新型コロナに揺れる世界の民主主義

スイス連邦議会も閉会となり、この下院議事堂もがらんどうだ Keystone / Anthony Anex

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で世界が動きを止めている。公の活動は中止され、ジェームズ・ボンドの最新作すら撮影が延期になった。ロックダウン(都市封鎖)は民主主義にも影響をもたらし、世界中で国民・住民投票が延期になっている。だが独裁者や大衆主義者、国粋主義者が喜ぶのはまだ早い。

本記事の筆者ブルーノ・カウフマンはスイス出身で直接民主制を専門とするジャーナリスト。People2Powerの編集長や、直接民主制を志向する世界中のグループのプラットフォームとなる世界会議を主催。swissinfo.chの民主主義分野の特別顧問を務める。

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世界はどこを見渡してもあまり良い雰囲気ではない。実際、良い雰囲気とは程遠い。国連のグテレス事務総長は数日前、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全人類を脅かしている」と発言。パンデミックで世界30億人が外出を制限され、戦後最悪の景気後退に陥る危険性があると警告した。

今の時点で危機がどこまで深刻化するか、どんな結果をもたらすのか完全に予測できる人はいない。「スケジュールを設定するのは我々ではなく、ウイルスだということを理解しなければならない」。米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長は、トランプ米大統領がコロナ関連規制の緩和に言及したのを受け、こう指摘した。

筆者の暮らすスウェーデンの小さな町アルボガで緊急事態が最初に感じられたのは数週間前、北極への取材旅行から帰ってきたばかりのことだ。地元紙に「学校に関する国民投票は延期すべきだ」という見出しの記事が掲載されたのだ。それは数年前に発効した新法の下で初めて市民側から提起された投票案件だった。

だがそれは新型コロナで政治参加や直接民主制が直面した難局の序章に過ぎなかった。筆者の出身国スイスでも、5月17日に予定されていた国民投票は延期となった。イニシアチブ(国民発議)やレファレンダムを立ち上げるための署名集めも中断されている。

「生涯大統領」もお預けに

世界中どこも似たような状況だ。

米国では11月3日の大統領選(とその他数千ポストの選挙)に向けた選挙戦が過熱しているが、署名集めサイトや選挙活動は保留されている。チリでは4月26日に憲法改正を問う国民投票が予定されていたが、延期となった。

ロシア(直近の国際調査「民主主義の多様性」による民主主義ランキングでは、202カ国中179位に位置付けられる)のような投票民主主義国家においても、憲法改正案をめぐる国民投票の延期を決めた。改正案はウラジミル・プーチン氏に「生涯大統領」への道を開くものだった。

世界危機が民主主義に与える影響は、市民活動や国民投票の停止にとどまらない。多くの国、特に政府が戦時以来となる非常事態を宣言した国では、議会の関与が省略されている。

マスクを着けた候補者

俳優ダニエル・クレイグ主演のジェームズ・ボンド最新作(公開は11月12日に延期)のタイトル通り、民主主義は「ノー・タイム・トゥ・ダイ」(死ぬ暇などない)だ。歴史上最も成功し最も人間的な形の政府、つまり現代の代表民主制だ。

中国とは対照的に、わずか数百キロ離れた先進的で活気のある民主国家、韓国や台湾は、パンデミックを効果的かつ民主的に管理する方法の実例を示した。ウイルスの脅威に迅速・確実に対応し、ソウルや台北の政府は基礎的な民主的権利と人々の自由を保持した。韓国では4月15日の総選挙が、選挙戦には特別な条件が付されたが、予定通り実施される。

ノルウェーでは、議会は政府による権力奪取を回避。スイスでは上下院が合意し、5月初めにコロナ危機対策を審議する特別国会を開くことになった。 ここでさらに強調したいのは、スイス政府が取った措置は、国民投票でスイス有権者の過半数の支持を得た感染症法に完全に則っていることだ。

地球規模でみれば、独裁者や国粋主義者、大衆主義者が勝利を宣言する理由はほとんどない。反対に、パンデミックは多国間の協力や地方自治、ITが今日よりも大きな役割を果たす未来への扉を開けた。


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