偽造薬品の欧州席巻を食い止めろ
偽造薬品といってもぴんと来る人は少ないだろう。偽造されたパッケージに中身を入れ替えられて売られる医薬品のことだ。欧州でも聞き慣れない新しい言葉だが、過去5年間で急増した。
国が変われば売られている医薬品も変わる。しかし欧州統合の流れで、医薬品が国境を越えて違法に流れ出し始めた。薬品大国、スイスとしては黙っていられない。
偽造薬品については、過去3年間でスイス中をにぎわす騒ぎとなった大事件が2件あった。2002年にバーゼル州の卸売りがドイツに輸出し、不法に2300万フラン(約20億円)の利益をあげていた。2004年にはスイス税関が、エイズの治療薬を国境で押収した。世界保健機構(WTO)がアフリカに送るために買い付けていたものを、何者かが盗んで密輸出しようと試みたのだった。
各国の協力が不可欠
医薬品を管轄しているスイスの政府機関、スイスメディック(Swissmedic)はインターネットでの偽造薬品販売についても懸念を示している。
スイス政府は2年前にも欧州評議会に問題提起したが、各国の規制には結びつかなかった。今年9月21日に開かれた欧州評議会では、再度この問題が話し合われ、より活発な議論が行われた。「これは欧州全域の問題で、各国の協力が不可欠です」とスイスメディックの広報担当、パウル・ディーチ氏は語る。
「法改正をしなければいけない国もあります。スイスから違法に輸出された薬品を売ることが、問題ではない国もあるからです」
関係者が一丸となれ
今回は偽造薬品がテーマとなるため、欧州評議会には参加国46カ国の代表の他に、医師や患者団体、医薬品業界からも出席した。
ディーチ氏は語る。「協力が必要なのは各国の政府間だけではありません。税関や裁判所、警察といった当局と、薬品製造企業、卸売り、薬品を販売する店といった薬品産業の2つが、相互に協力する必要があります」
「この問題について医師や薬品企業をしっかり教育する必要があります。そして薬品産業と当局はもっと密接な関係を持たなければいけません」
「この問題は今まで発展途上国に限られていましたが、欧州でも21世紀に入ってから多く見られるようになってきました。大きなものだけでも、15件も検挙されています。非常に多額の黒い金が動いているのです」
健康に害も
薬品のパッケージは非常に巧妙に偽造されて出荷される。欧州評議会によると、年々取引数が増加している上、技術も向上している。
欧州評議会は9月21日の会合の前に公式声明を発表し、「偽造薬品は、欧州市民の健康を害する恐れもあり、非常に危険だ。間違った薬品を飲んで死亡することもありえる」と警告した。
swissinfo、マシュー・アレン 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
欧州評議会の推定によると、偽造薬品は、参加国46カ国の市場の6%から20%を占めている。
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