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自分を売れない、アピールが苦手なスイス

フィーアヴァルトシュテッテ湖と戯曲ウィリアム・テルの作家シーラーの記念碑。観光ポスターにぴったりのスイスを美しいと思わない人はいないはず(写真 ペーター・リューガー)

たとえば国民投票後の外国メディアの反応。外国人が抱くスイスのイメージにぴったりと合う。

しかし、外国人が抱くスイスのイメージと現実のスイスの姿に大きなギャップがあるのは確か。観光客を呼び込もうとするポスターの責任か、外国人が持つ固定観念を是正するすべを知らないスイス人が悪いのか。

 6月に行われた国民投票では、欧州連合(EU)からスイスに流入する人の行き来を自由化するシェンゲン・ダブリン条約が批准され、キリスト教会や保守派が反対する同性愛者法も認められた。しかし、こうしたスイスの新しい政治上の動きを欧州諸国は驚きを 持って捉えた。一方、スイス人はスイス人は保守的であるという固定観念から発せられる外国の反応に、名誉を傷付けられたとさえ感じたのである。

美しいアルプスの風景より開かれたスイスのイメージを

 欧州におけるスイスのイメージは、山、牛、チーズに代表され、直接民主主義の原型であるランツゲマインデでは保守的な決議がなされるというものだろう。ところが、某プライベート銀行のパンフレットは、こうしたフォルクローレ的な観念に疑問を投げかける文章が書かれている。「保守的で後ろ向きな考え方をし、永世中立については時代遅れの解釈をする人が多いと考えられているスイス。しかし、その経済は輸出産業に頼り、世界にまたがる顧客を抱える金融業が栄えた。これもスイスの一面なのだ」

 実際スイスに住んでみれば分かるが、スイス人は外国人や異国の文化に対して柔軟で寛容であり、外国人との共存にも慣れている。しかしスイス国外から見ると、スイスのこうした実態は理解されていないようだ。

観光業界の広告の責任か

 スイスは山奥に隠れた国であるというイメージに外国人は「侵されている」。観光旅行者用のポスターが時代とともに更新されようが、根底に流れる基調が画一化されている責任もあるのではないか。「そうした面もあるだろうが、まったくそれだけが理由というわけではないだろう」と反論するのは、観光協会会長のギュリエモ・ブレンテル氏。「確かに外国人が抱くスイスに対する固定観念を覆すような広告はない。しかし、観光客を対象とした広告であり、観光用のポスターが、特別センスがないとも思わない」という。

 しかし、いつまで経っても美しい山とヨーデルのスイスを焼き直ししたような宣伝で、観光業界、しいてはスイスの将来が約束されるかは疑問だ。15年後には世界の観光業は現在の2倍に拡大すると予測されている。一方、スイスにおける観光はこのところ減少の傾向が続いている。

 チューリヒの場合は特に、美術館めぐりやショッピングなどのいわゆる観光のほか、物産展への参加、国際会議や商用で訪れる外国人も多い。こうした人に対するスイスのアピールは、今までとは違ったアプローチがあってよいのではないだろうか。というのも、自然を売り物にするわけではない都市のチューリヒにおいてさえ観光業は大きな一つの産業となっており、観光収入は45億フラン(約3900億円)で、ホテルやレストランなど観光業に携わる人の数は3万8000人にのぼる。

変わるスイスをアピール

 「スイスから遠い国ほど、スイスの固定観念で作られた広告が受ける」観光ジャーナリストのペーター・クーン氏は文化や地域の差を指摘する。「スイスのことを良く知っている欧州でも以前は、スイスをすばらしい国であると感心していた。しかし、今は、スイスの『狡猾さ』という面へ興味の対象が移った」という。

 金融業界を例に取るまでもなく、スイスは、グローバル化が非常に進んだ国であり、欧州諸国の中でも独立した国家としての主張が認められ、その存在は新しく位置づけられるようになってきた。クーン氏によると「シンガポール、香港、マカオは今も昔も『都会』のイメージを持ち続けてきた。しかし、スイスはあまりにも有名になってしまった『山』のイメージを色濃く背負っている」という。

 欧州の経済、交通の要所であるはずのスイスだが、たとえばチューリヒ空港が交通のハブとしての役割を果たさなくなったことからチューリヒは、経済都市としての重要な要素に欠けてしまったことも挙げられる。こうした中、スイスの金融業界は、世界に開かれた都市としてのスイスをアピールしようと躍起である。

 たとえば、スイスとEUの違いをアピールするのはどうだろうか。そもそも、スイスのEU加盟が近い将来、実現しそうもない。EU加盟は、スイス経済の活性化に役立つこともなく、市民の意向を無視し、官僚化した機関と化しており、「加盟は望ましくない」と判断される傾向があるからだ。むしろ、EUに対抗し、政府による制度に縛られない、いわゆる「小さい政府」の下、スイスはEU諸国と比較して税率が低いといった魅力ある国になるというビジョンも浮かび上がっている。

 観光客に対してもスイスがたとえば、「ショッピング天国」になりうるというのはクーン氏。ユーロ圏では物価が高くなっている一方、スイス国内の輸入業者の独占が崩れ、輸入価格が下がっている。スイスの物価は高いというイメージも徐々に変わってゆくのではないかと指摘される。

制度的なハードル 連邦制よ永遠に

 前出のギュリエモ・ブレンテル氏は、連邦制は中央集権的国家と違って、より多くの時間とお金が必要であることを指摘する。結果、スイスを売り物にするにも、資金が不足し、スイスのマーケティングの「流行おくれ」を生み出すと指摘する。「そもそもスイスの連邦制は何かにつけコストが高くつく。たとえばオーストリアのように、中央集権的体制にあれば、中央政府が決めたことを地方に下げるだけで国全体が動くが、スイスは州ごとに法律が異なっているなど、州単位で物事が動き、経済圏単位では動きにくい。よって、国を挙げてのキャンペーンは難しい」

 さらにブレンテル氏は「連邦制であるというスイスの特殊な事情を欧州諸国は理解しなくなるという危険は現実的なものだ」と警鐘を鳴らす。スイスは特別な国であると烙印を押されることはスイスにとって、あまり良いことではないであろう。

swissinfo、アレクサンダー・ケンツレ 佐藤夕美(さとうゆうみ)意訳

補足情報

- 外国人がスイスに落としたお金97億フラン(約8500億円)
- スイス人の国内観光も含めたスイスの観光業界の総収入 203億フラン(約1兆8000億円)
- これはスイスのGDPの5.6%に相当する。(01年スイス観光協会の統計から)

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キーワード

スイスを外国にアピールするために04年から3年間、スイス観光局に対して、年間4600万フラン(約40億円)の特別予算が下りた。
州や自治体でも地元の観光を活性化する政策を進んで取り入れている。

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