クシュパン内相の診断書
医療費の増大により、スイスの医療制度は病んでいる。国の医療費を減らすための制度改正が議会で審議されている最中だが、パスカル・クシュパン内相はこのほど、来年から行われる3つの対策を発表した。
松葉杖などの医療機器に対して保険から支払われる金額の上限を引き下げることや、効力が同じでも高い方の薬を選ぶ患者に対しては自己負担を上げるといった措置だが、政府はあくまでも市場原理を優先すると強調している。
クシュパン内相がこのほど提案した3つの案は、保険の対象になる医療サービスの見直しである。患者に対してコストの低いサービスを選ぶように仕向け、来年末までにおよそよ77億円以上の節約を達成しようとするものである。
3つの対策
まず、ジェネリック薬の推奨。ジェネリック薬は特許期間が切れた薬を他の製薬会社がノーブランドで製造するため、値段は安いが効力は同じ。それでもオリジナルの薬を望む患者には、薬代の2割を負担してもらう。ジェネリックの場合はこれまでと同様に1割負担とする。「そもそもジェネリック薬は安いので、これに代えることで、患者の負担はより軽くなるはず」と患者の発想次第では魅力ある提案だと保険局は言う。
また、松葉杖のような付属医療機器に対する保険の支払い金額の上限を下げる。製造者が保険の支払い金額の上限に近い値段の製品を作る傾向にブレーキを掛け、安価な製品を作ることを促進する。
3番目の措置は、検査コストの見直し。検査はポイント制で健康保険会社に申請されるが、これまで1ポイント1フラン(約90円)と換算されていたところを1割下げる。機械の性能が上昇し、検査にかかる実際のコストが以前より下がっていることが理由として挙げられた。
急を要する節約
現在、医療費の削減対策が議会で審議中だが、結果が出るまでには時間が掛かると見られている。「議会で審議に時間を取られているうちに、医療費はどんどん膨らむ。できることからすぐに実行していくしかない」とクシュパン内相。以上の3点については法改正は必要なく、早速来年1月1日から実行される。
ジェネリック薬の促進については、削減額の見積もりが難しいと、保険局は具体的な数字を挙げることを避けているが、他の2つ案で2006年までに、8600万フラン(約77億円)以上のコスト削減が見込まれるという。
外国へ安い病院を求めて
外国で病気になった場合の保険については、基本保険の対象外であり、別途、特別な保険に加入する必要がある。しかし、スイスでは医療費が安い外国の病院での治療に普通の保険を適用させようという動きもある。すでに外国での病後の療養コストを負担する健康保険会社も一部ある。
政府は、国境付近にある限られた病院を対象にするという案を提出したが、医療の質の管理などの検討があり、議会の審議も必要となる。試験期間を設けるなど実現されるとしても時間がかかる。
ジェネリック薬の促進、安い外国の病院を保険対象にするなど、政府の方針は「患者に強制するのではなく、あくまでも市場原理を優先する」とクシュパン内相は強調した。
「安かろう、悪かろう」という先入観を捨て市場原理が働けば、患者の選択の幅も広まる。しかし、医療関係者の反発も予想される上、国の方針が医療サービスの質の低下につながると国民が判断すれば、増え続ける医療費の負担はこれまで通り保険料の引き上げでカバーするしかないが、負担増に対する不満の声は、ますます大きくなる一方だ。
swissinfo、 佐藤夕美(さとうゆうみ)
<国内総生産(GDP)に対する医療費の割合>
- 1985年8%
- 1995年9.5%
- 2003年11.5%
<スイスの医療費総額>
- 2003年はおよそ500億フラン(約4500億円)。
- 一人あたり6736フラン(約60万円)。
<スイスの保険制度>
基本的なサービスを保証する基本健康保険への加入は強制だが、民間の保険会社の手に運営はゆだねられている。医療費が年々増加するため、保険料もそれに従って上昇している。2005年は保険料が2.5%増加した。
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