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職場での女性の地位向上には「男らしさへの不安」解消が不可欠

Sandra Ondraschek-Norris

スイスの主要企業の経営陣のうち、女性は20%未満。非営利団体カタリストのスイス拠点スタッフ、サンドラ・オンドラシェク・ノリス氏は、職場での男女のギャップ解消のため、男性を味方にする必要があると訴える。 

職場は実力主義ではない。25〜34歳の大卒率は男性が35%なのに対し、女性は42%だ。にもかかわらず、ビジネスでのトップレベルの役職への抜擢という点では、未だに女性は男性と平等に扱われていない。

職場に真の変化をもたらすには、男性を仲間にする必要がある。彼らは大企業で権力と影響力を持っていて、この変化を推進する必要がある。誰を雇用し、誰が「ホットジョブ」に就くかの決定権を有するのは男性だ。ホットジョブとは大きな予算とチームを率いる重要かつ注目を集める役割で、組織のトップに人を押し上げてくれる役職だ。我々は、女性が男性と同じくらい優秀でも、ホットジョブを獲得するケースが少ないことを知っている。

ジェンダーバイアスとジェンダーによるステレオタイプは、職場での女性の地位向上のかなり大きな障壁になっている。このことは、女性を描写する言葉にもしばしば表れている。調査外部リンクによると、男性と女性は異なる能力を有すると考えられている。男性がよりリーダーシップを見せ、「指揮を執る」のに対し、女性はより「世話をする」行動を取ると見なされている。後者は、あまり高く評価されていないように思われる役割だ。また、女性が有能なリーダーとして見てもらえない「think-leader-think-male(マネージャーといえば男性)」現象も存在する。

職場でのジェンダーによるステレオタイプと性差別の撤廃には、男性を巻き込むことが不可欠だ。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のデータによると、ジェンダーのダイバーシティー(多様性)のためのイニシアチブに男性が積極的に参加する企業の96%が進展を報告しているのに対し、男性が参加していない企業ではたった30%だ。ダウ欧州・中東・アフリカ・インド担当社長ニール・カー氏は、チューリヒで最近開催されたカタリストのイニシアチブMARC(Men Advocating Real Change、真の変化を支持する男性たち)のイベントで、会場の男性たちにこう言った。「問題の一部となるか、解決策の一端を担うかは、あなたたち次第だ」

課題になるのは「どうやって?」だ。カタリストによるEngaging Men(男性を巻き込む)という調査では、男性の参加を阻む主な3つの障壁は、無関心(74%)、恐怖(74%)、無知(51%)だと判明した。また、男性を支配的なリーダーとする現在の職場文化は「公平」でないと男性がいったん認めれば、彼らがもっと行動を起こす気になるということも分かった。

しかし男性をジェンダー平等に向けたイニシアチブに支持者として巻き込むには、職場における伝統的な男らしさの規範にも取り組むことが不可欠だ。86%の男性が職場での性差別を断ち切りたいと述べているのに、行動に移す自信があるのは全体の3分の1以下(31%)だ。では、何が男性を気後れさせているのだろうか?

障壁の1つは「男らしさへの不安」だ。「男」であるために社会が求める厳しい基準を自分が満たしていないと思う時、90%の男性が職場でこの不安に苦しむことが分かっている。「男らしさへの不安」は、過度に競争・闘争を志向する職場文化によって浮き彫りになる。同僚や組織文化に声を上げたり反対したりすることで、その男性がペナルティーを被ったり、こうした排他的集団から仲間外れにされる事態もあり得る。

男らしさに対する厳しい基準は、男性やその周囲の人々へのネガティブな影響を引き起こす可能性もあり、例えば、身体に悪い行いや、メンタルの問題、高い自殺率に関連してきた。男性たちは、ジェンダーのバランスがより取れた職場から、大きなメリットを得る。彼らはもっと自由に自分らしくいられるようになり、子育てにより深く関わり、より健全な人間関係を楽しみ、稼ぎ手や保護者でいなければというプレッシャーは少なくなる。

職場で求められる男らしさを撲滅するには、不愉快な話し合いと、伝統的なジェンダー規範の再評価が必要になる。影響力を持った経営陣がジェンダー平等を支持し、性差別にゼロトレランス(徹底的に不寛容な態度)を示すことは、重要な後押しの1つになる。職場文化のトップがそうした行いにゼロトレランスを見せれば、それが下の層まで浸透する。アカウンタビリティーも極めて重要だ。組織は、包摂力のあるリーダーや、職場文化の変革を積極的に推進する人々に報奨を与えなければならない。同様に、平等とインクルージョン(包摂)へのコミットメントを示さない人々は、然るべき結果を与えられるべきだ。

男らしさの厳しい定義によって生じる制約から男性が解放され、平等とインクルージョンの支持者にならない限りは、職場、そしてスイスにおける女性のための進歩は遅々としたものであり続けるだろう。

女性に「自信を持て、声を上げろ、積極的になれ」と呼びかけても、男性に「強くあれ、大黒柱でいろ、男らしく毅然としろ」と言い続けていては意味がない。今こそ、こうした制限をかけるようなジェンダーのステレオタイプをきっぱりとやめるべき時だ。

英語からの翻訳:アイヒャー農頭美穂

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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