ソーシャルメディアは何歳から?政府の規制は過度の介入か
ソーシャルメディアの利用に適切な年齢とは?様々な国がこの問題について法整備を進めている。オーストラリアは2025年末、16歳未満の子どもたちのソーシャルメディア利用を禁止する法律を世界に先駆けて施行した。スイスでも議会の要請を受け、政府が報告書の作成を進めている。
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「おばちゃん聞いて。馬の動画を見てたら2時間たってたよ。全然気づかなかった」。私の姪はまだ14歳だが、スマートフォンにべったりの生活をしている。目覚まし、音楽、電車の時刻表、地図、ソーシャルメディアのプラットフォーム(Instagram、Snapchat、TikTokなど)——すべてがたった1台のデバイスに詰まっている。WhatsAppの無数のチャットはもちろんのこと。この、無限にスクロールできる宇宙が、日常生活や家庭内のやり取り、教育モデルに新たな挑戦を突きつけている。
多くの国がプラットフォーム事業者に年齢制限を課すよう義務付けるなど、行動を起こしている。オーストラリアでは法制化に伴い、各事業者が16歳未満のユーザーが自社のサービスを利用できないよう、措置を講じなくてはならなくなった。違反した場合は最大で5000万豪ドル(約54億円)の罰金が科される可能性がある。まず対象となったのは若者の間で(大人もそうだが)最もよく使われているFacebook、Instagram、Kick、Reddit、Snapchat、Threads、TikTok、Twitch、X、YouTubeだ。規制の詳細はここで外部リンク確認できる。
フランスもオーストラリアに倣い、規制の準備を進めている。年齢をさらに下げ、15歳未満の子どもによるSNSの利用禁止が国民議会(下院)で可決された。報道によれば、デンマーク、ノルウェー、スペイン、イタリア、ギリシャ、ドイツでも同様の法整備が進んでいる。
スイスの対策は?
スイスでも、子どもたちの毎日のデジタル利用が生活に与える影響について、懸念が広がっている。2025年10月には、スイス・ドイツ語圏学校長協会のトーマス・ミンダー会長があるインタビューで「未成年のソーシャルメディア利用を禁止すべきだ」と述べ、酒やタバコと同等の依存性があると指摘。これがドイツ語圏総合メディアグループTamedia系列紙に掲載され、その後各社が報道して波紋を呼んだ。
青少年のソーシャルメディア利用についてはこれまでも議会で取り上げられてきたが、左派・緑の党(GPS/Les Verts)のマヤ・グラフ氏が「ソーシャルメディアの有害な利用から青少年を守る」との題で調査を求める動議を全州議会(上院)に提出したことで、方向性が定まった。動議は全会一致で承認され、連邦内閣(政府)はこれを受け入れ、詳細な報告書を作成すると約束した。
2001年から議員を務め、ソーシャルワーカーの資格を持つグラフ氏は、動議提出の背景について「Z世代はデジタルネイティブとして育っていますが、過度なデジタル利用が発達や心の健康に悪影響を及ぼし、集中力や学習能力が十分に発揮されなくなると示唆する研究結果が増えています」と、スイス・イタリア語圏のオンラインポータルtvsvizzera.itに語った。科学的に明確な結論は出ていないものの、日常的なデジタル利用が人間の行動に及ぼす影響を示す証拠は増えつつある。グラフ氏が特に指摘するのは報酬系の神経伝達物質ドーパミンの作用だ。手軽に報酬を得られるコンテンツがデジタルプラットフォームに溢れているため、私たちはその利用へと駆り立てられる。また、絶え間なく刺激を受けるせいでマルチタスクを余儀なくされてしまう。
ポケットの中のスロットマシン
マルチタスクとは同時に複数のことをこなすことだが、スイスのプラットフォーム「unpluggo外部リンク」設立者のマリオ・スガレッラ氏は「長い間、良いことだとされてきた社会通念です。もうその考えから解放されるべきです」と言う。unpluggoは日常生活を「画面」の支配から解き放つための考え方や具体的な方法を伝えるセミナーを企画・運営している。自らを「デジタルリベレーター(解放者)」と称す同氏は、ソーシャルメディアの年齢制限について「現状を踏まえると、重要な一歩だと思います。オーストラリアの規制は興味深い実験になるでしょう。ただ、それは多くのアプローチの1つにすぎません。これは社会全体に影響を及ぼす問題で、社会が共同で取り組むべき課題ですから」と語る。
スガレッラ氏はリスクを見越した予防措置に言及。過去の教訓や科学的な根拠に基づき、年齢制限が設けられた例を挙げる。「飲酒、合意に基づく性行為、車の運転などがその例です。とはいえ、禁止するだけでは不十分で、教育も必要です。18歳になれば運転はできますが、まず教習を受けなくてはなりません。デジタルデバイスの利用に関しても、教育は欠かせません」
スガレッラ氏は、デジタルメディアに触れている際に脳の前頭前野が果たす役割に注目する。前頭前野は物事を見極め、適切な判断を下す機能を司るが「その発達は20歳を過ぎても続き、25歳を過ぎても続く場合があります」。そのため、特に子どもたちは制御がきかず、デジタルメディアにのめり込んでしまう。さらに、私たちの脳は「新しいものを求めるようにプログラムされています。デジタルデバイスを持つというのは、面白そうな新しいものを次から次へと出してくるスロットマシンをポケットに入れているようなものです」
私たちが日々触れているデジタルコンテンツは、気を紛らわせ、暇つぶしができるよう設計されている。しかし、スガレッラ氏は「退屈なことも重要」だとし、「自分の考えに耳を澄ます」必要性を訴える。親はしっかりした「家庭内のデジタル環境」を築き、その中で手本を示すことが重要だという。自分を棚に上げて子どもを注意するべきではないのだ。たとえば「夜、息子に向かって『待って、あと1本メールしなきゃならないから』と言うときがあるでしょう。でも子どもからしたら、あなたは一日中ずっと仕事をしていたわけです」
禁止措置は子どもの権利侵害?
グラフ氏は年齢制限に賛成で「憲法第67条は連邦政府と各州に青少年の保護を委ねています。ソーシャルメディアの過剰な利用を防ぐため、事業者にはより明確な規制が必要で、学校にも適用すべきです」と話す。誰もが同意するとは限らないが、グラフ氏は「これには左派も右派も関係ありません。事実、私の動議は全会一致で採択されたのですから」と強調する。一方で、教育界の一部には「啓発を強化すれば問題は解決できる」との考えがあることは承知しているという。「それは重要なことですが、明確なルールなしに解決はできません」
一方、連邦青少年問題委員会はソーシャルメディア利用の年齢制限に反対で、こうした規制は「複雑な問題に対する見せかけの解決策」としている。同委員会は、国連の子どもの権利条約外部リンクでは、青少年の情報アクセス権と年齢に適した教育の権利が保障され、「青少年に影響を及ぼすすべての事項において、彼らの意見が相応に考慮されるべき」と定められていると指摘。「親と子どもの行動を制限するような」禁止措置ではなく、参加型の協議プロセスを経て作られる規制であれば支持するとしている。
学校で生徒が個人のデジタルデバイスを使うことを禁止している州もある。ジュネーブでは、授業中はもとより昼休み中も禁止だ。アールガウ州では、家族や教育上の特別な理由がある場合を除いて、校外学習時も持ち込みを禁止している。操作のたびに集中が切れることや、SNSなどがいじめの温床となり社会問題化していることが主な理由だ。多くの人から画期的だと評価される一方で、子どもたちのプライベートや家族と学校の選択に政府が過度に干渉しているとスイス国内外で批判も出ている。
現実逃避からスマホ依存へ
スガレッラ氏は子どもたち向けのデジタルデトックスキャンプなどを頻繁に開催しているが、親が連絡してくるころには手遅れになっている場合が多いという。「すでに依存状態になっていて、心理療法が必要なケースが見られます」
依存の兆候の1つが孤立だ。スガレッラ氏は「スマホが現実逃避の手段になっている場合です。娘が部屋に何時間も引きこもってTikTokに釘付けになる。絶対に家から出ようとしない、外出を嫌がる、趣味がまったくない。そして成績が落ち続けている」ような状況を例として挙げた。
スガレッラ氏は子どもたちとのワークショップをこんなふうに始めるという。「親は携帯電話を使いすぎだと思う人?」
この質問には魔法のような効果がある。「子どもたちは心を開き、言いたいことをたくさん話してくれます。色々なことを知りたがっています。そして、画面をタップするたびに企業が利益を得ていると知ると騙されたような気持ちになり、デバイスの使い方に疑問を持つようになります」
・特定の部屋や時間帯には携帯電話を使わない
・家族が集まる場所に充電器を置く。絶対に寝室で充電しない
・就寝前と起床後の1時間はデジタルデバイスに触れない
・1週間に1日、または1年に1週間、家族全員がデジタルデバイスから離れ、楽しい活動を計画する。野外が望ましいが、お金をかける必要はない
・使わないアプリは携帯電話から削除し、通知をオフにする
・返事はまとめて。メッセージにその都度反応するのではなく、時間を決めて一度に返信する
・デバイス利用時間を管理できるアプリをインストールする
なお、unpluggo.chは子どものいる家庭向けには特に以下を推奨している
・家庭内に良いデジタル環境を築く。息子がスマホでやっていることに関心を示そう。娘に次の休暇に向けて色々リサーチしてみて、と頼もう。1人でやらせても、一緒に検索してもよい。
・3-6-9-12ルールを作ろう。3歳まではおじいちゃんおばあちゃんとのビデオ通話までにとどめよう。3~6歳なら多少の動画やアニメを見せても構いませんが、必ず大人と一緒に。6~9歳になると携帯電話を欲しがります。ここからデジタル教育のスタートです。子どもが9~12歳になると多くの家庭ではデバイスを持たせるようになりますが、スマホである必要はありません。いずれにせよ、この時点で何をどのくらい使うのか、ルールを決めよう。12歳以降は「どんなことが好きなの?一緒にやろう」と話しかけるなど、子どもを尊重しながら手本を示し、望ましい方向へ導くことが必要です。
企業には責任、子どもには安全を
スイスでは、この問題はデジタル分野の法整備や企業によるユーザー権利の改善義務といった他の取り組みとも複雑に絡み合っている。法案化は何度も先送りされ、専門家や業界団体の抗議を招いたが、政府は2025年10月下旬にようやく通信プラットフォーム・検索エンジンに関する法案を公表し、協議手続きを開始した。
連邦メディア委員会は、デジタル企業の市場力と見解を分析した報告書の中でアルゴリズムベースのレコメンデーションおよびモデレーションシステム、透明性、AI、メディア及びデジタルリテラシーの促進、といった様々な点について規制措置を提案している。
スイスの青少年福祉機関プロ・ユヴェントゥーテ(Pro Juventute)もオンラインプラットフォームへの厳格な規制を求めている。同機関は子どもの保護、透明性、説明責任といった観点から複数の対策を提案している。例えば、初期設定でプライバシー保護が有効化されている「プライバシー・バイ・デフォルト」型の、追跡機能のない子ども向けプラットフォームなどだ。
グラフ氏の動議を受け、報告書の作成は連邦内務省社会保険局(BSV/FSIO)に委託された。児童保護も管轄する同局は、メディアリテラシー推進のためのプラットフォーム「青少年とメディア」を運営している。2027年下半期に発表予定だ。
果たして、スイスはどのような選択をするのだろうか。
英語からの翻訳:吉田奈保子、校正:宇田薫
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