で、町に住む上層、中層市民階級であったブルジョアジーは、他の欧州諸国では革命後、その力を失った。しかし、スイスではまだ市町村の行政の一部を担当するブルジョアジーが存在し、これは非常に特殊な、スイス固有の現象だという。

それはナポレオンのせい

 なぜスイスにブルジョアジーが存続したのか?その理由を考えるとき、この国が連邦制であったことも関係する。18世紀の終わり、13の州が同盟を結んでいた時代、各州内部では自由、平等の概念はなく、貴族や名士の支配する殆ど中世と変わらない社会体制であった。いわば中世的な社会体制の州が同盟関係にあったにすぎない。

 1798年、フランス共和政の部隊が一時的にスイスに「市民権」を導入するが、それはむしろ、この国を混乱に陥れた。やがてナポレオンが1803年に仲裁に入るが、その時彼は、その町で生まれたブルジョアジーが担当する行政と一般市民が担当する行政とを完全に分離した。これによって、ブルジョアジーは一部の行政担当者として生き残れることになったのである。

 その後、スイスは再び旧体制化し、1815年、最後の3州がスイス連邦に加入した時点でもまだ「市民権」の概念はなく、それはやっと1848年に制定された連邦憲法の中で導入されるのである。

この分野でも連邦制

 ジュネーブ、ヌーシャテル、ニドヴァルデン、シュヴィーツ、ヴォー州を除く他の州はこの1804年の連邦憲法制定以前に、ブルジョアジー存続を決めた。そして今日までそのまま改正せずにきた。ところで、連邦制の制度はブルジョアジーに関しても同じように機能するため、各州によって彼らの果たす役割は全く異なっている。

 スイスでは、国籍収得のためにまず市町村の籍を取らないといけないが、その仕事は、バーゼル・ランド、アールガウ、グラウビュンデン、ヴァレー州においては、いまでもブルジョアジーの仕事である。例えば、ヴァレー州にメックスという小さな町がある。ここではブルジョアジー階級社会に加盟する費用が非常に安い。イタリア、マケドニア、イランなどの金持ちはこれに目をつけ、まずこの町のブルジョアジーになり、この町の籍を得て、次いで国籍を収得しようと押しかけた時期があった。しかしこれも2006年1月1日をもってブルジョアジーの仕事ではなくなった。

ブルジョアジーは存続するか?

 「ヴァレー州のメックスのように、ブルジョアジーの仕事を減らすと彼らの存続も危ぶまれる」という意見もあるが、存続を維持するか否かはあくまで各州が決めることである。最近、バーゼル・シュタット、ザンクトガレン、グラウビュンデン州では、彼らの存続を維持したまま州憲法を改正した。

 「かつて、ブルジョアジーは特権階級でした。しかし今は、文化的、社会的な仕事を受け持つ人々なのです」と語るのは、ブルジョアジーと同業組合のスイス連盟(FSBC)の会員であり、フリブール市長でもあるジャン・ブルグネシュト氏。実際、フリブールでは市の行政の一部をブルジョアジーが担当し、老人ホーム、青少年の更正施設、集合家庭菜園などは彼らの仕事である。

 また、ツーク市と同じようにベルン市ではブルジョアジーがメンバーの社会福祉面の面倒をみている。さらにベルン市では毎年、ブルジョアジーが所有する森、建物などから得る収入から2000万スイスフラン(約19億円)をベルン市に納めている。

 フリブール市ではブルジョアジーは世襲制であるため、メンバーはそう簡単に増えない。「しかし若い人達も集会によく顔を出します。それに文化的、社会的な奉仕の仕事がある限り、ブルジョアジーの将来は保障されています」とブルグネシュト氏は楽観的である。

swissinfo、マルク・アンドレ・ミズレ 里信邦子(さとのぶ くにこ)意訳

- 欧州の中で、スイスはブルジョアジーを中世から存続させている唯一の国。
- ジュネーブ、ヌーシャテル、ニドヴァルデン、シュヴィーツ、ヴォー州を除いた州で、ブルジョアジー階級社会が存続する。
- スイス国籍を収得するには、まず市町村の籍を取り、それから州、連邦という段階を経る。
- バーゼル・ランド、アールガウ、グラウビュンデン、ヴァレー州においては、いまでも市町村の籍を与えるのはブルジョアジーの仕事である。
-  他州では、ブルジョアジーは世襲の重要な文化遺産、不動産等を管理したり、収入の一部を社会福祉、文化事業に使っている。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部