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連邦核安全監督局の独立性に疑問の声

ミューレベルク(Mühleberg)原発で行われた原子炉圧力容器の検査の様子。炉心シュラウドへの亀裂が確認されている。 Keystone

ベルン州ミューレベルク(Mühleberg)原子力発電所の炉心シュラウドに亀裂が見つかった。しかし、「悪影響はない」と、連邦核安全監督局(ENSI/IFSN、以下監督局)は安全を保証する。

これに対し、反原発団体フォークス・アンティ・アトム(Fokus Anti-Atom)は監督局をベルンの原発運営会社BKW(BKW /FMB Energie AG)の「広報役」と批判した。

 年次点検を5週間後に控えた6月末、意外にもBKWはミューレベルク原発を突然停止した。理由は、緊急冷却装置に不可欠なアーレ川からの取水機能を拡充するためだ。これにより1000年に1度の大洪水や原発付近にあるヴォーレン湖(Wohlensee)ダムの決壊のような未曾有の大災害が起きても正常な作動を保てるようにするという。

 こうしてミューレベルク原発は再びメディアの注目を集めることになった。月2回発刊の法律、金銭、生活に関する問題を扱ったドイツ語圏の雑誌「ベオバッハター(Beobachter)」は、原子炉内部に見つかったひび割れは高さ9メートルの炉心シュラウドを完全に貫通していると報じた。炉心シュラウドとは圧力容器内の構造物で、燃料棒や制御棒を取り囲むものだ。

 監督局は即座に「ミューレベルク原発の炉心シュラウドのひび割れで悪影響が出ることはない」とウェブ上で安全を保証。ひび割れがあっても原発は安全管理技術の規定を満たしており、セキュリティ構造が虚弱になることはないと主張している。監督局はこれをBKWが作成したアニメーションを使って説明した。

「BKWの宣伝」

 スイス国内にある原子炉5基の稼動停止を求めて活動する団体フォークス・アンティ・アトムのマークス・キューニ氏は「BKWの宣伝ビデオ」の利用を「新たに露呈した最低の仕事ぶり」と監督局を厳しく非難する。

 このキューニ氏の批判に対し、監督局の執行役で、炉心シュラウドのひび割れは問題ないとの報告書を共同執筆したペーター・フルリー氏は、他紙ですでに見解を述べていることから今回改めて釈明しようとはしなかった。フルリー氏はベルン州の日刊新聞「ブント(Bund)」に対し、BKWの映像は「炉心シュラウドの構造を分かりやすく示すために使っているだけだ」と語っている。

 フォークス・アンティ・アトムはその憤りを公開書簡で露わにした。この書簡では、炉心シュラウドが「炉心圧力容器内でさまざまな中心的機能を担っている」ことを強調している。これに対し監督局は、冷却水の通路を形成するという炉心シュラウドの役目を第一に挙げている。

「緊急停止が作動しない恐れも」

 キューニ氏は、炉心シュラウドの損傷により、燃料棒と制御棒を正しい位置に保持している格子板がずれる可能性があると言う。もし燃料棒がずれると、制御棒の挿入に支障が起き、最悪の場合、原子炉の緊急停止が作動しなくなるとキューニ氏は警鐘を鳴らす。

 また、これまでの監督局の行動にもキューニ氏は不満を隠せずにいる。監督局はドイツの民間製品検査機関テュフ・ノルト(TÜV Nord)に鑑定を求めたが、その結果炉心シュラウドの安全機能に不備が多数認められた。しかし、この結果報告は非公開にされた。そのため、ミューレベルク原発付近の住民は訴訟により報告書の開示を勝ち取らなければならなかった。

 キューニ氏がそれ以上に不当と感じるのは、2009年にすでに貫通したひび割れが見つかっていながら、監督局はそれを年次報告書に記載する必要がないとしたことだ。

 キューニ氏の分析が確かであることは、前出の冷却装置への取水に関する問題を見ればよく分かる。キューニ氏は昨年2月、この問題に関する報告書を書き、その中で、ミューレベルク原発の上方にあるヴォーレン湖ダムが決壊した場合、洪水後に最後まで作動を続けるはずの緊急冷却装置にうまく注水できなくなると警告した。これは、配管が漂流物や土砂で詰まるからだ。

フクシマが証明したこと

 そして、今回の福島第一原発の大事故でキューニ氏のシナリオは否が応でも注目されるようになった。福島第一原発では冷却水の配管の損傷が3基での炉心溶融を促した。これは1986年のチェルノブイリ原発事故以来最大規模の原発事故だ。

 福島の事故から3日後、キューニ氏は大急ぎで書き上げた報告書を監督局とBKWに提出し「態度表明と修正」を求めた。しかし何日間待っても反応がなく、キューニ氏はフォークス・アンティー・アトムの助けを借りて公の場に出た。それ以降も監督局からの返答は得られていない。

 ミューレベルク原発の洪水による危険性に関して、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)の水文学者が提出した所見はまさにキューニ氏と同じ結論だった。その後、BKWは緊急措置として原発の稼動停止に踏み切った。

 だが本来ならば、監督局はすでに2009年12月の時点で法律に従ってしかるべき措置を取っていなければならなかった。なぜなら、当時フランス南部にあるクリュア(Cruas)原発でローヌ川からの漂流物が冷却装置に詰まり、原子炉の緊急停止を招くという事態が発生したからだ。

外部専門家を

 監督局が十分に独立していないことに対し、反原発を旗印にする団体や政党を始め、左派から中道派の政党に至る広い範囲で批判が高まっている。市民民主党(BDP/PBD)の党首ハンス・グルンダー氏はドイツ語圏の日曜紙「ゾンタークス・ツァイトゥング(SonntagsZeitunng)」に対し、「監督局には独立性を重要視する姿勢が欠けている」と語った。このことは今年6月の前局長ペーター・フフシュミート氏の退任からもうかがい知れるという。フフシュミート氏は原発運営会社、特にBKWとは懇意な間柄だったとささやかれた。グルンダー氏は外部専門家による委員会の結成を求めている。

 監督局への信頼を高めるためには、連邦内閣が議会に提出した報告書で述べられた原則に基づき監督局法を改正すべきだとキューニ氏は主張する。「連邦議会で希薄化されてしまったが、報告書では経済が優先されるか、安全が先にくるかという問題が第一に取り上げられていた」と言う。

 また、「リスク評価や地震、洪水、原発の構造解析などに関する鑑定は原発運営会社ではなく、監督局が作成すべきだ。こうした調査を行う研究所は独立性確保のため、一定の基準を満たさなければならない」と語る。

秘密主義ではなく透明性を

 キューニ氏は、監督局内の報告体制を整えることが即時必要と唱えている。「個人の損害を恐れることなく問題を報告できるような体制が必要だ。それどころか法律で義務付けるべきだ」ときっぱりと言う。

 そして、それ以上に重要な点は透明性の確立だとも言う。「監督局は秘密主義に徹しており、強要されて初めて情報や文書を公開する。本来、これは逆であるべきだ。監督局はすべての情報を開示すべきで、非公開にしたいものがあれば、独立した政府系機関にそれ相応の申請をするというふうにすべきだ」と、キューニ氏は指摘する。

 さらに、非公開情報に興味がある人たちは審査を受けた後に閲覧できるようにすべきだとも言う。類似の審査はキューニ氏が参加していた連邦のテレマティクス(通信と情報科学を組み合わせたリアルタイムの情報サービス)プロジェクトでもすでに行われている。場合によっては機密事項の他言を禁止する必要も出てくるだろうが、キューニ氏は監督局の透明性を今後の課題とした。

福島第一原発の大事故を受け、今年5月、スイス政府は2034年までに段階的な脱原発を実施すると決定。

政府はスイス国内にある5つの原発の寿命を50年と計算。

夏季連邦議会で国民議会は脱原発を採択。

秋の連邦議会では、全州議会が脱原発に反対を表明すると推測される。

ベツナウ(Beznau)第一原発、運転開始:1969年、廃止:2019年
ベツナウ(Beznau)第二原発、運転開始:1972年、廃止:2022年
ミューレベルク(Mühleberg)原発、運転開始:1972年、廃止:2022年
ゲスゲン(Gösgen)原発、運転開始:1978年、廃止:2029年
ライプシュタット(Leibstadt)原発、運転開始:1984年、廃止:2034年

ドリス・ロイタルト大臣が率いる連邦環境・運輸・エネルギー・通信省(UVEK/DETEC)は連邦内閣に連邦核安全監督局(ENSI/IFSN)規制法の強化を提案。

規制法よりも厳しい内容の監督局法と釣り合いを保つため。

監督局法によれば、5~7人の顧問官は「監督局の独立性を侵害するような経済活動を営んだり、政府や州の公的機関に帰属してはならない」と規定されている。

(独語からの翻訳・編集、中村友紀)

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