アルペン縦断鉄道 工事の停滞
アルペン縦断鉄道 ( NEAT/NLFA ) 建設の最終段階にあたるゴッタルドトンネル工事の一部の入札に対し異議申し立てが起こり、この1年間工事はストップ状態となっている。
ゴッタルド峠付近、ウーリ州のエルストフェルト ( Erstfeld ) では、緊張した状況が続いている。工事は停滞し、1日の損失額は10万フラン ( 約900万円 ) に上るという。
スイス国内を通る重量トラックの貨物輸送を鉄道に切り換える計画で建築が始まった世紀の大工事、アルペン縦断鉄道建設には予想外の事態がこれまでも多く起ってきた。そのほとんどが建築費にかかわることで、納税者としてはうんざりさせられることばかりである。
入札に異議申し立て
今回の問題は「入札 151」、エルストフェルトとアムシュテーク ( Amsteg ) 間の7.8キロメートルのトンネル工事だ。工事は昨年末に開始される予定だった。しかし、この部分の工費にあたる4億3000万フラン ( 約400億円 ) 相当の入札について、異議申し立てが起こったため、この1年間工事がまったく進まない状態となっている。
アルペン縦断鉄道の工事の総元締めはスイス・オーストリアのコンソーシアムである「アルプトランジット・ゴッタルド( ATG ) 」で、入札151は昨年8月に行われた。スイス大手の建設会社マルティ( Marti ) の入札額は最低額より260万フラン ( 約2億3000万円 ) 高く、受注を逃した。しかし、マルティは入札方法に疑問があるとして「連邦異議申し立て委員会」に異議申し立てを行い、これが認められた。ところが、ATGは今年5月になって、「詳細に渡る分析を行った末」1年前の決定は妥当だったと委員会の決定を覆した。マルティは再度申し立てを行ったところ、委員会はやはりマルティが正しいと認めた。
マルティによると、入札には公平さと透明さが欠けてていたという。入札には詳細に渡る費用が明示されることが条件だったが、落札したストラバック ( Strabag ) 社 は、一括費用を提示していた。委員会は工事の変更があった場合、ストラバックはマルティより高くつくとも判断している。
毎日10万フランの損失
発注は座礁し、ATGは袋小路に入り込んでしまった。いずれに決定しても、入札にもれた方から異議申し立てを受けるからだ。そもそもすでに8カ月は遅れているといわれるトンネル工事がさらに遅れるばかりではなく、1日10万フラン、1カ月で300万フラン( 2億8000万円 ) の損失を出している。総額22兆円の工事規模としてはこれは小額と連邦交通省は見るが、連邦異議申し立て委員会が受注会社の決定を2度も覆した事態は異常だ。
エルストフェルトの入札問題をめぐり、国会議員からもアルペン縦断鉄道計画に対する不信の声が高まっている。「工事の幹部の連邦政府に対する陰謀だ。政府はこれに対処する必要がある」( ティス・イェニ上院議員、国民党 ) といった厳しい意見もあり、モリッツ・ロイエンベルガー 交通相は工事のコントロールを失ったとも批判されている。ロイエンベルガー交通相は、連邦異議申し立て委員会の決定には影響を与えることはできないが、両建築会社の仲裁に入ると明言した。
swissinfo、ダニエレ・マリアーニ 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳
1999年、連邦議会によりアルペン縦断鉄道工事に126億フランの予算が認められる。
2001年、物価値上がり、経費の拡大により予算は147億フランに増加。
現在、経費は165億フランと見込まれているが、最終的には240億フラン、日本円で2兆2500億円になるともいわれている。
1998年に国民投票により可決された。
計画は3つの柱からなる。
1) ゴッタルド軸、特にエルストフェルト ( ウーリ州 ) からボディオ ( テティーノ州 ) までをトンネルで通す。工事は1999年から始められ、2016年に開通の予定。現在、ずべてのトンネルをあわせた全長153.5キロメートルのうち100キロメートルまで完成しているが、現在工事はストップされたままになっている。
2) レッチベルク・シンプロン軸、レッチベルクトンネルは全長34,6キロメートルで、フリュティゲン ( ベルン州 ) とラロン ( ヴァレー ) の完成は2007年と見込まれている。レッチベルクトンネル以外、他のトンネルの全長99キロメートルについては昨年に工事は終了した。
3) スイス東部の鉄道網をアルペン縦断鉄道に接続させる。また、ザンクトガレンとアルトゴルダウ ( シュヴィーツ州 ) 間の鉄道網の充実計画。
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