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行って得する美術館・博物館 -5- 歴史という時を刻む—国際時計博物館

さすが、「時計の国」スイス。時計産業のメッカ、ラ・ショード・フォンに、世界で最も大きい時計博物館がある。14世紀から今日までの時計の歴史の変遷を眺めながら、「時」について考察してみてはいかが?

国際時計博物館を訪れるには中世の町並みが残る城下町、ヌーシャテルから北の山中に向かわなければならない。なぜ、こんな辺ぴなところに時計産業のメッカがあるのか、その不思議も探ってみる。

 中世の丘の上にそびえる城が見える、ヌーシャテルで乗り換え、急行(Regio Express)に乗ること30分。汽車はなだらかな丘陵を登って行き、左手にヌーシャテル湖を眺望しながら、牧草地、農家などのどかな景色を越えて行く。長いトンネルを抜けると突然、大きな街が出てきた。そこはもう、ラ・ショード・フォン(la chaux-de-fond)だった。

何故こんな山奥に?

 駅を降りると碁盤の目のようにモダンな街が広がる。それもそのはず、ラ・ショード・フォンは18世紀末に火事で全焼してしまったため、街を再建した建築家がニューヨークをモデルにして作ったとか。

 現在でも、時計産業のメッカと言われるこの街には老舗時計メーカーのジラール・ペルゴ(自社一環生産で有名)、レビュー・トーメン、エーベルやカルチエなどがあるばかりか、時計針や文字盤など世界の時計メーカーに部品を売る中小企業が多くある。それにしても、なぜ、こんな山奥が時計産業のメッカになったのか。時計の発祥の地はスイスではないはずだが。

 この疑問に答えてくれたのが国際時計博物館の学芸員のジャン・ミッシェル・ピゲ氏だ。「スイスは時計の発祥の地ではないのですが、19世紀に時計の機械化に成功したのが産業の転機になりました。スイス職人は米国のフィラデルフィアまで行って、新しい機械を取り入れたのです。また、ラ・ショード・フォンでは農業に従事している人が多く、農閑期の冬が長いので内職にピッタリの仕事が時計職人だったことも発展につながりました」と語る。

 19世紀にはスイスはまさに世界の時計産業を独占する状態になる。「スイスは世界時計生産の90%を担い、そのスイスでの生産の3分の2はここ、ラ・ショード・フォンで行なわれていました。だから、1900年には人口の50%が時計産業に従事していました」とピゲ氏。

 しかし、それまで機械式(ゼンマイに蓄えられた動力が歯車を回す仕組み)時計しかなかった時の話で、1970年代にクオーツ式時計(電池による水晶振動子)の発明で時計産業はさらなる大革命となり、これらの産業は3分の2まで減ってしまった。しかし、スウォッチなどの成功も手伝い、ここ20数年来にぶり返し、時計イコールスイスといった地位に返り咲いたのだ。

時計のはじまり

 「一番古い時計は1364年に英国で造られた時計の搭と言われていますが、実際はイタリアかドイツか英国かはっきりしないのです」とピゲ氏が歴史をさかのぼる。小さい懐中時計となったのが1500年代からというが、「秒針の針が現れる1700年代になるまでは針は1本でした」と説明しながら、可愛らしい懐中時計を見せてくれる。矢を射っているキューピッドの矢先にダイヤモンドがついており、それが時間を指している美しい工芸品だ。「18世紀には宮廷を中心に時計製作が発達したので、スイスよりはむしろ、フランス、ドイツや英国が中心でした」と語る。

 ピゲ氏が最も気に入っている時計のひとつという懐中時計の前で立ち止まった。天才職人、アブラアン・ルイ・ブレゲ(1726〜1823)の傑作で「『永遠時計』、パリ、1792年」と記されている。「ブレゲはヌーシャテル生まれの職人でした」と誇らしそうだ。今世紀に作られたと言われても不思議ではないシンプルで美しいデザインだ。秒針に円形、カレンダーに月型、ネジ巻きの残り時間を示すために三角形の窓が開かれている。「当時、自ら独特のデザインを作ったというのは大変斬新的で、今でも受け継がれているものです」という。「彼はデザインだけでなく技術的にもトゥールビーヨン、永久カレンダーなどといった複雑な機能を発明した革新的な職人でした」

修復アトリエも見学できる

 展示室の奥にガラス張りのアトリエが見える。そこは博物館専用の修復アトリエで館内のコレクションばかりではなく、世界各国から年代物の修理を頼まれる。訪れたときは丁度、古い中世の時計搭の修理中だった。職人が細かい道具を駆使しながら働いている姿は、昔と変わらないようだ。

 昔、修理師だったというピゲ氏は骨董品を直しているうちに時計の歴史に興味を持ったという。そのピゲ氏の腕時計を見せてもらったら普通のものだった。聞いてみたらやはり、機械式とのこと。「いや、クオーツのものも持っていますよ。この博物館でもクオーツのコーナーを設けています」と笑う。そして、「スウォッチの革命は今まで、機械部分と時計ケースが分かれていたものをプラスチックという新しい素材で、ケース自体が機械を入れる形に作られたこと」とショーケースを見せながら教えてくれた。

 博物館を出たら公園の後ろにある、現代彫刻でもあるチャイム時計を見に行くといい。時計の鐘の音を聞きながら時についてひととき考えるのもいいかもしれない。 


swissinfo、 屋山明乃(ややまあけの) ラ・ショード・フォンにて

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<ラ・ショード・フォンの国際時計博物館(Musée International d’horlogerie)>
開館時間、10〜17時。月曜休館。
入場料、15フラン(約1400円)。予約すれば日本語ガイドあり。
ヌーシャテル駅からローカル線の急行に乗り換え、ラ・ショード・フォン駅まで約30分。駅を降りてから、向かって右側に真っ直ぐ700メートルぐらい歩くと国立美術館や歴史博物館のある公園の地下にある。
展示は3000点、同博物館のコレクションは4500点にも上り、関係図書も1500冊所蔵する。研究者の閲覧可。
博物館ショップには関係図書の他、もちろん時計もお土産に売っている。安価なスウォッチなどから2000フラン(約18万円)のブランド品まで。

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補足情報

<ラ・ショード・フォンでお昼を食べるには>

- 地元の人のお勧めはレオポール・ロベール大通り(avenue Leopold-Robert)の劇場に付いているブラスリー、「ルール・ブルー(l’heure bleue)」と同じ通りで泉(Fontaine)に面したトラットリア、「フロール・ド・リス(Fleur-de-Lys)」。

- 1)ブラスリーはアール・デコ調のモダンで清潔な内装で、ブラスリー風のフランス料理が食べられる。お昼は20フラン前後(約1800円)で良心的な値段。

- 2)トラットリアはイタリア料理でピザが15フラン(約1350円)前後でスイスにしては安い。お昼のメニューも19.50フラン(約1760円)。

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